せっけん販売会社に賠償命令、PL法の要件について
2018/02/21   契約法務, 民法・商法, 製造物責任法

はじめに

旧「茶のしずく石鹸」を使用し、小麦アレルギーを発症したとして女性17人が製造販売会社「フェニックス」(奈良県)と原因物質を製造した「片山化学工業研究所」(大阪市)に対し約1億2300万円の損害賠償を求めていた訴訟で京都地裁は20日、フェニックスに約920万円の支払いを命じました。今回は製造物責任法(PL法)について見ていきます。

事案の概要

報道などによりますと、旧「茶のしずく石鹸」はフェニックスと「悠香」(福岡県)が2004年から製造販売しておりましたがアレルギー症状が報告されるようになり販売を中止し、2011年から自主回収を行っていたとのことです。原告側の女性17人は同製品を使用したことによりアレルギー症状を引き起こし、日常生活や就労に支障を来したとして両社に損害賠償を求め提訴しまいた。また原因物質とされる「グルパール19S」を製造したとして片山化学工業に対しても賠償を求めておりました。

製造物責任法とは

製造物責任法(PL法)はメーカーと直接契約関係にない消費者が製品によって損害を受けた場合にメーカーに無過失責任を負わせることによって消費者を保護することを目的としています(1条)。製品に欠陥がありそれにより使用者が被害を受けた場合、本来であれば民法の不法行為(709条)か瑕疵担保責任(570条)等により責任追及を行うしかありませんでした。しかしこれらはメーカー側の過失を消費者側が立証しなくてはならず、また賠償される範囲も極めて限定的でした。そこでPL法によって製品に欠陥があれば、過失の立証を要せず責任追及を行うことが可能となるということです。

製造物責任の要件

(1)対象物
PL法の対象である「製造物」とは「製造又は加工された動産」を言うとしています(2条1項)。つまり材料に手を加え新たな物として「製造」または「加工」されている必要があります。材料や原料そのものの状態では製造物には該当しません。また動産である必要があります。建築業者が建築した建物は不動産であることが該当しません。建物等の不動産の場合は民法の規定(634条、717条等)によって処理することになります。

(2)製造業者
PL法により責任を負う「製造業者等」とは「製造物を業として製造、加工、輸入した者」とされます(2条3項1号)。また製造者でなくとも「氏名、商号、商標その他」の製造者と誤認させるような表示をした者も含まれます(同2号)。それ以外でも製造、加工、輸入、販売の形態やその他の事情から実質的に製造業者と認められる場合も責任を負うことになります(同3号)。つまり自社で製造していなくてもOEM販売を行っていたり、また製造物を輸入している場合でも責任の対象となるわけです。

(3)欠陥
PL法による責任が発生する要件である「欠陥」とは、「当該製造物が通常有すべき安全性を欠いている」ことを言います。一般的には①設計上の欠陥、②製造上の欠陥、③指示・警告上の欠陥の3つの類型があると言われております。①は設計それ自体に問題があるため生じた欠陥です。②は設計には問題は無いものの、設計どおりに製造されなかったために生じた欠陥です。③は製造物の特性上取り除けない危険性を有する製品につき、消費者に危険回避のための適切な指示・警告がなされなかった場合を言います。そしてこれらの欠陥の有無については「製造物の特性、その通常予見される使用形態、…製造物を引き渡した時期その他の…事情」を考慮して判断するとしています。つまり通常予見できない異常な使用方法による被害は対象外ということになります。

コメント

 
本件で京都地裁は石鹸自体には「有すべき安全性を欠いている」として920万円の支払いを命じました。一方原因物質については「どのような化粧品・医薬部外品に対しても配合の許されない危険な成分であると断定することはできない」として片山化学工業に対しては棄却しました。不特定多数の消費者が使用する石鹸にアレルギー物質を使用することは「欠陥」に該当するが、物質そのものに「欠陥」は認められなかったものと考えられます。以上のようにPL法は製品に欠陥があれば消費者だけでなくその他のエンドユーザーや第三者も保護の対象となります。企業からみれば責任追及される危険だけでなく、自らもPL法を利用して責任追及を行うことができるというわけです。取引した製品や輸入品に欠陥があり、損害が発生した場合にはPL法を利用することも念頭において対処していくことも重要と言えるでしょう。

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