再雇用の嘱託社員がJR九州を提訴、同一労働同一賃金の原則について
2022/04/19   労務法務, 労働法全般

はじめに

JR九州(福岡市)の再雇用の嘱託社員15人が、正社員だった時と業務内容は同じであるにもかかわらず待遇に格差があるのは違法だるとして、差額の賃金などを求め提訴していたことがわかりました。基本給が半減したとのことです。今回は同一労働同一賃金の原則について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、JR九州では2013年から全社員を対象に、60歳の定年退職後も希望者を嘱託で再雇用する制度を導入し、現在は65歳までの5年間延長、その後は70歳まで1年ごとの契約の延長ができるとされます。原告は大分、熊本、佐賀、長崎、鹿児島に住む男性15人で、正社員の時は車掌や運転士などとして同社に勤務しており、2017~21年に定年退職した後は嘱託社員として再雇用されたとのことです。しかし再雇用後は業務内容は再雇用前とほぼ同様であるにもかかわらず、基本給がほぼ半減し、扶養手当や住宅手当も無くなったとされます。原告側の15人は不足分にあたる約7200万円の支払いを求め福岡地裁に提訴しました。

 

同一労働同一賃金の原則

 同一労働同一賃金の原則とは、労働内容が同じであれば、雇用形態が異なるという理由のみで不合理な格差を生じさせてはいけないという考え方を言います。以前は労働契約法20条に規定が置かれておりましたが、働き方改革による2021年改正により短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)に統合されております。同法8条によりますと、有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇について、正規労働者の間で不合理な相違を設けてはならないとしております。例外的に、業務内容、責任の程度、職務の内容、配置変更の範囲、待遇の性質、待遇の目的などを考慮して合理的であれば差異を設けることも可能とされます。なおこの原則について同法では罰則は設けられておりません。

 

同一労働同一賃金に関する判例

 退職後の再雇用での同一労働同一賃金に関する判例として、ハマキョウレックス事件と長澤運輸事件(最判平成30年6月1日)があります。いずれも運送会社で定年退職後に有期労働契約を締結したものの、正社員と比べ、各種待遇に格差が設けられたというものです。ハマキョウレックス事件では、基本給は月給制から時給制となり、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、家族手当、定期昇給、賞与等が無くなったとされます。最高裁はこれらのうち無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当に関しては、その目的や性質から正社員との間で差異を設けることは不合理と判断しました。長澤運輸事件では、職務給、精勤手当、住宅手当、家族手当、役付手当、賞与、退職金等がなくなったとされ、超勤手当の算定基準が変更されました。最高裁はそのうち精勤手当については不合理と判断し、超勤手当については差し戻しとしました。いずれもその趣旨や目的から個別に判断していると言えます。

 

同一労働同一賃金ガイドライン

 同一労働同一賃金ガイドラインでも、正規労働者と有期雇用労働者との間での各種待遇における原則を示しております。基本給については、その趣旨・性格に照らして、実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならないとし、昇給についても同一の能力の向上には同一の昇給を、賞与についても同一の貢献については同一の支給を要するとしております。その他役職手当、特殊作業手当、精皆勤手当、時間外手当、深夜・休日手当、食事手当、単身赴任手当、地域手当等についても同様とされます。賃金の決定基準に差異がある場合、「将来の役割期待が異なるため、基準が異なる」といった主観的・抽象的な説明ではなく、職務内容、配置の変更範囲、その他の事情の客観的・具体的な実態に照らした説明が必要とされます。定年後の再雇用でも、定年後の継続雇用であること自体もその他の事情として考慮されうるとしつつ、様々な事情を総合的に考慮されるとし、その事実のみをもって直ちに不合理な格差と認められるものではないとしております。

 

コメント

 本件で原告側の主張によりますと、JR九州での定年後の嘱託社員は正社員時に比べて基本給は半減し、扶養手当や住宅手当も無くなったとされます。判例では住宅手当は配転が予定されている正規社員の費用を補助するという趣旨から、差異は不合理ではないとしておりますが、扶養手当については、有不要親族者の生活を補償し継続雇用を確保するという趣旨から、ある程度長期雇用を予定している場合は不合理な格差とされる可能性があるといえます。今後は基本給などについてもその算定基準の趣旨等が争点となってくるものと考えられます。以上のように非正規の有期雇用労働者であっても、その業務内容や手当の趣旨・目的から正規社員と差が無い場合は不合理な格差は禁止されます。定年後の嘱託雇用でも同様です。非正規というだけで格差を設けず、一つ一つの待遇差について、なぜ正規社員と違うのかを合理的に説明できるよう見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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