WHO、職場のメンタルヘルス対策で指針
2022/10/17   労務法務, 労働法全般

はじめに


9月28日、WHO(世界保健機関)は、職場のメンタルヘルス対策ガイドラインを公表しました。効果的な対策やサポートを推進し、メンタルヘルス問題の解決を図るために、予防の観点から推奨する行動をまとめています。
 

ガイドライン公表の背景


 WHOの世界メンタルヘルス報告書(2022年6月に発表)によりますと、世界の成人労働者の約6人に1人が何らかの精神障害を抱えているとされています。特に、COVID-19をきっかけに、世界中で一般的な不安やうつが 25 % 増加し、各国政府が、いかにメンタルヘルスへの影響に備えていなかったかが露呈すると共に、メンタルヘルスのリソースが世界的に慢性的に不足していることが明らかになりました。

その結果、うつ病や不安神経症により、年間 120 億日の労働時間が失われ、世界経済に 1 兆ドル近い損失を与えていると推定されています。このような大きな問題が生じている一方で、職場のメンタルヘルス対策への介入について指針となる規則がない点が問題視されていました。こうした背景から、今回、WHOより、職場におけるメンタルヘルスに関するグローバルガイドラインが発行されることとなりました。

 

グローバルガイドラインで推奨されているメンタルヘルス対策


 今回発表されたグローバルガイドラインでは、メンタルヘルス対策として、複数の事項を推奨していますが、特に「メンタルヘルスに関する管理監督者トレーニング」と、「メンタルヘルスに関する労働者へのトレーニング」、「個人向けの普遍的な介入」の項が目を引きます。

1.管理監督者へのトレーニング
管理監督者へのトレーニングにおいては、部下のメンタルヘルス支援のためのトレーニングの必要性を指摘しており、その内容として、メンタルヘルスに関する管理監督者の知識・態度・行動および部下の援助希求行動の改善を挙げています。職場におけるストレス要因に関する知識、精神的苦痛の早期発見のノウハウ、メンタルヘルスへの適切な対応、メンバーとのコミュニケーション・傾聴などの教育を行うことが、メンタルヘルス対策に繋がるとしています。

2.労働省へのトレーニング
一方、労働者へのトレーニングにおいては、労働者のメンタルヘルスに関する知識および職場での態度(偏見を含む)について改善の必要性を指摘しており、メンタルヘルスに関する知識教育、職場の偏見を改善するためのリテラシー教育、気づきに関する教育の実施を推奨しています。

3.個人向けの普遍的な介入
また、個人向けの普遍的な介入としては、大きくは以下の2つを推奨しています。

(1)労働者のポジティブメンタルヘルスの促進、精神的苦痛の低減、作業効率改善
マインドフルネスや認知行動的アプローチに基づく介入等、労働者のストレスマネジメントスキルを強化するための心理社会的介入の実施

(2)労働者のメンタルヘルスと作業能力の改善
レジスタンストレーニング、筋力トレーニング、有酸素トレーニング、ウォーキング、ヨガといった余暇時間の身体活動の機会の提供

これらの一連の取り組みは、従業員のメンタルヘルス対策になるのはもちろんのこと、働きやすい職場環境の醸成による離職率の低減、ひいては貴重な優秀人材の確保にもつながるため、経営の観点からも重要な位置づけとなりそうです。

 

コメント


 精神障害に関する事案の労災補償の請求件数は、2015年度の1586件に対し、2021年度は2346件と、ここ数年で1.5倍と急増しています。それだけ日本国内においても、労働者に対するメンタルヘルス対策を行う重要性が増していると言えます。

今回、WHOから発表されたグローバルガイドラインでは、管理職や労働者に対するトレーニングが推奨されていましたが、「メンタルヘルス対策に関する管理監督者への教育研修・情報提供」に取り組んでいる企業の割合が2021年度で約30%、「メンタルヘルス対策に関する労働者への教育研修・情報提供」に取り組んでいる企業が約35%と、まだまだ十分な取り組みが行われていない状況です。

グローバルガイドラインの内容は、将来的に、企業に課される安全配慮義務の範囲、ひいては、メンタルヘルス不調となった従業員からの損害賠償請求の可否に影響を与えることが考えられます。この機会に、今回取り上げたグローバルガイドラインの内容を押さえておくと共に、自社の取り組み状況につき、再確認してみてはいかがでしょうか。

 

【関連リンク】
・Guidelines on mental health at work(World Health Organization)
・WHO「職場のメンタルヘルス対策ガイドライン」公表記念オンラインイベント動画(東京大学デジタルメンタルヘルス講座)
・精神障害に関する事案の労災補償状況(厚生労働省)
・令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況(厚生労働省)

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