不倫でウエルシアHD社長が辞任/役職員の不倫発覚時の対応策
2024/04/26   労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 会社法

はじめに


女性との不倫判明を受けて、4月17日、ウエルシアホールディングス株式会社は松本忠久社長の辞任を発表しました。同日、松本氏が執行役を務めていたイオン株式会社でも、取締役会にて解任が決議され、世間を騒がせました。
各界・各社で後を絶たない不倫問題。企業の役職員の不倫が発覚した場合、どのように対応すればよいのでしょうか?

 

不倫で社長辞任


ウエルシアホールディングスは、代表取締役社長の松本忠久氏から17日付で辞任届が提出され(前日に会社から代表取締役社長および取締役の辞任を勧告されていた)、これを受理した旨を発表しました。
松本氏はウエルシアホールディングスの親会社であるイオンの執行役も務めていましたが、同日に解任されています。

辞任・解任の理由について会社は、「私生活において不適正な行為があり、会社の信用を傷つけるものだと判断した」ということで、報道では社外の女性との不倫関係が確認されたといわれています。

代表取締役及び取締役の異動(辞任)に関するお知らせ(ウエルシアホールディングス株式会社)

 

不倫は役員解任事由となるか?


役員の不倫をめぐっては、2022年に人気アウトドアブランド「スノーピーク」の当時の社長が、既婚男性との交際および妊娠を理由に辞任した例もあります。では、役員の不倫は、会社として「役員を解任すべき事由」に該当するのでしょうか?

役員の解任に関し、会社法第339条1項では「いつでも、株主総会の決議によって解任することができる」と規定している一方、第2項にて、「解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる」と規定しています。

すなわち、会社が「正当な理由」なく役員の解任を行った場合、後日の、損害賠償請求のリスクを伴うことを意味します。

ここでいう「正当な理由」とは、
・会社において取締役として職務の執行を委ねることができないと判断する、やむを得ない客観的・合理的な事情が存在する場合
・会社として、取締役としての責務の遂行を期待することが客観的に難しい状況がある場合

などを指すといわれており、より具体的には、
(1)職務執行上の法令・定款違反行為
(2)心身の故障
(3)職務への著しい不適任(経営能力の著しい欠如)

などが認められるケースが、これに該当すると解釈されています。

この点、「不倫は、役員を解任する正当な理由に該当するか否か」を正面から論じた裁判例は確認できていませんが、法律専門家の間では、不倫自体は刑事上の違法行為には当たらないことから、単に不倫があっただけでは「正当な理由」として足らず、合わせて、(3)職務への著しい不適任を示す客観的な事情(不倫に夢中で職務に専念していなかった、不倫相手が会社に対する世間の信頼を大きく損なう相手だった等)が必要となるのではという声も見られます。

その意味で、不倫を理由とした役員の解任可否の判断は非常に難しく、会社として役員に辞めてもらいたい場合には、辞任の道筋を探るのが堅実といえます。

 

不倫を理由に従業員を解雇できるか?


では、不倫を行ったのが役員ではなく従業員だった場合、不倫を理由に解雇できるのでしょうか?

■繁機工設備事件(旭川地裁 平成元年12月27日判決)
社内不倫が発覚し解雇された女性社員が、解雇無効を主張して会社を訴えた裁判です。

<訴訟の概要>
女性Aは離婚後、会社Xに就職し、妻子ある既婚男性社員Bと交際を始めました。不倫関係は社内外から批判があり、社長は2人を注意したものの、交際は続けられました。
その後、会社では就業規則に「職場の風紀・秩序を乱した社員は解雇できる」との規定があったため、社長はAさんに解雇通知書を渡しましたが、Aは解雇無効で仮処分を申し立てました。

<判決>
判決では、不倫が、AのB妻に対する不法行為であることを認める一方、会社の就業規則にある「職場の風紀・秩序を乱した」か否かを判断する際には、従業員の行為が企業運営に具体的な影響を与えた否かを勘案しなければならないとしました。
そのうえで、Aが社内不倫をしたという事実だけでは企業運営に具体的な影響があったとは言えず、会社の行った解雇は無効と判断。Aに対し、基本給と住宅手当の支払いを行うよう命じました。

この繁機工設備事件をはじめ、過去の判例を見ると、不倫行為が企業運営に具体的な影響を与えたことを立証できない限り、不倫を理由とした解雇は、解雇権の濫用として解雇無効と判断される可能性が高いといえます。

 

コメント


社会学者 五十嵐彰氏と経済学者 迫田さやか氏が、2020年に日本全国6651名を対象に行った不倫の実態調査では、既婚男性の約40%、既婚女性の約15%が不倫の経験があると回答したといいます。

この結果を見る限り、社内に不倫をしている役職員がいる可能性は相応に高いといえます。

その一方で、不倫のみを理由とした役員の解任や従業員解雇には一定のハードルが存在します。役職員の不倫発覚時に、どのような基準でどのような対応を行うのか、平時から整理しておく必要がありそうです。

 

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