取得率が5割を下回る、「年次有給休暇」について
2017/10/10 労務法務, 労働法全般

はじめに
「過労死等防止対策白書」の2017年版が厚生労働省により発表されました。それによりますと、年次有給休暇の取得率は平成11年の50.5%を最後に現在にいたるまで50%を下回る状況が続いております。平成16年の46.6%から若干持ち直してはきていますが依然低い水準を維持しております。今回は年次有給休暇について概観していきます。
年次有給休暇とは
労働基準法39条1項によりますと「使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇をあたえなければならない。」としています。一定期間勤続した労働者の心身の疲労を回復させ、ゆとりある生活を実現することを目的として1947年に導入された制度です。最初の6ヶ月が経過した時に10日、その後さらに1年が経過するたびに11日、12日、14日と増えていき、6年目で最大の20日となります(同2項)。パートタイム労働者の場合は週の動労日数に比例する形で付与されることになります。たとえば週1日の場合、6ヶ月経過で1日、週2日の場合は3日という具合になります(同3項)
有給休暇の取得
年次有給休暇は上記法定の要件を満たせば労働者は当然に取得します。しかし一般的には何月何日に取得するといった申請ないし請求することになります。それでは有給休暇は会社の許可ないし承諾が必要なのでしょうか。この点について判例は労働者が持つ有給日数の範囲内で休暇の「具体的な始まりの時季と終わりの時季」を指定したときは39条5項但書の理由が客観的に存在し、これを理由に会社が変更権を行使しないかぎり年次有給休暇が成立し、当該日に働く義務はなくなるとしています(最二小判昭和48年3月2日)。つまり労働者が有給の申請をした場合、会社の承諾を必要とすることなく有給休暇が成立し、会社は時季変更権の行使をするかしないかの判断しかできないということです。
時季変更権とは
上記のように有給休暇は原則として労働者の権利であり申請すれば当然に成立することになります。しかし会社にとっては時期や時間によっては労働者側の都合で自由に有給を取られては非常に不都合な場合もあるでしょう。そこで39条5項但書では「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」としています。「正常な運営を妨げる」とは事業所の規模、業務内容、当該労働者の職務内容、性質、職務の繁閑、代替要員確保の難易、同時期に申請した労働者の数、その他慣行などを判断要素として判断するとされております。そして会社が労働者に有給申請の理由を聞くことができるのは、この判断のために必要な場合のみとされております(最判昭和57年3月18日)。またこれとは別に、申請する場合は「3日前までに申請する」などと就業規則で定めることが一般的です。有給申請についてこのような定めは裁判例でも合理的な範囲であれば有効としています。
年次有給休暇の時効
年次有給休暇は2年で時効消滅します(115条)。これは上記の発生要件を満たした日を基準とします。つまり6ヶ月間勤務して8割以上の出勤日数を満たしていた場合、その日に取得し、その日から2年で消滅することになります。つまり2年間は有効であり、その年度に消化してしまわなかった場合は、残りの日数は次年度に繰り越すことができるとされております(厚労省通達昭和22年12月15日)。つまりその年度に1日も有給を取得していなかった場合、翌年はその年の分も含め最大で40日の有給取得も制度上は可能ということになります。
コメント
以上のように年次有給休暇は労働基準法上、労働者に当然に付与される権利です。例外として会社が拒否できる場合である時季変更権も「労働基準法39条の趣旨に反し、休暇を取得させるための状況に応じた配慮を欠いているときは、5項但書の事業の正常な運営を妨げる場合には該当せず、時季変更権の行使は違法となる」とされており、もっぱら会社側の都合だけで拒否した場合は時季変更権の濫用となり違法となる場合があります(最判平成4年6月23日)。上の判断要素を踏まえて、法の制度趣旨を逸脱しないよう、労働者側に配慮をした上で時季変更権を行使することが必要です。また行使手続きについても会社の事業に支障を来さないよう、また労働者側に過度な負担を負わせないよう「合理的な範囲」調整した就業規則を定めることが必要です。政府は2020年までに取得率を70%以上にすることを目標にしており、違法労働で摘発された電通も取得を義務化するなどとしております。有給は従業員の心身の健康管理上、非常に有用と言えます。今一度有給制度を見直すことが重要と言えるでしょう。
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