試用期間後の本採用拒否について
2017/11/30 労務法務, 労働法全般

1 はじめに
期間の定めのない契約で従業員を雇用する場合に試用期間を設けている会社は多いと思います。「試用」という言葉から「お試し」といったイメージを持ちやすく、そのため、試用期間中に能力不足であると会社側が判断した場合には拒否できると考えられがちです。しかし、実際には試用期間中も労働契約が成立しており、本採用の拒否には留意すべき点があります。そこで今回は、試用期間中ないし期間満了時の本採用拒否について、法務担当として留意すべき点を見ていきたいと思います。
2 試用期間とは
そもそも試用期間とは、法的にどのような意味を持つのでしょうか。この点を定めた明文規定はありませんが、一般的には「解約権留保付労働契約」と理解されています。そして、最高裁も実態に即した個別的な判断が必要としつつ、長期雇用システムの下では長期の雇用を継続するに値する人物であるか否かを判断すべく、「一定の合理的期間の限定の下にこのような留保約款を設けることも合理性をもつ」としつつ、法的性質について同様に解しています(最大判昭48.12.12 三菱樹脂事件 民集27巻11号1536頁)。
【裁判所HP】最大判昭48.12.12 三菱樹脂事件 民集27巻11号1536頁
3 試用期間中の判断について
試用期間について労使で合意がなされている以上、その期間内に「不適格」と判断して本採用拒否とすることは、原則として許されません。労働者としては、期間を経て判断されるという認識の下に働いており、その予測を不当に害されることになってしまうからです。ただし、応募の際の書類に虚偽があった場合など、仕事への不適格性が著しいと判断された場合には、本採用拒否が許されうると考えられています。
4 期間満了時の本採用拒否について
2で見たような試用期間の法的性質から、試用期間満了時の本採用拒否は、法的には「留保された解約権の行使」と評価されることになります。前出・三菱樹脂事件は、留保解約権の行使については通常の解雇よりも広い範囲で解雇の事由が認められるとしつつ、①客観的合理性②社会的相当性が必要であるとしています。そして、法が解雇権を制限している趣旨・労働者に対する企業の優越的地位、試用期間中の労働者が他企業への就職の機会と可能性を放棄していることを踏まえ、客観的合理性や相当性の判断に当たっては、解約権留保の趣旨・目的等を考慮すべきとしています。
5 本採用拒否に関する裁判例
では、実際にはどのような場合に社会通念上不相当とされるのでしょうか。採用側が本採用を拒否したいと考える理由としては、勤務態度の不良や能力の不足がありうるところですが、能力の不足を理由として本採用を拒否する場合には慎重な判断が必要です。本採用拒否が違法とされた裁判例と、適法とされた裁判例の双方を見てみましょう。社労士法人において、業務内容に不足があるとして本採用を拒否した事例について、初心者であることを理解した上で採用した以上、入社直後から即戦力として期待できる状況にはないとして、本採用拒否は解雇権濫用にあたると判断された裁判例(社労士法人パートナーズ事件 福岡地判H25.9.19 労働判例1086号87頁)があります。他方で、他社での社会人経験が長いにもかかわらず、協調性を欠き他の職員との間のトラブルも絶えなかったという事例において、解雇が相当とされた裁判例(東京地判H25.3.29)もあります。また、試用期間は教育のための期間とも位置付けられており、「会社が実施した教育が…社会的に見て妥当であることを前提」(東京地決S44.1.28)とするとされており、試用期間中にどのような教育がなされたのかという事情も合理性判断の基礎となります。
6 おわりに
このように合理性や相当性の判断は個別の事案に即して行われるため、予測が難しいところです。会社側としては、就業規則等において具体的な本採用拒否事由を定め、本採用拒否について労働者が理解しやすい状態にしておく必要があります。規定の内容は「遅刻・欠勤等、勤務態度が著しく不良である場合」などを拒否事由とすることが考えられます。そのような規定を置いた上で試用期間中に十分な教育機会を与え、それでも改善の余地が認められない場合に限って本採用を拒否するという取り扱いをすべきことになるでしょう。併せて、本採用を拒否された労働者から労働審判や訴訟等を提起された場合に備えて証拠を残しておくことも重要です。あらかじめ教育担当者に、指導期間中の教育内容や評価基準・実際に下された評価の内容等を記録するよう伝えておく必要があるでしょう。
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