知財高裁がTX運行会社に賠償命令、新聞の著作権について
2023/06/13   知財・ライセンス, 広告法務, 著作権法

はじめに

 新聞記事を車内掲示板で無断共有したのは著作権の侵害に当たるとして、新聞社が「つくばエクスプレス」運行会社に賠償を求めた訴訟で8日、知財高裁が賠償を命じる判決を出しました。一審東京地裁判決よりも増額されたとのことです。今回は新聞記事の著作権について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、つくばエクスプレスを運行する「首都圏新都市鉄道」(東京)は2005年から19年にかけて、日本経済新聞の記事を少なくとも829本データ化し、全従業員が閲覧できる社内イントラネットに掲載していたとされます。また中日新聞社の記事も同様に社内イントラネットに無断掲載していたとされ、日経新聞社は同社に対し約4400万円、中日新聞社は約4200万円の損害賠償を求め提訴しました。一審東京地裁は同社に対し、日経新聞社に696万円、中日新聞社に133万円支払うよう命じました。一審・二審ともに新聞記事の著作権の有無が争点となっていたとされます。

 

新聞記事の著作権

 著作権法2条1項1号によりますと、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」としております。また10条1項では、「小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物」(1号)「写真の著作物」(8号)と例示されております。なお同2項では「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない」としております。新聞記事はこの言語の著作物や写真の著作物に該当すると考えられております。そして文化庁の発表では、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道とは、いわゆる人事往来、死亡記事、火事、交通事故に関する日々のニュース等、単に事実を羅列したにすぎない記事など、著作物性をゆうしないも」としております。誰がどこで死亡したというだけの記事や、どこで誰が衝突したといった簡単な事故記事などには著作権性は無いということです。しかしそれを超えて事故の背景や故人の業績などを交えて記者の思想を加えると著作権が発生するとされます。

 

著作物と引用

 著作物の利用でも著作権侵害に該当しない場合があります。それが引用です。著作権法32条では「公表された著作物は、引用して利用することができる」としております。しかしその一方で「その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内でおこなわれるものでなければならない」とされます。さらに「引用」は質的・量的にも必要最低限の範囲で許容され、あくまで引用先である記事・文章が「主」で引用部分が「従」といった関係である必要があると言われております。引用部分がメインで、それにわずかな解説を加えた程度では引用の範囲を超えているということです。また引用に際しては、「著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じて合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない」とされます(48条)。

 

新聞の見出しと著作権

 新聞記事に関する裁判例として、新聞の見出しが無断利用されたという事例で知財高裁は、一般に記事見出しは出来事等を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか、字数にも限界があるなど表現の選択の幅は広くなく、創作性を発揮する余地も少なく、著作物性を肯定することは容易ではないとしつつ、その表現いかんでは創作性を肯定しうる余地があり、各記事の表現を個別具体的に検討して創作性を判断すべきとしております(知財高裁平成17年10月6日)。この事例で読売新聞社は「道東サンマ漁、小型漁船こっそり大型化」「国の史跡傷だらけ、ゴミ捨て場やミニゴルフ場…検査院」など数百本におよぶ見出しを主張しましたが、知財高裁は全てについて著作権性を否定しております。記事の見出しについては著作権が認められないわけではないとしつつも、容易には認められないということです。

 

コメント

 本件で知財高裁は、一審東京地裁に続いて各新聞社の著作権を侵害したとし、損害の賠償を命じました。争点となっていた新聞記事の著作権性について、記事内容をわかりやすく要約したタイトルが付され、文章表現の方法等について表現上の工夫が凝らされているとして著作物性を認めました。単なる事実の伝達ではなく、記者の思想または感情を創作的に表現したものと認められたと考えられます。知財高裁が新聞記事の著作権性を正面から認めたのは初めてとされます。以上のように新聞記事も原則として著作権が認められます。見出しだけでは認められにくいと言えますが、本件では本文と一体として認められたと言えます。また引用にも一定のルールや制限が設けられております。社内イントラネット等で利用する際には、それらの点も踏まえて著作権侵害とならないよう留意することが重要と言えるでしょう。

 

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