最高裁でJR東海の敗訴が確定、労組掲示物撤去について
2017/09/19   労務法務, 労働法全般

はじめに

JR東海が労働組合の掲示物を撤去していた行為が不当労働行為に該当するかが争われていた訴訟の上告審で12日、最高裁はJR東海側の上告受理申立を棄却していたことがわかりました。これにより不当労働行為と認めた高裁判決が確定したことになります。今回は以前にも取り上げた不当労働行為の中で特に支配介入について見ていきます。

事案の概況

報道などによりますと、平成25年2月、JR東海労働組合がボーナスカットに対して抗議する内容の掲示物を各職場に掲示したところJR東海側は協約違反に当たるとしてこれらを撤去したとのことです。これに対し労組側は不当な支配介入であるとして会社側に差止と謝罪文の掲示を求め県労働委員会に救済申立を行ないました。労働委員会は翌26年9月、JR東海側の掲示物の撤去行為を不当労働行為に当たると認定し再発防止のための文書配布を命じました。JR東海側はこれを不服として裁判所に提訴していたとのことです。

支配介入とは

労働契約法7条3号では、労働者が動労組合を結成し、または運営することを「支配」しもしくはこれに「介入」すること、また労働組合の運営のための経費について経理上の「援助」を与えることを禁止しております。これを一般的に支配介入と呼びます。団体交渉拒否や不利益取扱と同様に不当労働行為の一つです。支配介入に当たる行為としては様々なものがありますが、具体的には組合結成の妨害、組合脱退の勧奨、組合分裂工作、集会や組合員の尾行・監視、会社施設使用の拒否などが挙げられます。また組合活動を批判する文書の配布や掲示も該当する場合があります。どのような場合に不当な支配介入行為に該当するかについて簡明な基準はありませんが以下、裁判例などを見ていきます。

支配介入に関する裁判例

(1)労組活動を批判する文書の掲示
労組側の頑なな姿勢により団体交渉が妥結できず賞与の支給が遅れているといった内容の文書を掲示したことが支配介入に該当するかについて争われた事例で判例は「言論の内容、発表の手段・方法、発表の時期、発表者の地位・身分、言論発表の与える影響などを総合し、当該言論が組合員に対し威嚇的効果を与え、組合の組織・運営に影響を及ぼす」かで判断するとしています(最判昭和57年9月10日プリマハム事件)。

(2)差別的取扱
一つの会社に複数の組合が併存している場合に、片方の組合には施設・掲示板を提供し、他方にはそれを拒絶した行為が不当な差別であり支配介入に該当するとして争われた事例で判例は、「使用者としては、すべての場面で各組合に対し中立的な態度を保持し、その団結権を平等に承認、尊重すべきであり、両組合に対する取り扱いを異にする合理的な理由が存在しない限り、他方の組合の活動力を低下させその弱体化を図ろうとする意図を推認させるもの」であるとしております(最判昭和62年5月8日)。

(3)施設管理権の行使
社員食堂を労組の集会に使用していたところ、守衛が参加者の氏名を記録し、会社側が今後一切の使用を禁止とし施錠した行為が支配介入に当たるとして争われた事例では、使用者が施設の利用を許諾するか否かは原則として使用者の自由な判断に委ねられており、「権利の濫用」と認められる「特段の事情」がない限り不当労働行為に該当しないとしました(最判平成7年9月8日)。

コメント

本件でJR東海側は掲示物は労働協約に反すると反論しておりましたが、東京高裁は「手当が減額された事例を公開しても大きな不利益は生じない。減額に抗議する組合活動は正当で、労働協約に反していても不当性の程度は低い」とし支配介入に当たるとしました。そして最高裁の上告不受理決定により確定しました。以上のとおり支配介入は多種多様な行為態様があり、どのような行為が違法となるかは一概には言えませんが、裁判例はかなり蓄積されてきております。基本的には労働者の団結権・団体交渉権と使用者側の管理権や表現の自由との合理的な調整という価値判断が働いていると考えられます。「組合活動を辞めなければ整理解雇もありうる」といった発言や労組をことさらに誹謗中傷するもの、威圧恫喝するものは裁判例などでも違法とされておりますが、単に「ストが続けば会社が潰れる」と発言し自粛を訴えた事例では「会社の率直な意見表明にとどまる」として適法とされております(中労昭和57年6月2日)。これらの事例を踏まえ、不当労働行為に当たらないよう慎重に労働組合との交渉を進めることが重要と言えるでしょう。

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