法人理事らを提訴、社会福祉法人の利益供与とは
2020/02/04 コンプライアンス, 民法・商法

はじめに
事案の概要
報道などによりますと、兵庫県で特別養護老人ホームなどを運営する伊丹市の社会福祉法人「明照会」は前理事長ら元役員11人に対し不正な利益供与があったとして損害賠償を求めています。同会では2011年以降、前理事長の父や親族らの企業が所有する不動産に鑑定額の3倍を上回る賃料を支払い、また親族企業と架空の業務委託契約を締結するなどして不正な支出を行っていたとされます。また2017年の県による特別監査で不適切経理も判明しており同会は元役員らを相手取り総額約1億8400万円の賠償を求め提訴しました。
社会福祉法による規制
社会福祉法27条によりますと、社会福祉法人はその事業を行うに当たり、その評議員、理事、監事、職員その他政令で定める関係者に対して「特別の利益」を供与してはならないとしています。ここで社会福祉法人とは社会福祉事業を行うことを目的とし所轄官庁の認可を受けた法人をいいます(22条、30条、31条、32条)。平成28年の社会福祉法改正により、財務の透明化や財務規律の適正・公正化を図ることを目的として規定されました。社会福祉法人の私物化と関係者の不正な利益を防止するためと言えます。
特別の利益供与の要件
(1)適用対象
本条が適用される対象は評議員、理事、監事、職員、そしてそれらの者の配偶者、3親等内の親族、それらの者と事実上の婚姻関係にある者、それらの者から金銭等を受け生計を維持する者などが挙げられております。また当該法人の設立者が法人である場合はその法人と親子会社の関係にある場合なども規定されております(27条、施行令13条の2)。
(2)特別の利益
それではどのような利益の供与が禁止されるのでしょうか。法人税法基本通達1-1-8によりますと、法人が特定の者に対しその所有する財産を無償または通常よりも低廉な対価で譲渡すること、通常より低廉な賃料で貸し付けること、無利息または通常よりも低い利率で金銭を貸し付けること、特定の者から通常よりも高い価格で資産を譲り受けること、通常よりも高い賃料で賃借すること、特定の個人に過大な給与等を支給するといった社会通念上不相当な利益の提供を言うとされております。いずれも法人の財産を私物化し財産的基盤を浪費する行為といえます。
コメント
本件で社会福祉法人である明照会側は同法人の前理事長らが親族らが経営する企業の保有する不動産を不動産鑑定評価額の3倍以上の賃料で賃借し、また架空の業務委託契約で親族企業に約5500万円を支出していたとしています。これが事実であった場合はいずれも社会通念上不相当な利益の供与に該当すると考えられます。以上のように行政は社会福祉法人の法人財産の私物化を厳格に監査してきておりました。それを受け平成28年改正で法定化されたものと言われております。会社法にも同様の利益供与の禁止規定が置かれれておりますが、こちらは主に総会屋対策という意味合いが強く、株主としての権利行使に関する利益供与が規制対象となっております。営利法人であれ、公益法人であれ目的に反した法人財産の浪費は違法となります。今一度資産の流れに問題が無いかを確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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