郵便局員が日本郵便を提訴、労働時間該当性について
2021/06/11   労務法務, 労働法全般, その他

はじめに

 兵庫県内の郵便局に勤務する日本郵便の社員ら44人が、始業時と終業時の制服着替えは労働時間に含まれるとして同社に対し計約1500万円の損害賠償を求め神戸地裁に提訴していたことがわかりました。

 一人あたりの請求額は5~42万円とのことです。今回は賃金支払いの対象となる労働時間該当性について見ていきます。

事案の概要

 神戸新聞の報道によりますと、日本郵便では勤務時間外の制服着用は原則禁止しており、社員は出退勤の際に職場の更衣室で着替えが必要とされます。

 1日2回の着替えには計約14分かかるとされ、神戸市や高砂市などの郵便局で勤務する社員44名が、これらの時間を勤務時間から不当に除外しているとして未払い賃金相当額の支払いを求め提訴したとのことです。

 なお2016年に同社では同様の訴訟が静岡地裁で行われ2020年4月には同社側がほぼ全額支払う内容の和解が成立しているとされます。

労働法と労働時間

 労基法では労働者に休憩時間を除き、1日8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはならないとしており(32条)、この上限を超えて労働させた場合は割増賃金の支払いが必要と規定されております(37条1項)。

 そしてこれに違反した場合には6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金となっております(119条1号)。

 このように賃金支払いは労働時間に基づいているにもかかわらず労働関係法令では「労働時間」の正確な定義は規定されておりません。そこで労働問題の前提として労働時間の定義が問題となります。

労働時間の定義

 労働時間が問題となった著名な事例として三菱重工長崎造船所事件(最小判平成12年3月9日)が挙げられます。

 この事例では就業規則で1日の所定労働時間を8時間とし、着替えや保安具装着、準備体操、資材の出し入れ、散水、移動などは所定労働時間外に行うとされておりました。

 原告社員側はこれら一連の行為も労働時間に該当するとして割増賃金分を求め提訴しました。

 最高裁は労働時間を「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう」とし、労働契約や就業規則での定め方いかんにかかわらず客観的に決まるとしました。そして事業所内での行為を使用者側から義務付けられ、または余儀なくされている場合は社会通念上使用者の指揮命令下と言えるとし、本件での一連の行為も労働時間に該当するとしました。

その他の問題点

 それでは着替えや就業準備などの行為以外で、待機時間や仮眠時間は労働時間に該当するのでしょうか。

 この点についてもやはり使用者の指揮命令下に置かれているかで判断されていると言えます。24時間勤務のビルの警備員が仮眠室で仮眠している間でも、必要に応じてただちに対応することが義務付けられていることから仮眠中も労働時間に該当すると判断されました(最小判平成19年10月17日)。

 また所定労働時間外に行われる運動会などの会社の行事も、参加が義務的で会社の業務としての性格が強いものである場合は労働時間に該当すると考えられております(昭和26年1月20日基収2875号)。

コメント

 本件で原告側の郵便局員は出退勤の際の制服の着替えが事実上余儀なくされているとして労働時間に該当し、勤務時間から不当に除外していると主張しております。今後勤務前後の約14分間の着替えが使用者の指揮命令下に置かれていると言えるかが争点となるものと考えられます。

 以上のように賃金支払いの対象となる労働時間に該当するかは就業規則や労働契約の定め方に関わらず、客観的に指揮命令下にあると言えるかで判断されます。そのため所定労働時間外に準備や清掃などの行為を定めている場合はしばしば問題化し訴訟に発展しております。

 自社での就業規則や社内規定等で勤務時間外の行為をさせていないか、またさせている場合は社会通念上、指揮命令下にあると言えないかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。

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