QAで学ぶ契約書作成・審査の基礎第25回 業務委託契約(契約条項)1
2022/06/01   契約法務

 

今回から業務委託契約の具体的条項について解説します。今回は、以下のQ1とQ2です。

Q1:契約前文・目的

Q2:本業務の実施条件と受託者の協力

Q3:業務終了報告書の提出

Q4:成果物の納入・受入検査

Q5:委託料およびその支払条件

Q6:再委託等

Q7:任意解除

Q8:契約不適合責任

Q9:成果物の著作権

Q10:個人情報の取扱い

Q11:その他条項・契約書全体

なお、本稿で解説する業務委託契約で委託される業務は、成果物の納入を要しない業務または成果物の納入がある場合でもその成果物は提案書、調査・分析報告書等の文書である業務に限り、物品の製造やコンピュータプログラムの開発等は含まないものとします(これらの業務の委託に関する契約は製作物供給契約、ソフトウェア開発請負契約等は別の契約として解説)。また、本稿で解説する業務委託契約書(ひな型)全文のPDFはこちらにあります。

 

Q1:契約前文・目的


A1: 以下に規定例を示します。

業務委託契約書


○○○○(以下「甲」という)および○○○○(以下「乙」という)は、甲から乙に対する業務の委託に関し、以下の通り契約(以下「本契約」という)を締結する。


第1条 (契約の目的)


本契約に従い、甲は乙に対し本契約添付別紙(以下「別紙」という)に定める内容および範囲の業務(以下「本業務」という)を委託し、乙はこれを受託する。


以下は別紙の冒頭部分と該当部分です。(*1)、(*2) ......は後で解説するための番号です。
 

別  紙


[記載上の注意事項]


(1)委託業務の内容に応じ、各記載項目のうち該当する項目について必要事項を記載すること。また、必要に応じ記載項目を適宜追加・修正すること。(*1


(2)各項目について記載すべき内容が他の資料に記載されている場合は、『○○○○日付け「〇○○○○提案書」項目IIIに記載の通り。』のように記載してよい。その資料またはその写しを本契約書の最後に添付する場合は『本契約書添付○○○○付け......の通り。』のように記載すること。(*2)


1.本業務の内容および範囲:[本業務の内容・範囲について疑義が生じないよう具体的かつ明確に記載すること](*3)


(1) ......


(2) ......


(3) ......


(4) 乙が期限内に成果物を納入すべき場合には成果物の名称、仕様(成果物が備えるべき要件)等: ...... (*4)


■本業務の範囲外の事項: [特に疑義が生じ易い事項等に関し記載すること] ...... (*5)


【解 説】


業務委託契約で委託する業務の内容および条件は多種多様です。そこで、この契約例では、委託業務の内容、実施条件を含め、個々の業務委託ごとに異なり得る内容は別紙に記載することとしています。

但し、別紙の書式はサンプル的なものであり、必ずしもこの書式にこだわらず、後日疑義・争いが生じないよう、委託業務の内容、実施条件等を可能な限り具体的・客観的に記載することが重要です。

上記の別紙の書式では、別紙に記載すべき事項とその記載方法を、各当事者のビジネス部門(営業部門または購買部門)の担当者および法務担当者が分かり易いように、最初の[記載上の注意事項]の部分と各項目中の[  ]内に記入上の注意事項を記載しています。これらの注意事項は契約書完成時点で削除してもそのまま残してもどちらでもいいでしょう。

別紙の記入方法としては、(i) 最初にビジネス部門担当者に必要事項を記入してもらいそれを法務担当者がビジネス部門担当者にヒアリングしながら完成する、(ii) 最初から法務担当者がビジネス部門担当者にヒアリングしながら完成する、(iii)委託料金が少額で特に問題も生じそうにない取引であれば、ビジネス部門担当者に記載してもらい法務担当者がその記載内容に問題がないと判断すればヒアリングは省略してそのまま採用する等の方法があるでしょう。

[記載上の注意事項]

(*1)この別紙の書式では、この書式を可能な限り汎用的に使えるよう、様々なパターンの記載項目を列挙しています。従って、実際にこの書式に記入する場合には、「委託業務の内容に応じ、各記載項目のうち該当する項目について必要事項を記載すること。また、必要に応じ記載項目を適宜追加・修正すること」としています。

(*2)業務委託を行う前に、受託者(乙)から委託者(甲)に委託業務の内容・条件に関する提案書等が提出され、委託者がその内容・条件に納得して委託を決定している場合があります。このような場合においてその提案書等に別紙に記載すべき事項が記載されているときは、別紙においてその記載箇所を引用し具体的記載を省略できることとしています。

(*3)「1.本業務の内容および範囲」:例えば「○○○○に関するコンサルティング」と記載しただけでは、後日、業務の内容・範囲に関し争いになる可能性があります。そこで、最低限コンサルティングの具体的な対象項目を列挙する等、可能な限り本業務の内容および範囲が明確になるよう具体的に記載することが必要です。

(*4)「(3) 乙が期限内に成果物を納入すべき場合には成果物の名称、仕様(成果物が備えるべき要件)等」:例えば、コンサルティングや調査・分析の結果に基づく提案書、調査・分析報告書等(単なる業務終了の報告書は含まない)を作成しそれを成果物として期限内に委託者に納入することを受託者に義務付ける場合には、その名称、仕様(成果物が備えるべき要件)等を記載することとしています。この仕様は、成果物の検収や契約不適合責任の基準となるので、仮に物品やコンピュータプログラムの仕様書のようなレベルでは記載できないとしても、最低限成果物の内容として含まれるべき項目・要素等、成果物が備えるべき要件を可能な限り具体的・客観的に記載することが重要です。

なお、「期限内に」とあるように、本契約例で想定している成果物は、(準)委任(委任または準委任の意味。以下同じ)における成果報酬型の成果(請負ではないから受託者にその完成責任はない)ではなく、請負において一定の期限内に引渡しを要する目に見える目的物(完成すべき仕事の結果)です。

(*5)「■本業務の範囲外の事項」:本業務の内容として、いくつかの業務を列挙した上で最後に「その他上記各業務に付随する業務」等と記載することがあります。これは、委託者側にとっては有利かもしれませんが、受託者側にとっては、どこまでが「付随する」業務なのか不明なため予想外の業務まで委託者から要求され紛争となるリスクがあります。従って、特に受託者側としては、疑義が生じ易い事項をここに記載し、委託業務の範囲外であることを明確にしておく必要があります。

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Q2:本業務の実施条件と受託者の協力


A2: 以下に規定例を示します。

第2条 (本業務の実施条件および甲の協力)


1.乙は、本業務を、別紙に定める内容および実施条件に従い、善良な管理者の注意をもって実施するものとし、成果物の納入その他仕事の完成を要する業務については更にその仕事を完成する義務を負うものとする。


2.本業務を実施するために必要な費用は乙が負担するものとする。但し、別紙に甲が負担すべき費用が定められている場合は、別紙に定める条件で甲が負担するものとする。


3.乙は、労働法規その他関係法令に基づき本業務に従事する者(以下「業務従事者」という)に対する雇用主としての一切の義務を負うものとし、業務従事者に対する本業務遂行に関する指示、労務管理、安全衛生管理等に関する一切の指揮命令を行うものとする。


4.乙は、本業務遂行上、業務従事者が甲の事務所等に立ち入る場合、甲の防犯、秩序維持等、甲の施設立入りに関する諸規則を当該業務従事者に遵守させるものとする。


5.甲は、別紙に、乙が本業務を実施するために、甲による情報・資料・機器・場所等の提供、本業務の進捗状況・内容等に関する中間確認および乙との協議、その他甲が実施または協力すべき事項が定められている場合には、当該事項を別紙に定める条件に従い実施するものとする。


以下は別紙の該当部分です。
 

2.本業務の実施条件


(1)本業務の委託期間を定める場合にはその委託期間並びにその自動更新を定める場合は不更新の予告期間および更新後の契約期間に関する定め: ......


(2)本業務の完了期限を定める場合にはその期限: ......


(3)乙が成果物を納入すべき場合には成果物の納入期限、納入場所、受入検査期間等: ......


(4)本業務の実施場所を限定する場合にはその実施場所: ......


(5)本業務の実施方法を限定する場合にはその実施方法: ......


(6)乙が本業務を実施するために支出する費用であって、委託料とは別に甲が負担すべき費用がある場合は、その費用の内容、負担・支払いの条件等: ......


(7)乙が本業務を実施するために、甲による情報・資料・機器・場所等の提供、本業務の進捗状況・内容等に関する中間確認および乙との協議、その他甲が実施または協力すべき事項を定める場合には当該事項およびその条件:


(8) 本業務の業務従事者またはその条件を限定する場合にはその内容(氏名・役割または資格・経験年数等)」: ......


(9)上記の他、本業務の実施条件がある場合にはその条件: ......


【解 説】


(第2条第1項)

「本業務」:例えば、別紙に記載される業務が「○○○○に関するコンサルティング」の場合、通常、それは準委任の対象業務(以下「(準)委任業務」)と判断されるでしょう。一方、別紙に記載される業務がコンサルティング結果に基づく提案書の納入である場合、通常、それは請負の対象業務(以下「請負業務」)と判断されるでしょう。このように、本契約例では、別紙に記載される業務の種類を限定せず、「本業務」は、(準)委任業務である場合も請負業務である場合もあるという前提となっています。

「別紙に定める内容および実施条件に従い」 民法644条では、(準)委任について、「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。」と定められています。しかし、本契約例では「委任の本旨」という抽象的で不明確な言葉を避け、また、請負業務にも適用可能な、より具体的・明確な「別紙に定める内容および実施条件」に置き換えています。

「善良な管理者の注意をもって」これは、本業務が(準)委任業務の場合は、民法644条に善管注意義務が定められているのでそのことを確認したものということになります。一方、請負業務の場合は、民法上善管注意義務を課す規定はありませんが、本契約例では、以下のような理由から、請負業務についても同様に善管注意義務を課しています

(a)請負業務が、例えば、コンサルティング結果に基づく提案書という成果物の納入である場合、提案書でカバーされるべき項目・要素等によりある程度の仕様を定めることはできるとしても、その品質(記述の正確性・適切さ等)まで規定することは困難です。そこで、本契約例では、請負業務についても善管注意義務、すなわち、その種の業務を委託された者として通常期待される専門業者としての知識・経験・能力に基づく注意義務を課すことにより、その業務の品質を担保しています。例えば、納入された提案書が仕様に定める項目・要素はカバーしているが、その記述内容が専門家としてあり得ない誤った記述や不適切な記述であれば、委託者は受託者に契約違反の責任を追及し得ることになります。

(b)一方、請負業務が、例えば、修理、警備、清掃等の、成果物の納入(仕事の目的物の引渡し)を要しない請負業務である場合も、その修理等の方法・内容が専門業者としてあり得ない誤ったものまたは不適切なものであれば、この規定により、委託者は受託者に契約違反の責任を追及し得ることになります。[1]

「成果物の納入その他仕事の完成を要する業務については更にその仕事を完成する義務を負う」善管注意義務だけ規定したのでは本業務は全て(準)委任業務であるとの疑義が生じるかもしれませんが、本契約例では、請負業務については、善管注意義務に加え、民法632条に定める請負の「仕事を完成する」義務があることを明確化しています。

(別 紙 - 2)

「(1)本業務の委託期間を定める場合にはその委託期間およびその自動更新を定める場合は不更新の予告期間および更新後契約期間」:委託業務としては、単発の業務(例:特定の案件に関するコンサルティング)と、委託期間を定めた継続的な業務委託(例:顧問契約)が考えられ、本契約例では後者に関し記載することとしています。また、自動更新を定める場合にはそれについてもここで記載するようにしています。これは実質的には契約期間の定めと同じなので、本契約例では別途契約期間に関する規定は置いていません。

「(2)本業務の完了期限を定める場合にはその期限」: 例えば、修理等の完了期限を定める場合に記載する。

「(3)乙が成果物を納入すべき場合には成果物の納入期限、納入場所、受入検査期間等」例えば、「○○年○○月○○日までに甲の○○事業所において納入すること」等と記載。

「(4)本業務の実施場所を限定する場合にはその実施場所」:例えば、委託者の事務所内に常駐して本業務を実施する等の場合に記載します。

「(5)本業務の実施方法を限定する場合にはその実施方法」:例えば、コールセンター業務の委託の場合、委託者作成の特定のマニュアルに従うこと等が考えられます。

「(6)乙が本業務を実施するために支出する費用であって、委託料とは別に甲が負担すべき費用がある場合は、その費用の内容、負担・支払いの条件等」(準)委任の場合、民法上、委託業務を処理するために必要な費用は、受託者ではなく委託者が最終負担することになっています(649,650)が、本契約例では、原則として受託者(乙)が負担するものとし、甲(委託者)に負担させる場合は別紙に記載することとしています。なお、請負の場合は、元々、民法上、(準)委任のような規定がなく請負人が費用を負担することになっています。

「(7)乙が本業務を実施するために、甲による情報・資料・機器・場所等の提供、本業務の進捗状況・内容等に関する中間確認および乙との協議、その他甲が実施または協力すべき事項を定める場合には当該事項」:例えば、委託者の社内システム・制度の改善に関するコンサルティングの委託の場合、受託者がコンサルティングを行うためには、まず最初に、委託者から現行の社内システム・制度の状況に関する情報・資料を提供してもらう必要があるので、その情報・資料の名称、内容、提供期限等を記載する必要があります。受託者としては、これらが委託者から適時に提供されないため委託業務の進捗に遅延が生じた場合に委託者にその提供を督促できるよう、また、その遅延の責任を追及されないようにするため記載する必要があります。

「(8)本業務の業務従事者またはその条件を限定する場合にはその内容(氏名・役割または資格・経験年数等)」:例えば、受託者が業務受注前に提案した者が担当者になるからこそ委託者がその者の知識・経験を信頼し業務を発注したような場合、受託者だけの判断でその担当者を交替されたのでは、委託者の期待した業務内容・結果を得られなくなるおそれがあります。そこで、そのような場合に備えて、ここで担当者の氏名・役割または担当者の資格・経験年数その他の条件を記載できるようにしています。

「(9)その他の本業務の実施条件がある場合にはその条件」:上記以外で受託者が本業務を実施する条件を記載します。例えば、コールセンター業務の委託の場合、コールセンターでの対応時間帯・曜日の定めが考えられます。

(第2条第3項)特に、受託者の業務従事者が委託者の事務所内に常駐して本業務を実施する場合や業務従事者が限定されている場合、実質的に労働者派遣法上の労働者派遣であると認定されるおそれがあります(第24回Q5参照)。この認定は、あくまで実態に照らして判断されるので、第3項のような規定を置いたからと言ってかかる認定を免れるものではありませんが、念のため確認的に規定したものです。

(第2条第4項)第4項は、労働者派遣と直接の関係はありませんが、やはり常駐等の場合を想定した規定です。

(第2条第5項)上記の別紙の「(7)...」に対応し、委託者に協力義務を課すための規定です。

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今回はここまでです。

 

「QAで学ぶ契約書作成・審査の基礎」シリーズ:過去の回


 

[2]

【注】                                   

[1] (a)、(b)とも善管注意義務違反の他、請負の対象である仕事が「完成」していないという主張も可能かもしれない。

[2]

 

【免責条項】


本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては, 自己責任の下, 必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐ等してご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】


浅井 敏雄  (あさい としお)


企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事


1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を日本・米系・仏系の三社で歴任。1998年弁理士試験合格 (現在は非登録)。2003年Temple University Law School  (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事, 国際商事研究学会会員, 国際取引法学会会員, IAPP  (International Association of Privacy Professionals) 会員, CIPP/E  (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】


https://www.theunilaw2.com/


 

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