特許法改正 発明者への報酬義務付けはなるか
2014/09/04 知財・ライセンス, 特許法, その他

事案の概要
政府は企業の従業員が発明した特許についての帰属を、発明者から企業に変更する方向で検討している。それに伴って企業に発明者への報酬支払を義務付けるか否かも議論されている。
企業側にそもそも特許が帰属したうえに、報酬支払義務が課されなければ、発明者側の発明意欲が著しく削がれてしまうとの意見がある一方で、企業が発明者のモチベーションの維持、向上のため、適切な評価と処遇をする旨の規定を会社ごとに設ければ問題ないとの意見もある。特に経団連は、発明に関する報酬の取り決めについては、法的介入はなじまず、企業側の自主性に委ねるべきであるとしている。
職務発明の現状
特許法では、企業の従業員が発明した特許(職務発明)について、そもそも発明者に帰属することを前提とした上で(特許法第29条第1項柱書)、使用者である企業側に実施権(特許を使用した製品を開発し、販売するなどできる権利)を与える。一方で、従業員が企業に職務発明に係る権利を譲り渡したときは、従業員が「相当の対価」を受ける権利を保障している。
「相当の対価」に関して、早い段階で従業員の職務発明に関する制度を見直し、円滑に運用している企業もある。例えば明治製菓は、「発明考案取扱規程」と「薬品発明特別報償規程」という制度を設け、特別報奨金として、特許に係る商品の発売後5年間の売上利益額の0.25%、特許譲渡額および実施料では1%で最高5,000万円の範囲で支給をしている。
他方で、企業と発明者間で訴訟に発展した事例もある。有名なものでは、元・日亜化学の研究者・中村修二氏が青色発光ダイオードの発明で争ったいわゆる「中村訴訟」である。当裁判では、中村氏は「相当な対価は639億円が妥当」とし、うち200億円の支払いを企業側に求めていたが、最終的には8億円の支払いとなった。その他には オリンパス光学工業、日立製作所、日立金属、味の素、キヤノンなどの元・技術者たちが、自らの発明に対する相当な対価を求めて訴訟に踏み切ったケースがある。
その後、上記のような紛争多発を受け、平成16年に特許法第35条を改正し(平成17年4月1日より施行)、対価の決定を当事者間の自主的な取決めに委ねる制度を規定した。
しかし、特許庁が平成25年に実施したアンケートでは、発明に対する報酬などの取り決めがある中小企業は76%にとどまっている。法改正後も「相当の対価」請求権が依然として経営上のリスクとなっているとの意見や、企業における研究開発や雇用の在り方等が多様化しているとの意見があり、特許法第35条の再改正が主張されてきた。
特許法を改正し、企業に特許を帰属させる条件として、企業側に報酬支払義務を課すことは、企業の自主性を害するとの声もある。
しかし上述のように報酬の取り決めがある中小企業は全体の76%に留まっているのが現状である。とすれば発明者の保護という観点から企業側に一定の義務を課すのもやむを得ないものと思われる。
また、報酬の算定ルールにつき特許庁が具体的な指針を示し、報酬に関する社内規定を整備しやすくすれば、訴訟発展へのリスクも軽減すると考えられるので企業側にとってもメリットがあるのではないか。
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