医薬品納入談合で3社に4億円超の課徴金へ、入札談合の要件について
2022/02/08   コンプライアンス, 独占禁止法

はじめに

 医薬品納入を巡る談合事件で公正取引委員会は、医薬品卸大手のアルフレッサなど3社に対し独禁法違反で計約4億2000万円の課徴金納付命令を出す方針であることがわかりました。刑事事件としては既に有罪判決が確定しております。今回は独禁法が規制する不当な取引制限と入札談合について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、医薬品卸大手のアルフレッサ(東京都)、スズケン(名古屋市)、東邦薬品(東京都)の3社は、独立行政法人「地域医療機能推進機構」が実施する医薬品購入契約にかかわる入札で談合を行っていたとされます。3社の入札や価格交渉に従事する7人は共謀の上、2016年頃に東京都内の貸会議室などで地域医療機能推進機構が区分した医薬品郡ごとにそれぞれ受注予定比率を設定し、それに従って受注予定業者を決定して、当該受注予定事業者が受注できるような価格で入札を行うことを合意していたとのことです。公正取引委員会は2019年11月に強制調査を行い、当時の執行役員含む7人を刑事告発し、21年6月に各社にそれぞれ罰金2億5000万円、7人に執行猶予付き有罪判決を言い渡しております。

 

不当な取引制限とは

 独禁法2条6項によりますと、事業者が他の事業者と共同して、取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、または遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することを不当な取引制限として禁止しております(3条後段)。価格や数量に関するカルテル、談合などが典型例と言えます。違反した場合には公取委による排除措置命令(7条)や課徴金納付命令(7条の2第1項)が出される場合があります。課徴金算定率は現在業種を問わず10%(中小企業で4%)となっております。また罰則として5年以下の懲役、500万円以下の罰金、法人に対しては5億円以下の罰金が規定されております(89条1項1号、95条1項1号)。

 

不当な取引制限の要件

 不当な取引制限の要件は「意思の連絡」と「相互拘束」であるとされております。その結果「一定の取引分野における競争を実質的に制限」されることで成立します。意思の連絡は明確な合意がなくとも、相互に他の事業者の対価の引き上げ等を認識して暗黙のうちに認容することで足りるとされます(東京高裁平成7年9月25日)。相互拘束は複数の事業者が、何らかの反競争効果の実現のために意思の連絡を通じて互いの行動を調整し合う関係が成立していることを言うとされております。そして一定の取引分野とは市場のことを意味します。ここに言う市場は原則として需要者から見た代替性の観点から画定されるとされております。競争の実質的制限とは市場における価格や品質、数量その他の条件をある程度自由に左右することによって市場支配力を形成することとされます。なお条文上は公共の利益に反して行った場合に成立するように規定されておりますが、公共の利益に反さないとして適法だと判断された例は無いと言われております。

 

入札談合における不当な取引制限

 不当な取引制限が成立するためには、上記のように意思の連絡と相互拘束が必要とされます。入札談合においては「基本合意」と「個別調整行為」があればそれら要件を満たすと言われております。受注者の決定や入札価格を定める基本合意をし、その基本合意に従って個々の入札物件ごとに受注予定者を決定する個別調整行為がなされることが多いとされます。受注者の決定の仕方は様々で、一定の基準を予め設けて優先的に受注者を決定する優先制や販売比率等を基準とするシェア制、事前に決めた順番による輪番制、その都度話し合いで決める等が挙げられております。一般に個別調整行為については証拠が残りやすく、基本合意については立証が難しいとされます。そこで個別調整行為が立証されれば、その状況から基本合意の存在も推認することが許容されるとした裁判例も存在しております(東京高裁平成8年3月29日)。

 

コメント

 本件でアルフレッサ等医薬品卸大手の3社は都内の貸会議室等を利用して話し合い、医薬品郡ごとに受注予定比率を定め、それに従って受注予定業者を決定してそのように入札を行っていたとされます。これらは基本合意とそれに基づく具体的な個別調整行為に該当すると言えます。これにより医薬品卸市場において価格や流通数量などをある程度自由に左右することが可能となっているものと考えられます。以上のように不当な取引制限は同業事業者等がそれぞれ暗黙のうちに価格の上げる等の共同歩調を取るといった場合でも成立し得ます。競合他社の担当者と接触し情報交換等を行った後、同時期に値上げなどが行われた場合や、入札での落札率があまりに高い場合などは談合が疑われることとなります。自社の従業員が同業他社と接触をしていないか、またどこが受注するかを話し合ったりしていないか、今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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