派遣会社が詐称強要で賠償命令、経歴詐称について
2024/07/23 契約法務, 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 労働者派遣法, IT, 人材

はじめに
派遣会社に採用され、取引先で働いていた元システムエンジニアの男性3人が、派遣会社に経歴詐称を強要され、加重業務で精神的苦痛を受けたなどとして賠償を求めていた訴訟で東京地裁が賠償を命じる判決を出していたことがわかりました。実務経験はなかったとのことです。今回は派遣における経歴詐称について見ていきます。
事案の概要
報道によりますと、原告の3名は求人サイトを通じて派遣会社にシステムエンジニアとして採用されたとされます。その際、経歴や年齢を偽ったスキルシートの作成を会社に強要された上で派遣先で勤務し、能力に見合わない業務を担当させられたとのことです。3名は加重業務によって精神的苦痛を受けたとして派遣会社の代表ら2人に対し計約1300万円の賠償を求め提訴しておりました。なお3名はすでに同会社を退職しているとのことです。
経歴詐称と解雇
経歴詐称とは、一般に履歴書や面接などで虚偽の学歴、職歴、犯罪歴などを記載・申告する行為を言います。重要な経歴の詐称は解雇事由となっており、多くの企業でも就業規則に解雇事由の1つとして定められていると言えます。経歴詐称は会社に労働者の適切な評価を誤らせ、採用後の業務に支障を招く恐れがあり、また日本では高卒と大卒では賃金体系も異なっており公正・公平な労働秩序を侵害するものと言われております。しかし経歴詐称が発覚したとしても、常に解雇することができるというわけではありません。それではどのような場合に解雇が可能なのでしょうか。経歴詐称による解雇は懲戒解雇の一種とされることから懲戒処分の要件を満たす必要があります。まず就業規則に定めがあり従業員に周知されている必要があります(最判平成15年10月10日)。次に懲戒処分に客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である必要があります(労働契約法15条)。また事実関係の調査や対象者に弁明の機会を与えるなど、手続きが適正である必要があります。そして、経歴詐称が事前に発覚していれば雇用しなかったと言えるなど、会社と労働者間の信頼関係に重大な影響を与える場合である必要があります。
派遣と経歴詐称
自社に派遣されている派遣社員が経歴を詐称していた場合はどうでしょうか。派遣してもらった社員が期待した能力を有しておらず、調べると聞いていた職歴は虚偽であったといった場合です。このような場合、派遣先の会社は派遣社員とは雇用契約を締結しているわけではないので、上記のような解雇といった問題にはなりません。一定の能力や資質を有する派遣会社を派遣するという、派遣会社と派遣先が締結した派遣契約に違反していることとなります。つまり一種の債務不履行であることから、改めて契約に適合する派遣社員の派遣を派遣元に求めることとなると言えます。労働者派遣では、派遣先は個人を特定する行為が禁止されることから、どのような労働者が派遣されるかについて決定権を有しておらず、このような事態が生じることも少なくないと言えます。
派遣元会社が詐称していた場合
それでは派遣社員ではなく、派遣元会社が詐称、または社員に詐称を強制していた場合はどうなるのでしょうか。自社が派遣する社員の経歴や能力を実際よりも良く詐称し、派遣先企業がそれを信じて派遣契約を締結したといった場合です。このような場合、もし詐称がなければ派遣先が契約を締結していなかったといった場合には詐欺罪が成立することも有り得ると言われております。詐欺罪の成立要件は、(1)欺く行為、(3)相手方の錯誤、(3)財物の交付、(4)財産上の利益の移転とされ、経歴詐称によって派遣先が錯誤に陥り、契約で定められた金銭を支払うことで詐欺罪に該当し得るということです。またこれとは別に民事上の損害賠償責任を負うことも考えられます。
コメント
本件で派遣会社は採用したシステムエンジニアに実務経験などの経歴や年齢などを詐称することを強要していたとされます。東京地裁は、取引先に対する詐欺行為で利益を得ようとするものとし、違法な業務命令であったと認定して慰謝料など計約510万円の支払いを命じました。以上のように社員自身が経歴詐称をした場合は解雇の可否が問題となりますが、派遣会社が社員に経歴詐称を詐称をさせた場合や、社員の経歴を偽っていた場合は派遣先に対する詐欺や不法行為に該当する場合があります。また派遣先企業だけでなく、派遣した社員自身も能力や経験に見合わない過大な業務をさせられ心身を壊すことにも繋がります。社員自身の詐称だけでなく、会社が社員の能力や経歴を偽ることについても社内で周知していくことが重要と言えるでしょう。
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