中小企業の最低賃金引上げに向けた環境整備、第一弾
2016/08/16   労務法務, 労働法全般, その他

経済産業省は、厚生労働省と連携し、最低賃金引上げに向けた環境の整備を行うため、支援策に関して検討をしている。今回、その措置の第一弾として、厚生労働省において助成措置が行われることになった。

最低賃金引上げに係る施策に至った経緯

先月28日の厚生労働省中央最低賃金審議会において、平成28年度の地域別最低賃金額の引上げの目安が答申された。これによると、全国加重平均で去年を6円上回る24円、引上率に換算して3%の引上げとなった。平成14年に時給換算で決定する現行方式が導入された後、最大の引上げとなった。現在、厚生労働省中央最低賃金審議会の答申を受け、都道府県毎に設置されている地方最低賃金審議会において、地域別最低賃金の引上げに関する審議が行われているところである。当該最低賃金の引上げの環境整備の一環として、厚生労働省から助成措置として、キャリアアップ助成金に対する支援策が講じられることとなった。

「キャリアアップ助成金」

「キャリアアップ助成金」とは、有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者といった、いわゆる非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップ等を促進するため、正社員化、人材育成、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成する制度をいう。キャリアアップ助成金は、目的ごとに以下の6つのコースに分かれている。
 ・正規雇用転換コース
 ・人材育成コース
 ・処遇改善コース
 ・健康管理コース
 ・短時間正社員コース
 ・短時間労働者の週所定労働時間延長コース
受給額、主な受給要件、申請方法等については、各コース毎に異なる。今回は、受給要件が緩和された、処遇改善コースについて、詳述する。

「処遇改善コース」

1.概要
「処遇改善コース」とは、
①全て又は一部の賃金規定等を改定し2%以上増額した場合
②正規雇用労働者と共通の処遇改善制度(健康診断・賃金規定等)を導入し、適用した場合
③週所定労働時間を25時間未満から30時間以上延長し、社会保険を適用した場合
をいう。

2.受給額
1万円/1人

3.主な受給要件
①対象者が申請事業主により有期契約・派遣等の形態で雇用されている従業員であること
②ガイドラインに沿ってキャリアアップ計画書を作成し、労働局長の認定を受けること
③キャリアアップ計画書に基づき賃金テーブルを以下のすべてを満たすものへ改定すること
 ❶実際に支給する基本給の金額ごとに区分した賃金テーブルを作成しそれを3か月以上運用していること
 ❷賃金テーブルを3%以上、増額改定すること
 ❸改定後の賃金テーブルをすべての対象従業員に適用すること
 ❹改定後、6か月が経過すること
 ❺支給申請日に改定された賃金テーブルが継続して適用されていること
 ※1事業所あたり1年で100名まで。
キャリアアップ助成金のご案内

4.申請方法
「賃金テーブルの増額改定後、6か月分の賃金を支払った日」の翌日から2か月以内に事業所の所在を管轄する労働局へ必要書類を提出すること

処遇改善コースに係る受給要件の緩和について

処遇改善コースに係る受給要件の緩和については、以下のような申請手続きの簡素化等がある。
1.受給対象
賃金額の定めがあれば、実際に支給する基本給の金額ごとに区分した賃金テーブルを作成し、それを3か月以上運用していなくても、受給対象となる。

2.キャリアアップ計画書の提出期限の緩和
「取組実施前1か月まで」が「取組実施日まで」に変更。

3.最低賃金額との関係に係る要件緩和
「最低賃金額の公示日以降、賃金規定等の増額分に最低賃金までの増額分は含めない」が「最低賃金額の施行日以降」に変更。

4.賃⾦規定等の運⽤期間の緩和
「賃金規定等を3か月以上運用していること」との要件について、新たに賃金規定等を作成した場合でもその内容が、過去3か月の賃金の実態からみて2%以上増額していることが確認できればよい。

最低賃金を巡る労務裁判

本年2月24日、横浜地裁第一民事部において、最低賃金1000円以上を求める裁判に関する判決が下された。
原告(労働者)は、低賃金で苦しむ多数の労働者関し、生活保護を下回る最低賃金額が憲法と最低賃金法に違反しており、裁判所に訴えることも許されない最低賃金ギリギリで働き、生きることにより、命や健康が破壊される深刻さ、自立も結婚もできない、将来の希望ももてない、友人との付き合いや趣味等、社会的文化的な生活ができない、といった実態が最低賃金の異常かつ憲法違反の低額放置であり、最低賃金を抜本的に引き上げることを求めた。
一方、被告(国)は、最低賃金の決定については、国に広大な裁量権があり、適正な手続を踏んでおり、国の計算式では生活保護と最低賃金の逆転は解消されている、と主張した。
判決は、被告の主張を認め、原告の主張を却下した。具体的には、賃金が低ければ生活保護等の施策を使えば足りており、原告に重大な損害が生じていないとしたものである。
これに対し、原告は、控訴をし、第1回の期日が本年9月14日になっている。
このように、最低賃金を巡る裁判は、最低賃金引上げと非正規労働者への労働組合運動の輪を広げる取組みとして行われている。
最低賃金裁判ニュース

まとめ

昨年7月28日付けで、全国の商工会議所、商工会(各都道府県商工会連合会)、各都道府県中小企業団体中央会及び各地方経済産業局に相談窓口を設置しており、本年8月10日付けで、新たに全国の独立行政法人中小企業基盤整備機構の地域本部、全国商店街振興組合連合会及び各都道府県のよろず支援拠点にも設置も特別相談窓口が設置されている。また、全国の日本政策金融公庫、沖縄振興開発金融公庫、商工中金及び信用保証協会に、「賃金水準上昇対策特別相談窓口」を設置し、賃金引上げによって資金繰りに影響を受ける中小企業・小規模事業者からの相談も受け付けている。
前述の裁判からもわかるように、最低賃金は、従業員の生活に直接関係するものであるため、企業のサービス力・生産性の向上にもつながる。このため、最低賃金についての対応は、企業にとって、必要不可欠といえよう。
また、キャリアアップ助成金の導入は、従業員の能力開発だけでなく、モチベーションアップにもつながる。さらに、非正規社員の待遇改善や正社員化等により、働きやすい会社作りが求められる側面もある。賃金のアップ、能力やキャリア開発、従業員のニーズに合わせた環境作りは、全従業員の能力向上やモチベーション向上にとって重要であろう。しかし、限られた費用や時間の中で、全従業員の育成やモチベーションを向上させる制度作りには限界がある。
裁判闘争等にならないよう、従業員のニーズに合った環境作りを行う必要があると感じた場合は、この制度をご活用されてみてはいかがだろうか。

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