Q&Aで学ぶ英文契約の基礎(18) -  譲渡制限条項
2021/10/21   契約法務, 海外法務

 

この「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第18回では、譲渡制限(No Assignment)条項について解説します。[1]

 

Q1: 英文契約で契約上の権利の無断譲渡を禁止するにはどのように規定すればよいですか?


A1: 以下に規定例を示します。
 

No Assignment


譲渡禁止


① Neither Party shall not assign or grant a security interest in any of its rights or delegate any performance of its obligations under this Agreement to any third party without the prior written consent of the other Party.


いずれの当事者も、他方当事者の事前の書面による同意なく、第三者に対し本契約に基づく権利を移転しもしくはこれに担保を設定しまたは本契約に基づく義務の履行を委託してははならない。


Any purported assignment or grant of security interest or delegation of performance made in violation of this provision shall be null and void.


この規定に反する如何なる試みも無効とする。


② Subject to the foregoing restrictions, this Agreement shall be binding upon and inure to the benefit of the Parties and their respective successors and assigns.


上記の制限を条件として、本契約は当事者およびその承継人を拘束し、また、本契約上の利益はこれらの者に帰属する。


【解 説】

①の部分これは、日本の契約書でも規定されることが多い譲渡禁止条項と同様の趣旨のものです。

契約上の権利(債権)の移転とそれを禁止する条項は、日米英等では次のよう取扱われています。

(a) 債権は原則として移転可能です。

(b) 債権の譲渡禁止条項とそれに反して譲渡した場合の法律上の効果は、その契約に適用される法律(準拠法)がどの国の法律か、問題の債権が金銭債権か等により異なります(日本の改正民法上の扱いについてはA2参照)。

(c) 債務の移転は相手方(債権者)の同意がなければできません。

(d) 債務の履行を第三者に委託することは原則として債権者の同意なくできます。但し、それを禁止する条項は有効です。

従って、上記のように規定しても、(b)の通り、債権の譲渡禁止は有効とは限りません。しかし、それでも、国内の契約と同様、英文の国際契約でもこれを禁止する規定を置くことが通常です。

一方、債務の履行の委託の禁止は(d)の通り有効です。しかし、自社の方がサービスの提供者側で下請けを使いたい場合等は、(i) 第1文の"or delegate any performance of its obligations"の部分と第2文の"or delegation of performance”を削除するか、(ii)委託禁止の例外規定を置かなければなりません。

②の部分他方当事者の事前の書面による同意を得て本契約または本契約に基づく権利もしくは義務を移転する場合、その移転先(承継人)も本契約に定める条件に拘束され、また、本契約上の権利や利益(例:ライセンシー等としての立場)を引継ぐ(inure to the benefit of .... successors and assign)ことになります。

 

Q2:契約の準拠法が日本法の場合、改正民法(原則2020年4月1日施行)の債権譲渡規定との関係はどうなりますか?


A2: 譲渡禁止条項にかかわらず、債権者(契約の一方当事者)がした契約上の債権の譲渡自体は有効とされます。しかし、この場合、他方当事者に契約解除権が発生する可能性があります

 

【解説】

民法改正後は、当事者が債権の譲渡を禁止する特約をしても、相手方の善意悪意(その特約の存在を知っているか否か)を問わず、債権の譲渡自体は有効とされます(466(2))。従って、上記のように譲渡禁止条項で無断譲渡は無効(be null and void)と規定しても、法律上は有効とみなされることになります。

この場合でも、譲受人が特約(譲渡禁止条項)の存在について悪意の場合(知っている場合)または重大な過失により知らなかった場合は、債務者は譲受人に対する債務履行を拒否し譲渡前と同様元々の相手方である譲渡人に債務の弁済をすることができます(466(3)) 。

しかし、譲受人が譲渡禁止特約の存在を知らない(善意)場合は譲受人に対する履行を拒否することはできません

債務者は、譲受人の善意悪意を知らない場合が多いので民法改正前と同様供託することはできるものの(466の2)、金銭等の供託可能な債務以外では利用できません。更に、相手方との信頼関係等、相手方が固定されていることが重要な契約(例:代理店契約、ライセンス契約)では、契約の一方当事者が無断譲渡した後、他方当事者としてはその契約を継続すべきか否かということが問題となります

ここで、無断の債権譲渡は、それ自体有効としても、譲渡禁止(A1の条項例では第1文)に違反することにはなるので、無断譲渡された他方当事者としては、譲受人がその取引の相手としてふさわしくないときや極端な場合にはライバル企業であるときは契約を解除できないかが問題となります。

この点、法務省の見解[2]では、仮に譲特約違反になるとしても、債務者にとっては特段の不利益がないにもかかわらず、契約解除等を行うことは権利濫用等に該当し得るとされていますが、反対に言えば、そうでなければ、契約解除できることになります。

 

A3: 当社は、契約で対象となっている取引を含む事業を将来子会社に移管する可能性があるのですが、これを譲渡禁止の例外とするにはどうしたらよいですか?また、合併の場合について例外規定を置く必要はないですか。


A3:子会社への譲渡を譲渡禁止の例外とする規定については以下に例を示します。
 

Notwithstanding the above, either Party may, by giving a written notice to the other Party, assign its rights and obligations hereunder to its wholly-owned subsidiary without the consent of the other Party.


上記にかかわらず、いずれの当事者も、他方当事者の同意なく、本契約に基づく権利および義務をその100%子会社に譲渡することができる。


【注意点】 上記のような例外規定は、自社の方が契約交渉上相当優位な場合を除き、通常自社だけでなく相手方にも平等に適用される規定となることが多いと思われます。この場合、相手側も、契約を100%子会社、更にはその子会社経由100%孫会社に譲渡することができることになり、結果として取引の相手方としてふさわしくない者と取引をせざるを得ないことになるリスクもあります。

 

合併等の一般承継については、例えば米国では多くの裁判所は、A1のような譲渡禁止条項は特定承継(個別の譲渡・移転)のみが対象であり一般承継は禁止されないと解しているようです。但し、以下のような規定を置けば別です。[3]

 

All assignments of rights under this Agreement are prohibited under this provision, whether they are voluntary or involuntary, by merger, consolidation, dissolution or operation of law, or any other manner.


本契約に基づく権利の譲渡は、それが任意のものか強制的なものか、または、吸収合併(merger)、新設合併(consolidation)、解散もしくは法律の適用によるものかその他方法の如何を問わず、この規定により禁止される。


 

Q4: A3の【注意点】のリスクは分かりました。それでは、これを解決する方法はありますか?


A4: 完全な解決とは言えませんが、A3のような例外規定の追加に代え、A1の条項例の第1文を以下のように変更すること(下線部分追加)が考えられます。
 

Neither Party shall not assign or grant a security interest in any of its rights or delegate any performance of its obligations under this Agreement to any third party without the prior written consent of the other Party, which shall not be unreasonably withheld, delayed, or conditioned.


いずれの当事者も、他方当事者の事前の書面による同意なく、本契約または本契約に基づく権利もしくは義務を移転してはならないものとする。 但し、他方当事者は、この同意を合理的理由なく拒否しもしくは遅延させまたは同意に不合理な条件を付してはならない。


【解説】 同意を求められた当事者は、譲受人が何者かを見極めた上で同意するか否かや(不合理でない)条件付きで同意するか等を決めることができます。しかし、譲受人に譲渡しても契約履行に特段の不安がなくライバル企業等でもないような場合は、同意を拒否することができません。[4] 但し、何が「合理的な理由」に該当し得るかについて争いになる可能性はあります。

 

Q5: 契約の相手方の支配株主が変わったら契約を解除できる"Change of Control"という条項を見たことがあります。これと契約の譲渡禁止条項との関係を教えて下さい。


A5: "Change of Control"条項[5](以下「支配権変更条項」という)とは、以下のような場合に他方当事者(下の例ではライセンサー)が契約を解除できるとする規定です。
 

In the event of (i) any transaction or series of related transactions (including any reorganization, merger or consolidation) that results in the transfer of 50%or more of the outstanding voting power of Licensee, or (ii) a sale of all or substantially all of the assets of Licensee to another person or entity ...


(i) ライセンシーの発行済み議決権付き株式の50%以上の移転をもたらす取引または関連した一連の取引(会社更生、吸収合併もしくは新設合併を含む)または(ii) ライセンシーの資産の全部または実質的に全部の売却が生じた場合......


【解説】

"Change of Control"条項は、相手方(例:特許ライセンス契約におけるライセンシー)がライバル企業に買収された場合や、ライバル企業が相手方の過半数の株主となった場合を想定して、そのような場合に契約解除できること等を定める規定です。譲渡禁止条項と同様相手方を固定しようとする目的は同じですが、その適用場面は以下のように異なります。

- 譲渡禁止条項の対象は契約上の権利等の移転なので、相手方の支配株主が変更しただけでは同条項違反として契約を解除することはできません。これに対し、支配権変更条項では相手方はそのような場合に契約解除できると規定されます。

- 但し、譲渡禁止条項にA3の2番目の条項例を追加した場合、買収のときは同様に契約を解除できる結果となります。しかし、買収ではなく単なる株式取得による支配株主変更のときは契約解除できません。

従って、契約の相手方の固定が非常に重要で、契約の相手方が実質的に変わってしまう場合に契約を解除するためには、予め契約に、譲渡禁止条項の他"Change of Control"条項も規定することになるでしょう。

 

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第18回はここまでです。次回は、権利不放棄(No Waiver)条項等について解説します。

 

Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズ一覧


                 .                  

【注

[1] 【主な参考資料】 主に以下を参照した。

(a) 藤澤 尚江「いわゆるボイラープレート("BP")条項の研究(第6回)譲渡制限条項」国際商事法務 Vol.47,No.9(2019) p.1125-1132 (「藤澤」)

(b) 山本 孝夫「英文ビジネス契約書大辞典 〈増補改訂版〉」 2014年 日本経済新聞出版社(「山本孝夫」) p106~117

[2] 【民法改正後の債権譲渡禁止特約違反を理由とする契約解除】 平成28 (2016)年12 月2 日の衆議院法務委員会での法務省民事局長答弁参照

[3] 【合併等と譲渡禁止条項】 「藤澤」 p1127

[4] 【合理的理由のない同意の拒否】 但し上記「藤澤」によれば、英国では同意は合理的理由なく拒否できず(p1125)、米国では合理的理由なく拒否しても譲渡は有効と解される傾向がある(p1126)。従って、この場合は、この規定は確認的規定ということになる。

[5] 【支配権変更条項の規定例】 (参照)宮田 正樹「元商社ベテラン法務マンが書いた 英文契約書ハンドブック」日本能率協会マネジメントセンター 2016年 P190, 203

 

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【免責条項】


本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては、自己責任の下、必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。
(*) このシリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)

【筆者プロフィール】
浅井 敏雄 (あさい としお)
企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表


1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで複数の日本企業および外資系企業で法務・知的財産部門の責任者またはスタッフとして企業法務に従事。1998年弁理士試験合格。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員、CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe)


【発表論文・書籍一覧】
https://www.theunilaw2.com/



 

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