高額違約金で消費者団体が建築会社を提訴、消費者契約法の規制について
2021/12/17 契約法務, 消費者契約法

はじめに
火災保険を利用すれば住宅の修理が実質無料でできると勧誘し高額な違約金を請求するのは違法であるとして、適格消費者団体が建築会社に条項の破棄を求め提訴していたことがわかりました。違約金は保険金の35%とのことです。今回は消費者契約法の違約金規制について見直します。
事案の概要
報道などによりますと、東京都八王子市の住宅リフォーム会社、株式会社ジェネシスジャパンは「火災保険の達人」というウェブサイトを運営し、「火災保険適用で支払われた保険金を使って屋根や外壁などを実質負担ゼロ円で修理する」などと勧誘しているとされます。しかし契約の約款では、保険金を受領した顧客が7日以内に工事代金を支払うなどしなかった場合には、保険金の計35%を違約金として同社に支払わなければならないとしているとのことです。これに対し特定適格消費者団体のNPO法人「消費者機構日本」(東京)は「工事を着工する前なのに、キャンセル料が高すぎる」として契約条項の一部の差止を求め東京地裁に提訴しました。
消費者契約法による規制
消費者契約法では、事業者に一方的に有利になる契約条項や、消費者に一方的に不利になる条項は無効とされております(8条~10条)。具体的には事業者の債務不履行や不法行為により損害が生じた場合でも、その賠償責任を免除するといった条項や、事業者の債務不履行による消費者の契約解除権を放棄させる条項、消費者が後見開始、保佐開始、補助開始の審判を受けたことのみを理由とする事業者の解除権を付与する条項、そして一定の範囲を超える額の違約金条項、その他公序良俗に反し消費者の利益を一方的に害する条項は無効とされております。このような条項に対して適格消費者団体は、事業者に対し当該行為の停止や予防、廃棄、除去など必要な措置を求めることができます(12条)。
違約金に関する規制
消費者契約法9条では、契約解除に伴う損害賠償額の予定または違約金を定める条項であって、解除の時期、区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い生ずべき平均的な損害の額を超える部分については無効とされております(1号)。また消費者側が事業者に支払うべき金銭の遅延損害金については年14.6%を超える部分について無効とされます(2号)。そして本条が適用される「消費者契約の解除」とは民法の規定などにより当事者の一方に与えられる法定解除権と、契約の規定により付与される約定解除権による解除とされております。そして損害賠償額の予定または違約金には違約罰も含まれると言われております。
平均的な損害の額
それではどのような場合に「平均的な損害の額を超え」違法・無効となるのでしょうか。消費者契約法には具体的な基準が示されていないことから事業者にも消費者にも判断が困難だと言われております。消費者庁の解説でも、「平均的な損害」とは同一事業者が締結する多数の同種契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均的な額とされておりますが、具体的な考察は示されておりません。この点について裁判例では賃料相当額の1.5倍の額を損害賠償額の予定として定めていた事例で、賃料相当額を超える部分については9条1号に違反し無効とした例があります(大阪地裁平成21年3月21日)。また「平均的な損害」とは、契約解除によって事業者に生じる損失のうち契約締結による費用、役務履行のための準備費、管理費などで、逸失利益は含まれないと示した例もあります(福岡高裁平成27年11月5日)。
コメント
本件でジェネシスジャパンは火災保険適用で実質0円で家屋の修理ができると宣伝し、保険金を受領した7日以内に顧客が工事代金を支払わない場合には、保険金の35%を違約金として支払わなければならないとしているとされます。上記裁判例では平均的な損害とは事業者の契約に関する役務履行などに必要な費用などとされていることから、工事がなされていない段階で一律保険金の35%とする場合は平均的な損害を超えると判断される可能性が高いと考えられます。以上のように消費者契約法では一定の範囲を超える違約金や損害賠償額の予定は無効とされますが、その具体的基準は無く判断が難しいと言えます。消費者庁ではより具体的な基準や事業者に説明義務を導入すべきではないかと提言されております。今一度自社の契約条項を見直しておくことが紛争を回避する上で重要と言えるでしょう。
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