Q&Aで学ぶ英文契約書の基礎 第29回 -  秘密保持条項(2)
2021/10/27   契約法務, 海外法務

 前回、以下の「秘密保持条項で規定すべき事項」の内、①を解説しました。今回は②の「秘密情報であることの特定の方法」を解説します。

【秘密保持条項で規定すべき事項】

①「秘密情報」の定義

②  秘密情報であることの特定の方法

③  秘密情報から除外される情報

④  秘密保持義務の内容

⑤  秘密保持期間

⑥  許される第三者開示

 


注)読み易さ・原文との照合の容易さのため一文でも適宜分解し訳を付してある。


Article 13.         Confidentiality (秘密保持) 


【「秘密情報」の定義】


13.1 In this Agreement, the Party from time to time disclosing Confidential Information (as defined below) shall be referred to as "Discloser" and the Party from time to time receiving such Confidential Information shall be referred to as "Recipient".


本契約上、(以下に定義する)秘密情報を(随時)開示する当事者を「開示者」といい、その秘密情報を(随時)受領する当事者を「受領者」という。


"Confidential Information" shall mean


「秘密情報」とは以下のもの全てを意味する。


(i) the existence and content of this Agreement,


(i) 本契約の存在と内容


(ii) patent applications included in the Licensed Patents which have not been published,


(ii) 「ライセンス対象特許」(の定義)に含まれる出願公開されていない特許出願(の内容)


(iii) Licensed Information, and


(iii) 「ライセンス対象情報」


(iv) any other information which is disclosed to Recipient by Discloser in any manner, whether orally, visually or in tangible form (including, without limitation, documents, devices and computer readable media) and all copies thereof.


(iv) その他開示者から受領者に開示される情報(口頭、視覚または有体物(例:文書、デバイス、コンピューター読み取り可能な媒体)その他開示の形態を問わない)およびそのコピー全て。


[以上前回解説]


【秘密情報であることの特定の方法】


Tangible materials that disclose or embody Confidential Information that falls under item (iv) above shall be marked by Discloser as"Confidential," "Proprietary" or the substantial equivalent thereof.


上記(iv)に該当する秘密情報を開示または具体化する有体物には、開示者により"Confidential," "Proprietary"その他これらと同等の表示がなされていなければならない


Confidential Information that falls under item (iv) above and is disclosed orally or visually shall be identified by Discloser as confidential at the time of disclosure and reduced to a written summary by Discloser,


上記(iv)に該当し口頭または視覚により開示される秘密情報は、その開示の時に開示者により秘密である旨示され(identified)かつ開示者によりその要約書が作成されなければならない


who shall mark such summary as "Confidential," "Proprietary" or the substantial equivalent thereof and deliver it to Recipient by the end of the month following the month in which disclosure occurs.


開示者は、当該要約書に"Confidential," "Proprietary"その他これらと同等の表示をし、これを開示月の翌月末までに受領者に提出しなければならない


Recipient shall treat such information as Discloser's Confidential Information pending receipt of such summary.


受領者は、当該要約書受領まで当該情報を開示者の秘密情報として扱わなければならない。


【解 説】


【秘密情報であることの特定の方法】

13.1で秘密情報として挙げられたものの内、(i)はそのままで、(ii)および(iii)は別途定義があるので、それぞれの内容が確定します。しかし、一般の秘密保持条項で秘密情報として挙げられることが最も多い(iv)の情報については受領者側からすればどれが開示者として秘密保持を望む情報なのか分かりません。そこで、ここでは、開示者(開示側当事者)に対し、以下の例のような方法で秘密情報であることを特定することを義務付けています

①文書等の有体物についてはその上に"Confidential"等の表示(マーキング)をすること。

②口頭でまたは視覚により(例:工場製造過程視察)開示する場合はその開示の際に「これからお話する(お見せする)ことについては秘密保持をお願いします」等と伝えること。かつ、その秘密情報の要約(概要)を書面にまとめ一定期間内に受領者(相手方当事者)に提出すること。この場合、念のため、受領者に対し、要約書受領前もその情報について秘密保持する義務を課しています。なお、「開示月の翌月末までに」は「開示後30日以内に」(“within thirty (30) days after the disclosure”)のような期限の方が一般的で勿論それでも構いませんが、ここでは期限計算の簡単さを考慮しこのように規定されています。

【秘密情報の定義のタイプ】

7年前に弁理士会月刊誌『パテント』(2013年5月p. 100~112)に掲載された筆者の論文「英文秘密保持契約」では「秘密情報」の定義の方法を以下の4つのタイプに分類しています(p. 102~104)。この論文で述べている通り、各タイプについてそれぞれメリットとデメリットがあります。上記条項例の定義は以下の「④ 折衷型定義」に当たります。

① 包括的定義秘密情報」を、開示情報から公知情報等を除いた全ての情報とする。

② 列記型定義:「秘密情報」を、「ソースコード○○(具体的名称,日付等)」,「付属文書××」のように具体的に列記したものに限定する。

③ マーキング型定義:「秘密情報」を、”Confidential”等でマーキングした情報(口頭等での開示後マーキングした要約書を送付する場合を含む)に限定する。

④ 折衷型定義:上記①〜③の定義方法を折衷したもの。

【最近の秘密情報の定義のタイプ】

7年前は上記のタイプのいずれかがほとんどで、その中でも(3)が最も多かったように思います。しかし、最近は、以下の太字部分のような「開示された情報の内容(nature)またはそれが開示された状況から合理的に見て秘密であると判断すべき情報」を「秘密情報」に含める例が見受けられ、このタイプの定義が急速に広がっているように思われます。

 

(Amazonのクラウドサービスに適用されている"AWS Customer Agreement"からの抜粋)


“AWS Confidential Information” means all nonpublic information disclosed by us..... that is designated as confidential or that, given the nature of the information or circumstances surrounding its disclosure, reasonably should be understood to be confidential.


「AWS 秘密情報」とは、Amazon ... により開示される非公開情報であって、秘密情報として指定される情報またはその情報の内容(nature)またはそれが開示された状況から合理的に見て秘密であると判断すべき情報を意味する。


これは、かつて最も多かった「③ マーキング型定義」に関し、口頭等での開示後マーキングした要約書を送付するというような手続が必ずしも確実には行われていないことも多く、その結果重要な情報が秘密情報に該当しないことになるリスクに対する一つの回答ではないかと思われます。

筆者も現在秘密情報の定義を作成するとすれば、上記条項例に以下の規定を追加すると思います。

"Confidential Information" shall also include any information that, given the nature of the information or circumstances surrounding its disclosure, reasonably should be understood to be confidential.


「秘密情報」には、また、当該情報の内容(nature)またはそれが開示された状況から合理的に見て秘密であると判断すべき全ての情報が含まれる。


但し、このような定義を置いたとしても、裁判等においては、開示者側がその情報が秘密情報に該当することの立証責任を負いますから、特に重要な情報については実務上可能な限りマーキングを行うことが大切です。

 

今回はここまです。次回は「③秘密情報から除外される情報」以下を解説します。

 

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズ一覧


 

[1]                 

【注】

[1]

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【免責条項】


本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては、自己責任の下、必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

(*) このシリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)

 

 

【筆者プロフィール】


浅井 敏雄 (あさい としお)


企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事


1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系・日本・仏系の三社で歴任。1998年弁理士試験合格(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員、CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe)


【発表論文・書籍一覧】


https://www.theunilaw2.com/


 

 

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