なぜ困難?中国からの事業撤退
2016/06/27   海外法務, 海外進出, 外国法, その他

1.「撤退を検討」する企業が急増の背景

①人件費の高騰、急速な円安(人民元高)により、中国から撤退する日系企業が急増している。

 人件費を工場の現場労働者で比較した場合、福利厚生を入れて日本では平均で約25万円。中国では約8万円と日本の3分の1程度にまで迫ってきた。中国の人件費は日本と比べるとまだ低いものの、10年前は10分の1の水準だった。しかし、2008年のリーマン・ショック後にこの人件費の高騰が顕著になった。労働者の権利意識の高まりにより、労務コストは高まっている。

 円安傾向は、2011年秋に円高のピークで、1米ドル=76円をつけた。それが2015年2月末には、1米ドル=約120円である。日本国内に生産拠点を戻し輸出する方針転換へのインセンティブになる。一方、 同じ時期に1人民元=約12円だったのが、今では1人民元=約20円。中国に配転され生活している管理部門に就く日本人にとり、12円だった商品が20円になった。駐在コストもかさむ。

 

②法律なき「環境規制」?

 中国当局は中国系企業には甘く、外資系企業には厳しい。

 法律がないにも拘らず、環境に与える負荷が大きい業種の企業はここの工業団地に来るなとか、水質データであるCOD(化学的酸素消費量)をいくらまで下げろといったことを、外資系企業は特に厳しく言われるようになってきている。

 

③法人税率の上昇

 2007年末まで中国系企業に対しては33%であったのに対し、外資系企業は15%と半分以下で済んでいた法人税。それが、2008年からは中国系企業も外資系企業も一律25%になった。中国進出時には法人税率が日本の3分の1で済んでいたのに、今では日本のほうが安くなったのである(2016年時点で23.9%)。

 

2 最近撤退企業があいついでいるものの・・・・


 例えばこんな企業も撤退を始めている(最近の撤退事例記事)。

パナソニック
ダイキン
ヱスビー食品
ユニチカ

 

3 多くの邦人企業が撤退の困難性に直面 その理由

(1)中国は許認可の国である。当局の許認可がなければ外資系企業は清算できない。ところが会社がなくなると税収や雇用が減り当局担当者自身の失点につながる。そこで、当局はOKを容易に出さない。中国内の複数の会社を再編するときも同じ。たとえば南京から撤退するために北京の子会社と合併させようとすると、南京当局がなかなか許可しない。

(2)許認可に条件がつくケースもある。中国では会社設立時に経営期間を定める必要がある。メーカーなら50年、販売会社なら20~30年が一般的。そして、進出時には当局が誘致のために土地賃料の割引などの便宜を図ってくれることがよくある。しかし、清算を打診すると、経営期間が残っていることを理由に、それまでの優遇措置によって得た利益の返還を要求されることになる。

 

4 そこで撤退の許認可をもらう方法の比較検討してみると。

(1)会社を存続させるなら・・・

 ①持ち分譲渡 

  一番現実的な方法。 

  しかし、持ち分を安く買いたたかれる可能性が高い。 

 ②合併

  中国国内の別会社と合併して、事実上の閉鎖。

  地方当局との交渉がカギ。              

 ③減資 

  資本金を減らして資産の一部引き揚げ。

  事例少ない。                    

 ④事業譲渡

  特別法無し。手続き不透明。             

(2)会社を消滅させるなら・・・

 ①清算

  規模を縮小させながら影響を少なくしつつ清算へ。

  消滅は、当局の失点になるため、許認可が下りにくい場合有り。

 ②破産

  外資系企業には手続きのハードルが高く、裁判所も受理しない

  傾向がある。事例も少ない。

撤退の方法として、生産より現実的なのが持ち分譲渡。合弁パートナーや第三者に持ち分を譲渡すれば、会社自体が存続する。

そのため、当局の許認可は比較的下りやすい。しかし買いたたかれることを覚悟しておかなければならない。

昨年11月、カルビーは杭州市に設立した合弁会社の持ち分を合弁パートナーに譲渡した。カルビーの持ち分は51%だったが、譲渡価格は1元(約19円)だったという。カルビーの持ち分譲渡記事拾ってみた。

カルビー

やれやれ去るも地獄である。

 

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