ゼロから始める企業法務(第18回)/法務チームのマネジメント
2021/11/18   法務部組織

皆様、こんにちは!堀切です。
これから企業法務を目指す皆様、念願かなって企業法務として新たな一歩を踏み出す皆様が、法務パーソンとして上々のスタートダッシュを切るための「ノウハウ」と「ツール」をお伝えできればと思っています。今回は法務マネジャーがチームをマネジメントする方法について記事にしたいと思います。

 

マネジメント経験豊富な法務は少ない


最初は1人法務でも、会社の業容が拡大すれば、それに伴い法務担当者を補充し、自らはマネジャーに昇格することになります。また、今まで複数法務でプレーヤーであったところ、上司の昇格や退職に伴いマネジャーに昇格する場合もあります。いずれも、マネジャーとなった際に評価される一番のポイントは、当然「チームを適切にマネジメントしているか」なのですが、なかなかハードルが高いです。理由は、以下の2つが考えられます。
 

(1)マネジメントノウハウが無い


法務担当者がマネジャーになる場合、大抵は今まで一人法や複数法務でプレーヤーであった場合が多く、最初から法務マネジャーとして業務を開始することは稀かと思います。そもそも法務で長期のマネジメント経験を積める会社は一部の大企業であり、ポジションが空くことも稀かと思うので、多くはマネジメント経験が浅い、または無いまま、法務マネジャーに昇格します。そのため、多くの法務パーソンにとって、部下のマネジメントについてのノウハウが無い場合が多いかと思います。
 

(2)チームで仕事をする経験が少ない


法務パーソンは、法的な知識と技術を用いて課題を解決する役割を担っているので、専門的な業務が多くなる一方、チームで仕事をする機会は多くないかと思います。また、ロースクールや資格予備校等で長期間の勉強をしてきた方が多く、他のビジネスパーソンに比べて社会人経験が少ないため、多くの法務マネジャーと部下の双方にとって、チームで仕事をするイメージは湧きにくいかと思います。
 

 

マネジメントが適切でないと、自身の評価にも影響する


以上のとおり、お互いがチームで仕事をする経験が少ない中、法務マネジャーは、細心の注意を持って、適切なマネジメントを行わないと、反感を持った部下からの反発が起こり、法務部長/室長や役員のマネジャーに対する評価も下がります。また、最も注意が必要なのは、部下と事業部が揉めない様にすることです。事業部から法務へのクレームが発生し、迅速、適切に解決できない場合は、法務全体の社内での評価が下がってしまい、上司や部下の信用も失ってしまいます。この様に、法務マネジャーは上からも下からも評価される、針のムシロの様なポジションなのですが、反対に、適切なマネジメントができれば、法務部長/室長等から信頼され、評価されます。そのためには、「複数法務のTeam up」を確立することが重要となります。
 

 

複数法務のTeam up方法


前述のとおり、複数法務で自身がマネジャーである場合は、部下を適切にマネジメントすることが自身の評価につながります。部下を適切にマネジメントするためには、まずは複数法務を組織化(Team up)する仕組みを作ることが重要です。例として、以下の方法が考えられます。
 

(1)チームの方針を決める


部下を評価する軸を定めるためにも、「チームの方針」を決めることは、非常に重要です。方法としては、「会社の知的財産を掘り起し権利化し、利益に貢献する法務」「リスクを迅速、的確に洗い出し、解決策を提案、実行できる法務」「会議体の運営を適法かつ円滑に行い、迅速な意思決定に貢献する法務」等の大方針を定め、そのためにやるべきことを個別の方針として定めることが考えられます。その際は、会社のミッション、ビジョンやOKRと紐づく内容にすると、会社全体の方針とも目線が合い、より良いと思います。
 

(2)役割分担表を作成する


日々発生する業務に対して、各担当者が場当たり的に対応するのは非効率ですし、各担当者が「お見合い」状態となり、案件を取りこぼすリスクも発生します。これらの解消のためにも、まずは大体でいいので、各担当者の「役割分担表」を作成します。Aさんは株主総会、取締役会等のコーポレート業務、Bさんは特許、商標等の知的財産業務、Cさんは景品表示法や個人情報保護法等の規制法務対応、そして全員の共通業務が契約書の起案、審査業務、といった内容です。箇条書きで書くのも良いですが、パワーポイント等にベン図を使って表すと、より可視化できて良いと思います。
 

(3)進捗管理表を作成する


事業部からのクレームで最も多いと考えられるものが、「契約書の返しが遅い」ことに対するクレームです。法務の対応が遅いことが原因で契約書の締結が遅れ、ひいてはビジネスの開始が予定より遅れてしまうことは、避けなければなりません。1人法務であれば自らの進捗のみ管理していれば良かったのですが、複数法務で業務を行うと、部下の進捗も管理する必要があります。そためには、進捗管理表を作成することが有効です。案件ごとの、取引先名、契約書名、事業部側担当者名、法務担当者名、案件受付日、希望納期、回答日、相手方からの返答日、2回目回答日・・、案件fix日、等の項目を作成し、案件を引き受けた担当者が進捗のあった都度、管理表を更新する様にルール付けすると、良いと思います。また、事業部に対しても事前に「原則として、契約書の納期は中2営業日程度ください。」と周知しておくと、事業部側も余裕をもって契約書相談をしてもらえる様になり、緊急案件も減るかと思います。
 

(4)業務フローを確立する


日常の部下の仕事をマネジメントするためには、一定の業務フローを確立することが重要です。各担当者と事業部の担当者が1対1でやり取りをすると、業務の進捗やアウトプットの品質を管理することができなくなり、トラブルが発生した場合も、検知が遅れてしまいます。そうならない様に、例えば法務の案件相談はeメールの特定のグループアドレス宛に送信してもらう、slackの特定のチャネルに投稿してもらう、DMは禁止する等、業務フローを確立し、社内に周知することで、部下と事業部のやり取りを適時的確に把握し、必要に応じて横から(それとなく)アドバイスをすることが可能となります。
 

(5)チームで問題解決する風土を醸成する


これが一番重要ですが、一番難しいです。案件の進捗管理や問題を洗い出す仕組みとしては、毎週、定例のMTGを開催し、各担当者から進捗中の案件を報告・相談する方法が一般的だと思いますが、マネジャーと部下の間に信頼関係が無ければ、形式的ないわゆる「御前会議」となり、本当に必要な報告・相談がなされないまま、ある日重大な問題が顕在化するからです。これを防ぐには、「悩んだら、一人で考えず、チームで解決する」雰囲気をチーム内に醸成する必要がります。そのためには、普段からマネジャーが積極的に部下とのコミュニケーションを図り、信頼関係を築く努力が大事です。特に、現在のコロナ禍によるテレワークが増えている状況では、コミュニケーション不足となりやすいので、毎日10~20分程度、Web会議システム等を利用した、法務チーム員による雑談の機会を設けるといいと思います。

 

いかがでしたでしょうか。皆様がこれから取り組む業務に少しでもお役に立てるヒントがあれば幸いです。

 

==========

本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】
堀切一成


私立市川中学校・高等学校、専修大学法学部法律学科卒業。
通信機器・材料の専門商社で営業に 7 年間従事した後、渉外司法書士事務所勤務を経て法務パーソンに転身。
JASDAQ上場ITベンチャー、東証一部上場インターネット広告会社、スマホゲーム開発会社、Mobilityベンチャーでの法務、経営企画等に従事後、現在はライブ動画配信プラットフォーム提供ベンチャー初の法務専任者として日々起こる法務マターに取り組んでいます。


 

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