いなば食品で新卒・入社辞退者続出、事前説明と実際の雇用条件に相違か
2024/04/22 労務法務, 労働法全般, 食料品メーカー

はじめに
「CIAOちゅ~る」などの販売で知られる大手食品メーカー、いなば食品に入社予定だった一般職の新入社員が、相次いで入社を辞退したことが報道されました。入社前の説明と異なる老朽化した社員寮での共同生活の強制、募集要項に明記された給与額と異なる条件での給与提示などが理由といわれています。
一般職の9割超の新入社員が入社辞退
「いなばライトツナ」の缶詰や、大人気のペットフード「CIAOちゅ~る」と言った食品を製造・販売する大手食品会社、いなば食品株式会社に入社予定だった一般職の新入社員少なくとも16人が入社を辞退したことがわかりました。いなば食品では、今春、一般職として19名が採用されており、9割を超える新入社員が入社辞退した計算になります。
新入社員たちは、社宅として、雨漏りのあるかなり老朽化した一軒家を案内され、2~4人での共同生活を強いられたといいます。さらに、入社前に聞いていた給与額と異なる給与を提示されたと訴える社員も現れました。
いなば食品は、一連の報道に関して声明文を発表。その中で、社宅が事前説明と異なる状態だった件について、本来は3月20日~26日にかけて、全家屋の点検・クリーニングを実施、完了する予定だったものの、社宅の改修などを担当していた副社長が逝去した関係で、業務引継ぎ体制を整えるのに時間を要したと説明しました。いなば食品は、3月15日付で新しい総務担当を急遽任命したそうですが、改修業務が間に合わなかったとのことです。
求人票と雇用契約で条件が異なる場合には
上述のように、新入社員たちが相次いで入社辞退をした理由は、ボロボロの社宅での共同生活の強制のみならず、給与の問題があったと報道されています。
求人の募集要項には給与額が22万6000円と記載されていたものの、入社の段階になって「給与は決まっていない」旨、会社から告げられたといいます。その後、新入社員が確認したところ、実際の給与は19万6450円だと分かったということです。
いなば食品側は、本件に関し、「一般職の社員が総合職の給料を一般職の給与と誤認した」とする見解を示したとされていますが、新入社員側は「募集の段階で総合職と一般職の採用が別であるとは伝えられていない」と反論したといいます。
今回のように、求人票記載の給与額と契約上の給与額が異なるとして、企業と従業員がトラブルに陥るケースは珍しくありません。
もともと、雇用は、応募者が労働契約の「申込み」をし、企業が「承諾」することで成立します。求人票は労働契約をするための「申込みの誘引」とされ、労働条件の見込みであることから、必ずしもその内容が雇用後の条件となるわけではありません。
もっとも、平成30年に施行された改正職業安定法により、求人票に記載された労働条件を変更する場合には、変更内容を労働者に明示することが義務付けられています。
また、この法改正の前にも、求人票と雇用契約の間で雇用期間や形態に相違があったとして訴訟に発展した事例があり、その中で、裁判所は「求人票と雇用契約で大きな違いがあってはならない」とする見解を示しています。
【参考判例】千代田工業事件(大阪高等裁判所平成2年3月8日判決)
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コメント
今回、いなば食品側は、社員寮については謝罪した一方、事前説明と実際の給与額との相違については、本日時点で公式な見解を出していません。
日本の就職市場においては、希望する企業に入社するうえで、新卒ルートが圧倒的に有利とされており、その優位性を指して一部で「新卒カード」などと呼ばれています。その新卒カードを不意にしてまで入社辞退という選択を取らざるを得なかった入社辞退者たち。キャリアプランに大きな狂いが生じる人も少なくないと想像されます。まずは、一刻も早い真相究明が待たれます。
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