従業員が逮捕された場合における会社の対応まとめ
2017/02/27   コンプライアンス, 民法・商法, 労働法全般, その他

はじめに

 "従業員の逮捕"と聞いてもどこか実感が湧かないかもしれません。しかし、痴漢などの性犯罪や飲酒時の不用意な暴行など、みなさんが想像されているよりもこの問題は身近なものといえます。もし、従業員が逮捕されたとの連絡を受けた場合、会社としてはどのような点に注意をし、どのように対応すれば良いのでしょうか。そこで今回は、従業員が逮捕された場合における会社の対応をまとめてみることにしました。

初動対応

 逮捕自体は当該従業員個人の問題なので、原則として会社は業務に関係する範囲で対応することになり、かつ、それで十分であるといえます。その際には、事実関係の確認を行った後で、主として①逮捕による身柄拘束で業務に支障が生じないか、②従業員の人事上の処遇をどうするかという2点について検討することになります。

「従業員が逮捕された場合の会社の適切な初動対応」について
(出典:ビズベン!〜顧問弁護士が教える企業法務とビジネスの極意〜)

刑事手続上の身柄拘束時間

 警察官による逮捕の場合、原則として逮捕から48時間以内に、被疑者を釈放するか、事件を被疑者の身柄付きで検察官に送るか(送検)を判断しなければなりません。また、送検した場合には、検察官は身柄を受け取ってから24時間以内、かつ、逮捕時から72時間以内に勾留請求をしない限り、被疑者を釈放しなければなりません。つまり、逮捕による身柄拘束時間は最大で72時間となります。なお、検察官による逮捕の場合には送検までの手続きが無いため、最大で24時間となります。勾留請求が認められると、最大で20日間の勾留がなされることになります。

「逮捕から勾留の流れ」について(出典:Victoire Law Office)

 業務に生じる支障の程度については、上記の身柄拘束時間を把握し、当該従業員の業務内容と併せて検討することが求められます。

勾留期間中及び釈放後の給与

 勾留は従業員自身の責任であるため、勾留期間中の賃金を支払う必要はありません。問題となるのは、従業員が釈放され、再度の出勤を申し出てきた場合です。会社としては自宅待機を命ずることはできるものの、その間は原則として給与を全額支払う必要があります。
 では、給与の一部又は全部の不支給は認められないのでしょうか。結論からいうと、就業規則に「起訴休職」の規定があればこれに基づいて休職を命じ、賃金の一部又は全部を不支給とすることができます。

「起訴休職の基本的な考え方」について(出典:loi.gr.)

従業員の解雇

 逮捕を理由として従業員を解雇する場合、前提として就業規則で懲戒事由を定め、従業員に周知させてあることが必要となります。一般的には、様々なケースに対応できるように「会社の名誉・信用を著しく害したとき」などといった包括的な文言で規定されていることが多いです。

「従業員が逮捕されてしまった場合における解雇の可否」について(出典:KUFU Inc.)

※この点について判断された著名な判例として、横浜ゴム事件判決(出典:公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会)があります。また、この判決の解説としては、
【判例】横浜ゴム事件(私生活上の非行)(出典:フォレスト社会保険労務士事務所)
解雇32(横浜ゴム事件) | 栗坊日記(出典:弁護士法人 栗田勇法律事務所)
に分かりやすく書かれています。

退職金の支給

 刑事訴訟においては、無罪推定が働きます。そのため、有罪判決が出るまで懲戒解雇はできません。そこで、従業員が先手を打って、有罪判決が出る前に退職届を出してしまうということが考えられます。退職してしまえば懲戒解雇をすることができず、そうすれば退職金を支給せざるを得ないからです。したがって、そのような事態を予防するために、会社としては予め適切な規定を就業規則に定めておく必要があります(リンク先に規定の一例が掲載されています)。

「逮捕から退職金の支給までの流れ」について(出典:HOME-ONE LAW OFFICE)

※参考:「痴漢で懲戒解雇されても退職金がもらえるって本当!?」
(出典:榊裕葵 社会保険労務士・CFP)

おわりに

 一連の流れの中で特に大切なことは、逮捕の連絡を受けても落ち着いて事実確認を行い、迅速かつ適切な初動対応に繋げるということです。その際、飽くまでも"会社としてどのように対応すべきか"という意識を強く持つことで、問題の着地点までの見通しが良くなるものと考えられます。

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