ライセンス契約と倒産まとめ
2016/09/12 知財・ライセンス, 契約法務, 特許法, その他
1.はじめに
ライセンス契約とは、自社が有する特許権や実用新案権等を他者に使用させることを許諾する契約をいいます。そして、特許等を有している側をライセンサー、特許の使用させてもらう側をライセンシーと呼びます。
他者の特許を使用して製品を作る、という形態は日本のみならず世界的にも良くあることです。
そんな中、ライセンサーが倒産してしまった場合、ライセンシーの特許使用権はどうなるのでしょうか。ライセンシーは特許等の使用許諾を得るかわりに、開発費用を投資していることだってあることですから、ライセンサーが倒産しても、特許等の使用は続けたいものです。
そこでライセンサーが倒産した場合、ライセンシーは特許等の使用を続けられるのか、概観してみることにします。
知財弁護士.com・ライセンス契約とは
2.ライセンサーの倒産
本記事において倒産とは破産法に基づく破産と民事再生法に基づく民事再生をさすことにします。
(1)破産開始決定の効果
ライセンサーが破産してしまった場合、破産管財人は不動産や設備機械等の破産した会社の債権者に配当すべき全ての財産を金銭に換価して、破産債権者への配当に回します。
裁判所で破産開始決定が出ますと、上記のように、破産した会社の財産関係は、キレイに清算されてしまうことになります。
したがって、破産者を一方当事者とする契約、ライセンス契約もどこかで打ち切られることになります。
そもそもライセンス契約の法的性質は双方契約といってお互いに義務を負担する契約です。破産法上、ライセンス契約等の双方契約で、破産開始時、いまだ、双方とも義務を履行していない場合、破産管財人はその契約をの解除か債務の履行かを選択することができるのです(破産法53条)。
(2)民事再生法など
民事再生法や会社更生法でも、同じ規定があります(民事再生法49条、会社更生法61条)。
(3)ライセンサーへの影響
上記の規定により契約が解除された場合を考えてみますと、ライセンシーは自分に落ち度はないのに、ライセンサーが破産したことによってライセンス契約を解除されてしまい、多大の損害を受けることになってしまいます。他社のライセンスを使用してメイン商品を製造していたとしたら、今度はライセンシーが倒産する可能性が出てきます。ライセンシーは、特許技術を実施するために資本を投下している場合もありますし、そうだとしたらせめて投下資本は回収したいのに、回収することもできなくなります。
しかし、破産法は「賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利を設定する契約」について、対抗要件を備えている場合には、上記の解除等の規定(破産法53条1項2項)は適用しないと定めています(破産法56条)。 同じ様に、民事再生法51条は、この破産法
56条を準用していますし、会社更生法63条も準用しています。
この「賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利を設定する契約」に、ライセンス契約が含まれます。
3.対策方法――対抗要件具備
対抗要件とは当事者間の間で効力の生じた権利関係や法律関係を第三者に対して主張するための要件です。
コトバンク・対抗要件とは
ライセンシーとしては、ライセンサーが倒産し管財人等からライセンス契約を一方的に解除されないように通常実施権の対抗要件を取得すべく、登録をする必要がありましたが、現在では当然対抗制度として、登録が不要となりました。(特許法99条)
したがって法務部としては、通常実施権を有しているかを把握しておく必要があります。
なお、通常実施権とは、特許権者以外の者がある範囲内において、業として特許発明の実施をする権利をいいます。代表的な発生原因として、特許権者等の許諾があげられます。ライセンス契約を結ぶときはライセンス契約書に確認規定として盛り込んでおくことをおすすめします。
したがって、ライセンス契約を締結したライセンサーが倒産しても、ライセンシーは変わらず特許を利用(通常実施権の行使)することができると思われます。
weblio辞書・コトバンク・通常実施権とは
ライセンスが維持された後の契約関係
通常実施権が対抗要件を取得したことにより、ライセンサーが破産したにもかかわらず、ライセンス契約の効力を維持でき、ライセンシーの通常実施権が守られた場合、その後の契約関係はどのようになっていくのでしょうか。
破産手続は、清算型の手続であって最終的には破産した会社の財産関係は、すべて、換価され、債権者等への配当に回されます。特許権等の知的財産も例外ではありませんので、いずれは第三者に売却され、換価される運命にあります。
遅かれ早かれ、その特許権は、破産管財人によって第三者に譲渡されることになると思われますから、その後の法律関係が問題になります。
ここで破産法56条1項は、「賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利」と定めています。この権利には、通常実施権も含まれると解釈されています。
対抗要件を具備している以上、破産管財人から譲渡を受けた第三者といえども、実施権の効力は認めざるを得ません。そういう意味では実施権は保護されます。
しかし特許そのものは第三者に譲られていることには変わりませんので、ライセンシーはライセンスを譲渡された第三者へロイヤリティを支払う必要があります。
これを怠ると、損害賠償請求等の裁判を提起されるおそれがありますので、注意してください。
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