JAL解雇無効訴訟に見る、整理解雇要件
2016/04/01 労務法務, 労働法全般, その他

はじめに
日本航空(JAL)から整理解雇された40代の元客室乗務員が解雇無効及び、未払い賃金の支払いを求めていた裁判で、3月24日大阪高裁は解雇を無効とした一審判決を覆し、解雇は有効であるとの判決を下しました。今回は整理解雇の要件について見ていきたいと思います。
事件の概要
会社更生法適用のもと経営再建中だったJALは2010年11月、休職や病欠から2010年9月末までに復職していれば整理解雇の対象から外すとの基準を示していました。当時皮膚疾患で2010年5月から休職していた40代の元客室乗務員である本件原告は10月に復職しましたが、整理解雇基準である9月末に復帰していなかったとして2010年末に解雇されました。原告は解雇無効と未払い賃金分の支払いを求めて大阪地裁に提訴しておりました。一審大阪地裁は原告の主張を認め解雇は無効であるとしていました。
整理解雇要件
整理解雇とは、業績が悪化した事業者が経営再建のための人員整理を目的として行う解雇のことを言います。従業員側の落ち度ではなく、事業者側の理由で一方的に行う解雇であることから、整理解雇を行うためには厳格な要件が課されております。整理解雇には人員整理の必要性、解雇回避努力の履行、解雇対象選定の合理性、解雇手続きの相当性の4つの要件を満たすことが必要です。
(1)人員整理の必要性
客観的に高度の経営危機であり、経営再建のために人員整理をする必要性が認められなければなりません。ただちに人員整理しなければ経営破綻が明らかに差し迫っているという場合には当然認められますが、経営が悪化し、このままではいずれ経営危機に瀕すると思われる場合でも認められる傾向にあります。判例によっては企業の合理的経営上やむを得ないと言える場合には広く裁量を認めているものも見られます。
(2)解雇回避努力の履行
整理解雇をする前に、事業者は従業員への影響の少ない他の手段を尽くしたと言えることが必要です。例えば役員報酬の削減、雇用調整助成金の活用、他部門への配転、時間外労働の中止、一次休暇の実施、希望退職者の募集といった他の手段により整理解雇を回避する努力を行うことが求められます。これらを行わずに整理解雇を行った場合には解雇権の濫用として解雇は無効と判断されることになります。判例では割増退職金を提案し、再就職のあっせんを行った事例で回避努力の履行を認めているものもあり、どの程度の経営努力を求めるかは事案によって分かれているようです。
(3)解雇対象選定の合理性
整理解雇の対象選定の基準も合理的なものであることを要し、その基準の具体的な適用についても公平で合理的なもであることが求められます。勤務地、担当業務、年齢、家族構成、会社への貢献といったことを考慮して公平公正に解雇対象を選定しなくてはならないということです。判例では、単に労働条件の切り下げに従わない者は解雇するといった基準は合理性が無く無効としているものや、一方の従業員には他部署に移動できると通知し、他方では解雇の言い渡しのみの通知といった選定は平等性を欠き無効としているものが見られます。
(4)解雇手続きの相当性
整理解雇を行う上で、従業員と十分に協議し、整理解雇の必要性等を十分に説明し納得を得る手順を踏むことが求められます。このような手続きを踏まずに抜き打ち的に行うことは認められません。裁判例でも使用者は解雇の必要性と時期、規模、方法について説明し協議すべき信義則上の義務を負っており、整理解雇が避けられないほど経営危機に陥っていたとしても、そのことをもって義務が免れるものではないとして解雇が無効であるとしているものも見られます。
コメント
本件JALの整理解雇訴訟では、2010年9月末までに復職していない者は整理解雇の対象となるとの基準が上記(3)の整理解雇対象選定基準として認められるかが主な争点となっていました。一審大阪地裁は、基準日をさかのぼって設定したことは合理性を欠くとして無効としました。何月何日までに復職しなければ整理解雇の対象とするというものではなく、既に経過した期日をもって、その日までに復職していなかった者は対象とするというものは従業員にとって酷であり不合理であると判断されたと言えます。しかし二審大阪高裁は一転して基準を有効としました。基準設定には会社の裁量が認められ、裁量を濫用したとは言えないとしています。このように整理解雇についての裁判例は事案によって一定しておらず、要件を厳格に審査した例もあれば、緩やかに判断した例もあります。また厳格に4要件を満たすことが求められるのは主に大会社であり、中小企業ではそこまで厳格には求められていない傾向にあるようです。いずれにしても整理解雇が必要な場合には従業員に対して誠実に協議し理解を求める努力が必要であると言えるでしょう。
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