【コラム】法務部門のリーダーの役割とは?他の部門とは全く違う?
2022/03/22   法務部組織

マネジメントの対象となる法務部員には独特の特性がある


今日お話するのは、法務部門で働く人間であれば、誰しも多かれ少なかれ意識し夢想するポジション、「法務部門のリーダー」についてである(ここではあえて“法務部長”と呼称する)。

この法務部長という存在だが、法務部門という他部署とは異なる特性を持つ人材のリーダー故に、事業部門とは異なるニーズ、そして、立ち振る舞いが求められていると思う。
法務部員独特の特性と言えるのが、勉強癖・自己研鑽意識の高さである。

概して大多数の会社員は、平日帰宅後や休日の時間に自己研鑽などしない。学生の本業が学習であることと同じく、社会人の本業は仕事であり勉強ではないというのが一般論である。また社会人には学生のようなペーパー試験がないので勉強をしなくても本業には関係ないと考えている人が依然として多い。
一部の会社では昇格や海外赴任等の条件として一定の自己研鑽を必要とするようなハードルを設けているが、基本的に、仕事外で、自身の思い描くキャリアデザインの実現のために勉強・資格取得などを手掛けている意識の高い人材は、極めて例外的な存在である。

しかし、法務部門に永年に渡り勤続している私が見る限り、少なくても法務部員にはこの話は全く当てはまらない。多くの法務部員にとっては、会社の勤務時間外で、業務に関する学習を行うことは、ごく自然なこととなっている。

例えば、海外法務を担当する人材であれば、仕事外の時間に英語を学習するといった具合である。むしろ、法務部門の業務で仕事外での学習を必要としないような業務がどの程度あるだろうか。

このような勉強癖・自己研鑽意識の高さを備える法務部員を引っ張って行く立場ゆえに、法務部長にも高度な法律専門知識が求められる。
 

専門性とリーダシップは反比例する?


もっとも、高度な法律専門知識を備えているだけでは、法務部長は務まらない。これは永遠のテーマと言えるほど遠大な議論を伴うことであるが、専門性と組織の長として人の上に立つ器量=リーダーシップは反比例すると言われることが多い。

そもそも、年功序列・終身雇用・企業別組合という三種の神器の上に経営を成り立たせてきた日本企業において、「専門性」や「専門職」といった“専門”がつくフレーズ自体、長らく良いイメージを持たれていなかった。「専門性が高い人材」と聞いたときに、非常識、世間知らず、リーダーシップの欠如、人間関係構築が不得手といった偏見を持っている人さえいた程である。
こうした偏見はさておき、「専門性とリーダーシップとは反比例する」という考え方は非常に興味深い。

なぜ、こうした言説が一般論として定着しつつあるのか?シンプルに、マネジメント層の専門性が高すぎる場合、プレイヤー層の人間が、自分の力で問題解決しようとする意欲を失ってしまい、育成に結びつかないという点が理由の一つとして挙げられる。また、マネジメント層が本来プレイヤー層が行うべき業務を抱えてしまい、マネジメント業務よりもプレーヤーとしての業務に傾倒し、リーダシップの発揮に至らないというパターンも多々ある。さらに、マネジメント層が備える専門性がプレイヤー層の備える専門性を大きく上回っている状況下で、プレイヤー層に自分と同水準まで成長することを求めた場合、その乖離の大きさから、かえって成長意欲を失い、チームが不和に陥るケースもある。

そもそも、日本企業においては、

・マネジメント層が大方針を決め、プレイヤー層がそれに従い個々の行動をとる。その際、マネジメント層は必要以上に個々の行動に介入してはならない。
・その一方で、マネジメント層はプレイヤー層の人間の細部の行動に目を配り、ミスのカバーや成長促進に努めなければならない。

という不文律をマネジメント層に課しているところが多い。
そのため、マネジメント層の人間には、プレイヤー層ほど業務内容に精通する必要がない一方で、業務の要所を素早く察知し、プレイヤー層の行動を是正することができる資質が要求されがちである。

 

それでも、法務部長には専門性が必要だ


では、法務部長においても、上記は当てはまるだろうか。マネジメントが仕事とは言え、私は、法務部長はただのゼネラリストでは務まらないと考えている。プレイヤー層の法務業務の要所を察知し、成長促進を行うのに法律専門知識なしで行えるであろうか?答えは否である。
むろん、その役割を考えたときに、プレイヤー層に匹敵又は凌駕するほど法律に精通する必要はないであろう。しかしながら、初見の法律分野にも対応できるだけの下地(リーガルマインド・法的素養etc.)を形成する程度には、法律専門知識を備えている必要があると考える。それができないのであれば、明らかにその法務部長は勉強不足であり、より専門知識を付加する必要がある。
 

ところで、私が新入社員として地方の工場に配属となって間もない頃、中近東の現場に赴任していたという中堅社員を講師に、若手対象の講演会が開催されたことがあった。その際、私は挙手し、具体的な業務に踏み込んだ専門的な質問をした記憶がある(その内容までは記憶にないが)。
私の質問に対し、講師である中堅社員は、「自分は体で覚えてきたことをベースに仕事をしているのであって~。」といった抽象的な内容を回答した。その回答は、「若造は、つべこべ言葉でものを考えずに、黙々と仕事をして体で覚えろ。」というニュアンスが込められたものであったことを強く覚えている。
当時、日本経済は既に安定成長期に入ってはいたが、モノを作れば作っただけ売れた高度経済成長期が長く続き、専門性などよりも馬力と迎合こそが評価される時代であった。「サラリーマンに頭は要らない。要るのは、酒の強さと上とのつきあいの良さだけ。」という言葉が大手を振って歩いていた。

しかし、既にそのような時代は遠く過ぎ去り、ジョブ型雇用の導入・リカレント教育の必要性が昨今叫ばれるなど、「専門性」に対する評価は一変している。マネジメントを業とする法務部長と言えど、法律専門知識の習得を軽んじることなく、業務内外で学習する習慣を継続することが重要になりそうだ。

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

【筆者プロフィール】
丸の内の世捨て人


建設系の会社の法務部門に通算20数年在籍し、国内・海外・各種業法・コンプライアンス関連などほぼ全ての分野に携わった経験を持つ。事業部門経験もあり、法務としてもその重要性を事あるごとに説いている。米国ロースクールへの留学経験もあり、社内外の人脈も広い。


 

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