東北大の雇い止めを適法とする判決/無期転換ルールと雇い止めについて
2022/07/01   労務法務, 労働法全般

はじめに

 東北大学の事務職員だった男性が不当な雇い止めを受けたとして、雇用の継続を求めていた訴訟で先月27日、仙台地裁は雇い止めを適法とする判決を出していたことがわかりました。無期転換の申請が可能な5年を経過していたとのことです。今回は無期転換ルールと雇い止め法理について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、東北大学の事務職員として12年間勤務していた60代の男性が、無期転換の申請ができる通算5年の勤務期間を超えていたにもかかわらず大学側に雇い止めされたとされます。同大学では2017年度末にも非正規職員約300人が雇い止めされており、2022年度末も同様に約240人の非正規職員が雇い止めされる見通しとのことです。同大学の就業規則では雇用期間の上限を通算で原則5年、研究職では原則10年と定められており、採用時にもそれら労働条件は明示しているとされ、それらの任期満了により退職となるとしております。原告側の男性は雇い止めは違法であるとして雇用継続を求め仙台地裁に提訴しておりました。

 

無期転換ルールとは

 平成24年に改正された労働契約法18条によりますと、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、労働者の申込により無期労働契約に転換されることとなっております。1年ごとの更新の場合は5回目の更新時に申込権が発生します。仮に3年契約である場合は、1回目の更新時で既に通算契約期間が6年となることから4年目に入った時点で申込権が発生することとなります。また同一の使用者との間で労働契約を締結していない「無契約期間」(クーリング期間)が一定以上の場合はその期間に入る前の有期労働契約期間は算入されずリセットされます。このクーリング期間は契約期間が1年以上の場合は6ヶ月、1年未満である場合はその期間の半分とされます。つまり1年ごとに更新される場合は、6ヶ月未満の空白期間があっても通算されることとなります。

 

有期労働契約と雇い止め

 有期労働契約の期間満了をもって更新せずに終了することを雇い止めと言います。最初の契約時に一定の期間働いてもらいたいとし、それに対して合意がなされている以上、原則として期間満了で終了する雇い止めは違法なものではありません。しかし有期労働契約とは言え、長年何度も契約が更新され続けており、業務内容も正規労働者と変わらないような場合、突然更新を辞めてしまうと労働者にとっての不利益や負担は大きなものとなります。労働者側から労働者としての地位確認や損害賠償を求め提訴されることもあると言えます。実際に何度も更新され、更新拒絶が正社員の解雇と同視できるとした判例(最小判昭和49年7月22日)や契約満了時に契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるとした判例(最小判昭和61年12月4日)が存在します。これらの判例法理がいわゆる「雇い止め法理」と呼ばれ確立していきました。それを受け労働契約法の平成24年改正によって明文化されております。

 

雇い止め法理の要件

 労働契約法19条によりますと、(1)有期労働契約を過去に反復して更新され、社会通念上無期労働者を解雇することと同視できる場合、または(2)有期労働契約の労働者が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合は、更新拒絶が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当」と認められない場合は違法となります。更新されることに期待する合理的な理由については、最初の契約時から雇い止めまでにおけるあらゆる事情を総合的に勘案するとされます。また会社側が更新年数や更新回数の上限などを一方的に宣言しても直ちに合理的理由が否定されるものではないとされます。この規定が適用されるには労働者側による更新の申込が必要とされますが、これは雇い止めに対して「困る」と言うなど反対の意思が伝われば良いとされております。

 

コメント

 本件で東北大学の事務職員として勤務していた有期雇用の男性の勤務年数は12年間であったとされます。裁判では本件雇い止めが無期労働契約における解雇と社会通念上同視できるかが争点となっていたとのことです。仙台地裁は契約満了前に更新手続き等を厳格に行っており無期契約と実質的に異ならない状況とは言えないとしました。また無期転換の回避を目的とした雇い止めであっても直ちに違法となるものではないとしました。無期転換直前の回避的な雇い止めを直ちに違法ではないとした点が注目されます。以上のように現在多くの企業が非正規職員を使用しており、近年のコロナ禍によって同様の雇い止めは今後も増加していくことが予想されます。しかし安易に無期転換回避のための雇い止めをした場合は紛争に発展する可能性が高いと言えます。法の規定やこれら裁判例の動向を今後も注視していくことが重要と言えるでしょう。

 

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