株式買い付け(TOB)の手順まとめ
2016/12/08 戦略法務, 商事法務, 会社法, その他

はじめに
株式公開買付けとは、ある株式会社の株式等の買付けを、「買付け期間・買取り株数・価格」を公告し、不特定多数の株主から株式市場外で株式等を買い集める制度のことで、TOBと呼ばれます。
今回は公開買付けが強制される場合を説明し、その後の公開買付けの流れについてまとめてみます。
公開買付けが強制される場合
企業が株式を取得する際に、原則的に公開買付けによらなければいけないのは、有価証券報告書の提出が義務付けられている株式会社等の株券等を発行者以外の者が市場外で一定数以上の買付け等をする場合です(金融商品取引法第27条の2第1項)。
「株券等」には、株券、新株予約券証券、新株予約券付社債権、外国法人の発行する証券または証書でこれらの性質を有するもの、投資証券ならびに有価証券信託受益証券、預託証券が該当します(金商令6条1項)。
株券不発行会社の株式など、株券が実在していない場合もTOBの対象である「株券等」にあたります。もっとも、TOBは支配権の移動に着目した規制であるため、無議決権株式などが譲渡対象である場合には、「株券等」から除外されています。
「買付け等」とは、株券等の買付けその他の有償の譲受け、その他これに類するものとして政令で定めるもの(例えば、株券等の売買の一方の予約)です(金融商品取引法27条の2第1項柱書、同施行令6条3項3号)
TOBとは(出典 キャピタル・エヴォルヴァー株式会社)
TOB規制の対象となる「一定数以上」となる取引態様は、金商法27条の2第1項各号で定められている。
①取引所金融商品市場外での買付け等で株券等所有割合が5%超となるもの(著しく少 数の者からの買付け等を除く)
②取引所金融商品市場外での著しく少数の者からの買付行為で株券等所有割合が 1/3 超 となるもの 5 / 23
③特定売買等による買付け等で株券等所有割合が 1/3 超となるもの
④取引所金融商品市場内外の取引を組み合わせた一連の取得行為により株券等所有割合 が 1/3 超となるもの(いわゆる急速な買付け等)
⑤競合する買付者が公開買付けを実施している場合に行われる株券等所有割合が 1/3 超の者が 行う一定の買付け等
⑥前記①~⑤に準ずるものとして政令で定めるもの
公開買付けが強制される取引(出典 BUSINESS LAWYEWS)
公開買付けの流れ
公開買付けは開始広告をし、公開買付届出書の提出から始まり、意見表明報告書、対質問回答報告書を経て、公開買付報告書を提出し終了となります。
公開買付開始公告及び公開買届出書提出
公開買付者は、公開買付者の氏名・名称・住所・所在地・公開買付けにより株券等の買付け等を行う旨・買付けの目的・価格・買付予定株券等の数・買付期間・買付後における公開買付者の株券等所有割合・対象会社、役員との公開買付けに関する合意の有無等の公開買付開始公告をして公開買付けを開始します(金融商品取引法27条の3第1項)。公告の方法は、政令により、電子公告か、日刊紙掲載かのいずれかの方法によるものとされています。
第2号様式:発行者による上場株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令 5条 記載上の注意
第2号様式:発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令 12条 記載上の注意(出典 金融庁)
意見表明報告書
公開買付けに係る株券等の発行者(対象者)は、10営業日以内に、公開買付けに関する意見等を記載した意見表明報告書を内閣総理大臣から委任されている関東財務局長に対して提出しなければなりません(同法27条の10第1項)。
対象者の意見は、公開買付者と対象者との主張・反論が明確に示されるものであり、株主、投資家が的確な投資判断を行う上で非常に重要であるといえます。かかる重要性から、対象者の意見表明が義務付けられています。
また、この意見表明報告書において、対象者から、公開買付者に対し、質問をすることができます(同法27条の10第2項1号)。
第4号様式:発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令 第25条 記載上の注意(出典 金融庁)
対質問回答報告書
そして、この質問に対し、公開買付者は、一定期間内に、対質問回答報告書を内閣総理大臣(関東財務局長に委任されています。)に提出しなければなりません(同法27条の10第11項)。これは、対象者による当該公開買付けに関する質問に対し、公開買付者からの回答を開示させることで、当該公開買付けの位置付けを明らかにし、以て投資者を保護するとともに証券市場の信頼性を確保するためです。対質問回答報告書参考例 (出典 エス‐エイチ ジャパン・エルピー)
公開買付撤回届出書
公開買付者が、当該公開買付けに関し被公開買付者等に重大な支障となる事情が発生したとき、または公開買付者に重大な事情の変更が生じたときに、公開買付けを撤回する場合に、その旨を記載する外部への開示資料です。撤回する公開買付者がその理由を明らかにすることで、投資者を保護するとともに証券市場の信頼性を確保するためです。
撤回の要件についてはこちら 公開買付の撤回 (出典 スター綜合法律事務所)
発行者による上場株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令 17条 記載上の注意点
発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令 28条 記載上の注意(出典 金融庁)
公開買付報告書
公開買付けによって株券等の買付け等を行った者は、その結果を公告または公表し、公開買付報告書を内閣総理大臣から委任されている関東財務局長に対して提出しなければならない。公開買付者によって行われた当該公開買付の対象・成否等を明らかにさせることで、一時的に不安定な状況に置かれていた買付け対象をある意味解放することを通じて、投資者を保護するとともに証券市場の信頼性を確保するためです。
第4号様式:発行者による上場株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令 20条 記載上の注意
第6号様式:発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令 31条 記載上の注意 (出典 金融庁)
公開買付者は、その後、公開買付期間中に応募された株券等の全部について、受渡しその他の決済を行います。
終わりに
以上がTOBが強制される場合とその後の流れになります。公開買付けが強制されるの趣旨は、経営権の移転に関する情報開示、株主平等の原則、コントロール・プレミアムの平等分配の3つにあるとされ、そのための制度としてこれらの書類の提出開示が要求されています。現在これらの書類の開示はEDINETでの電子開示手続きが利用されています。
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