給与のデジタル払い解禁でPayPayが初の事業者に指定、利用企業に必要な手続きは?
2024/08/27 労務法務, 労働法全般, 金融・証券・保険

はじめに
賃金を電子マネーで支払える、いわゆる「デジタル払い」。厚生労働省は8月9日、デジタル払い時に利用できる「指定資金移動業者(銀行等以外で為替取引を業として行う事業者)」として、ソフトバンク子会社のQR決済大手、PayPay株式会社を指定したと発表しました。
PayPay側の指定申請を受け、厚生労働省では、相当期間にわたる審査を行っていたといいます。
賃金のデジタル払いが2023年に解禁されて以降、事業者の指定は初めてです。
デジタル払い解禁 PayPayが第一号に
政府は2023年4月、労働基準法施行規則を一部改正し、スマートフォン決済アプリや電子マネー口座に給与を支払う仕組みである「デジタル払い」を解禁しました。
今回、指定されたPayPayで給与を支払う場合、上限額は20万円となっており、従業員はこの金額内でチャージ額を決めることができます。
PayPayは、ソフトバンクグループ会社10社で希望する従業員を対象に9月分の給与から「PayPay給与受取」サービスを開始するといいます。その後、年内にはすべてのPayPayユーザーである6400万人以上を対象に同サービスを提供開始できるよう準備を進めるということです。
労働基準法では、賃金の現金払いを原則としていますが、例外として銀行口座などへの振り込みが認められています。今回はその例外に、キャッシュレス決済口座が加わった形です。
2023年のデジタル払い解禁後、複数の資金移動業者が申請を行い、厚生労働省で審査を行っていましたが、今回、PayPayが初めての指定事業者となりました。
なお、現在、3つの資金移動業者が厚生労働省の審査を待っている状況で、その他の資金移動業者についても、申請準備を進めているといいます。
デジタル払いの導入企業に必要な手続きは?
会社が賃金のデジタル払いを導入するための手続きは大きく6つです。
(1)厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の確認
(2)導入する指定資金移動業者のサービスの検討
(3)労使協定の締結等
(4)労働者への説明
(5)労働者の個別の同意取得
(6)賃金支払いの事務処理の確認・実施
(1)、(2)については、上述のとおり、現在はPayPayのみが選択肢となっていますが、他に申請中の資金移動業者が指定を受ければ、今後複数の資金移動業者から選べるようになります。
また、(3)の労使協定については、以下の事項の記載が求められています。
・対象となる労働者の範囲
・対象となる賃金の範囲とその金額
・取扱指定資金移動業者の範囲
・実施開始時期
(5)については、会社が従業員に対し、留意事項等の説明を行い、デジタル払い制度の理解を十分に促進した上で、
・賃金のデジタル払いで受け取る賃金額
・資金移動業者口座番号
・代替口座情報等
等を記載した同意書を作成し、署名や捺印等を得る必要があります。
こうした一連の手続きを経て、給与のデジタル払いが導入できるようになりますが、PayPayで支払える給与額については、「20万円以下」という制限が設けられている点に注意が必要です。
そのため、超過分等については、従来の給与振込先である銀行口座などにも合わせて賃金が支払われるよう運用を整備しなければなりません。
賃金のデジタル払いを導入するにあたって必要な手続き_雇用主向け(厚生労働省)
デジタル払い強制で罰則も
給与のデジタル払いについては、給与支払い側・受け取り側、いずれも義務ではなく、双方の希望が合致した場合に実施されるものであるという前提があります。
万が一、会社がデジタル払いを導入し、希望しない従業員へデジタル払いを強制した場合には、雇用主である会社は労働基準法違反で罰則の対象となる可能性があります。
また、会社にデジタル払いが導入された場合でも、現状はPayPay以外のキャッシュレス決済での支払いは認められていません。そのため、たとえ、従業員との間で同意があったとしても、指定されていない資金移動業者を利用しての支払いや、ポイント・暗号通貨などでの給与支払いは罰則の対象となりえます。
コメント
報道などによると、au PAYや楽天ペイをはじめ、指定を希望する資金移動業者は少なくなく、今後、デジタル払い導入の動きは加速しそうです。
それに伴い、企業側では、労使協定の締結のほか、就業規則や給与規程などの変更が求められる可能性があります。
従業員のニーズを把握した上で、必要な手続きを着実に進めることが重要です。
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