【特集】第2回目 社員の犯罪と解雇についてのまとめ
2017/10/13 労務法務, 労働法全般
第1 はじめに
こんにちは。企業法務ナビの企画編集部です。前回から「社員が犯罪を行った場合の企業の対応」というテーマで全3回にわたって特集記事をお送りしております。第2回目となる今回は、「社員の犯罪と解雇についてのまとめ」と題して、解雇にフォーカスを当てていきます。具体的には、社員が犯罪を行ってしまった時に、企業が解雇できるのはどのような場合なのかを見ていきたいと思います。
第2 解雇とは
1 「解雇」について
まず、「解雇」とは、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されています(労働契約法第16条)。ここでいう「解雇」には、一般的に普通解雇、整理解雇、懲戒解雇という三種類が含まれていますが、会社の就業規則において刑法犯は「懲戒解雇事由」として規定されている場合が多く、主に懲戒解雇が検討されることになります。したがって、ここからは懲戒解雇を念頭に検討していきます。
2 「懲戒解雇」について
懲戒解雇の要件としては、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくこと、労働者に理由の告知・弁明の機会が与えられなけれならないことが挙げられます。また、当該懲戒解雇が労働者の行為の性質・態様その他の諸事情に照らして見たとき、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当な範囲を超えている場合には、懲戒権の濫用として無効となります(労働契約法15条)。
第3 業務内外の犯罪
従業員の犯罪といっても、業務内に行われたものなのか、それとも業務外に行われたのかによって異なります。業務内外の犯罪に対して、どのような場合に解雇できるのか見ていきます。
1 業務内の犯罪
業務内の犯罪としては、例えば、会社の経理を預かっている社員が現金を横領してしまったという事例が考えられます。
前述したように、横領といった刑法犯は就業規則に「懲戒解雇事由」として規定されている場合が多いと思われます。そのため、懲戒解雇事由に該当しているか事実関係を確定し、当該解雇が客観的に合理的な理由があり社会通念上相当な範囲かを検討することになります。特に問題がないと判断されれば、解雇できることになります。横領のような刑法犯であれば少額であっても解雇に相当するほど重大な行為であると認定されることが多いようです。
以下、業務内の犯罪に対する解雇について詳しいウェブページを紹介しておきます。
【特集19】金銭を横領・窃盗した社員(社会保険労務士法人九州人事マネジメント)
2 業務外の犯罪
(1)概要
業務外の犯罪は、業務内の犯罪と違って注意が必要です。前述したように、懲戒処分は、企業の存続や運営の必要上、企業秩序を維持するために行われるもので、業務と関係ない犯罪の場合は本来懲戒処分の対象とはいえないからです。
つまり、労働者が業務外で犯罪を犯したことそれ自体によって懲戒処分が可能となるわけではなく、業務と関係のない犯罪が企業秩序や信用に影響を及ぼす場合にそれを理由として企業が懲戒処分を行えるということになります。
最高裁(最一小判昭和58年9月8日)は、この点について、「企業秩序に直接関連を有するもの」「企業の社会的評価の低下毀損につながるおそれが客観的に認められる」場合以外は、懲戒処分の対象となりえないと判断しています。
懲戒解雇である以上、就業規則として「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」などといった懲戒解雇事由を定めておくことが当然必要になります。
(2)業務外の犯罪の具体例
では、「企業秩序に直接の関連を有するもの」というのは、具体的にはどういう場合でしょうか。
東京メトロの職員が東京メトロの電車内で痴漢をしたとして現行犯逮捕されたことについて、鉄道会社が痴漢行為の防止について積極的に取り組んでいる現状において、痴漢行為を防止すべき駅係員が勤務先会社の電車内で痴漢行為に及んだということは企業の事業活動に直接関連を有すると判示しています(東京地判平26年8月12日)。この他にも、教師の児童買春のように、社員の業務外の犯罪が会社の業務と密接する場合は該当するでしょう。
次に、「企業の社会的評価の低下毀損につながるおそれが客観的に認められる」場合については、労働者の犯罪が企業名とともに報道された場合が典型的な事例ですが、報道がない場合でも企業の社会的評価の低下・毀損の恐れが議論され裁判所がそれを認める場合もあるようです。
以下、業務外の犯罪に対する解雇について詳しいウェブページを紹介しておきます。
3 企業の法務担当者として何をすべきか
企業の法務担当者としては、業務内のみに関わらず、業務外の犯罪も解雇事由になることを想定して、就業規則の再チェック、修正を検討しておくべきです。特に、業務外の犯罪についても企業の評価の低下につながる場合には解雇したいというのであれば、「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」などと明記しておきましょう。
就業規則について詳しいウェブページを紹介しておきます。
また、事実関係を確定するために、本人から事実関係を説明する顛末書を提出させることも有益でしょう。事実関係を本人が認めていることが明確になるからです。
事実関係を確定させた後は懲戒解雇とするかそれ以外の懲戒処分にするのかの判断が必要になり、判断まで時間が必要な場合は自宅待機を命じることとなりますが、その自宅待機は出勤停止とは異なるという点に注意が必要です。出勤停止処分をしてしまうと懲戒処分を行ったことになり、別の懲戒処分である懲戒解雇は行えなくなってしまうからです。
最後に、犯罪を行った従業員から解雇無効として会社が訴えられた場合を想定すると、当該犯罪の有罪が確定してから懲戒解雇処分を行っている方が、裁判において解雇無効という判断になりにくいということに言及しておきます。
最終回となる次回は、『社員・役員を告訴する手続まとめ』について記事として紹介したいと思います。
(文責:okumura)
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