長時間労働是正の特効薬!プレミアムフライデーは本当に「プレミアム」か?
2017/01/19   労務法務, 労働法全般, その他

はじめに

 経済産業省や経済界など官民連携で設立された「プレミアムフライデー推進協議会」は、今年2月24日より「プレミアムフライデー」を実施することを決定しました。
「プレミアムフライデー」とは、毎月末の金曜日に午後3時に仕事を切り上げて、プライベートな時間を確保しようという取り組みです。
労働者の長時間労働が社会問題となっている現在において、「プレミアムフライデー」の取り組みが労働者にもたらすメリット・デメリットを両方から考えていきたいと思います。

想定されるメリットと想定されるデメリット

(1) プレミアムフライデーの意義
 「プレミアムフライデー推進協議会」ホームページによれば、プレミアムフライデー導入の意義は①充実感・満足感を実感できる生活スタイルの変革への機会の創出、②地域等のコミュニティ機能強化や一体感の醸成、③買い物や家族との外食、観光等といった消費意欲の喚起にあるとされています。

(2) メリット
 では、プレミアムフライデーの導入によるメリットはどのようなものが考えられるでしょうか。まず、毎月末金曜日は午後3時に退社できることから単純に労働時間が減り、その分の時間をプライベートな時間として確保できることで買い物や外食といった個人消費を促すことができます。日本政府が2020年度を目途に目標に掲げているGDP600兆円の実現、経団連が目標とする個人消費の300兆円から360兆円への引き上げを実現するにあたり、プレミアムフライデーの実施は欠かせないものになると考えられます。また、国と民間が連携した新たなサービスやイベントが企画されることが期待されています。

(3) デメリット
 逆に、プレミアムフライデーの導入にあたり懸念されるデメリットとしてどのようなものが考えられるでしょうか。
考えられる一番大きな問題として、多くの企業がプレミアムフライデー導入に賛同し、これを実施したとしても、労働者一人当たりの業務量に変化がないため、その分どこかへしわ寄せがくる、別の日に業務の負担が多くなるなど、かえって労働者にとって疲労が増大する危険が考えられます。
 次に、プレミアムフライデーの下では、毎月末金曜日の就業時間が午後3時までと変則になるため、企業においては就業規則の変更が必要になることが考えられます。就業規則の変更は、労働契約法8条に基づけば、使用者と労働者間にその変更内容に対する合意が必要となります。また、労働契約法9条は、労働者に不利益な就業規則の一方的な変更(以下、「不利益変更」と呼ぶ)を原則として禁じており、就業規則の不利益変更が必要な場合でもこれを適法に行うためには労働契約法10条で定められた厳しい要件をクリアする必要があります。プレミアムフライデーの概要を形式的に見れば、プレミアムフライデーに伴う就業規則の変更は、労働者の勤務時間が減るため不利益変更に当たらないようにも思えます。もっとも、実務上、労働者の賃金が減少する就業規則の変更は不利益変更と解釈される傾向が強く、プレミアムフライデーにおいても、労働時間の短縮に伴い労働者に支払われる賃金が従前よりも減少する場合、このような就業規則の変更は不利益変更と解釈される可能性があります。
 さらに、プレミアムフライデーの導入により、残った業務を労働者が家に持ち帰らなければならない状況が生じ、使用者に管理されない労働時間が生まれることにより、適正な時間外労働賃金が支払われない労働が生じてしまう危険も考えられます。

おわりに

 電通事件で見られた長時間労働による過労自殺など、日本社会においても労働者の長時間労働が大きな社会的課題となっています。こうした中で、生活スタイルに余裕を持たせることのできるプレミアムフライデーのような取り組みは大きな意義を有するものだと考えられます。しかし、それと同時にプレミアムフライデーの理想を現実のものとして実現するにあたっては、上で挙げた課題が存在するのも事実です。そこで、今後にあたっては使用者による労働者の適切な労働時間管理が使用者の法的・社会的義務としてより重要となってくるといえるでしょう。

関連サイト

経済産業省HP(プレミアムフライデー)
プレミアムフライデー推進協議会事務局HP

参考条文

労働契約法
(労働契約の内容の変更)
第八条  労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

(就業規則による労働契約の内容の変更)
第九条  使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

第十条  使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

(就業規則の変更に係る手続)
第十一条  就業規則の変更の手続に関しては、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第八十九 及び第90条 の定めるところによる。

労働基準法
(作成及び届出の義務)
第八十九条  常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合に   おいても、同様とする。
一  始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二  賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三  退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
三の二  退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
四  臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
五  労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
六  安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
七  職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
八  災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
九  表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
十  前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

(作成の手続)
第九十条  使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
2項 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。

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