顧客預金の詐取容疑で三菱UFJ信託銀行の元行員を逮捕
2023/07/07   コンプライアンス, 危機管理, 刑事法, 金融・証券・保険

はじめに


中野署は、7月3日、三菱UFJ信託銀行株式会社の元行員の女を詐欺容疑で逮捕しました。顧客の口座から現金500万円を不正に払い戻し、詐取した疑いがあるとのことです。

 

13年にわたって着服か


報道などによりますと、当時、資産運用を担当していた女は、2017年11月、顧客の一人から押印済の払戻請求書を不正入手し、この払戻請求書を用い、あたかも顧客から預金の払い戻しを依頼されたように装い顧客の預金を引き出しました。そのうえで、現金を管理する担当者に対し、「お客様が来店しているので直接現金を引き渡す」などとウソをつき、受け取った現金500万円を返金することなく騙し取ったとされています。

発覚のきっかけは、2021年11月に銀行側が行った点検でした。点検の結果を受け、銀行側は内部調査を進めていましたが、その過程で2007年5月以降、計14人の顧客の預金の一部を詐取していた疑いが確認されたといいます。その総額は、1億円近くにのぼるとされており、三菱UFJ信託銀行は、2021年12月に女を懲戒解雇したということです。

女は着服した理由について、「生活費に充てるためだった」などと話しており、容疑を認めています。

なお、三菱UFJ信託銀行側は、顧客14人への弁済を終えているとのことです。

 

従業員に着服容疑がある場合の対応


銀行などの金融業界に限らず、従業員が会社のお金などを詐取・横領するケースは珍しくありません。では、従業員に着服を行っている疑いがある場合、どのような対応が望ましいのでしょうか。
 

事実関係の調査


まずは、徹底的な事実関係の調査を行います。

・そもそも着服が実際に行われたのか
・着服の対象となったものは何か
・着服したのが現金であれば、その総額はいくらか
・お金や物品の流れ

などを、会計帳簿・防犯カメラ映像などを元に調査し、客観的な証拠を集めることが重要です。また、通報者がいる場合にはヒアリングを丁寧に行うことで、不正行為が行われた時期や内容を掴むことができます。

なお、証拠が揃わない段階で懲戒解雇などの処分を先走って行うと、不当解雇を主張されたり、名誉毀損で訴えられるおそれがあるため、要注意です。

 

調査結果に基づく対応


一連の調査で不正が明らかになり、証拠固めも完了した後は、以下の3つの対応が考えられます。

■損害賠償請求
着服の対象となったお金の支払いや物品などの返還、すでに物品がない場合などには相当額の賠償を求めるかたちになります。もっとも、金銭の賠償を行う上で、給料からの天引きは原則行えません。労働基準法上の「賃金全額払いの原則」により、法令で認められた源泉徴収や社会保険料の控除など以外で、賃金から差し引くことが禁止されているためです。ただし、従業員との間で同意があれば、給料と損害賠償請求権とを相殺してよい場合もあります。

 

■就業規則に基づく対応
就業規則の規定に基づき、しかるべき対応を行います。例えば、普通解雇事由や懲戒解雇事由に、当該従業員が行った行為(着服・職務上の非違行為等)が列挙されていれば、従業員を解雇することができます。

 

■刑事告訴
厳正な対応を行う場合、刑事告訴も選択肢の一つとなります。その犯罪態様に応じ、何罪を構成するかは異なってきますが、業務上横領罪の場合でも、詐欺罪の場合でも、有罪となると10年以下の懲役が従業員に科せられます。

刑事告訴のメリットの一つとして、着服された物品・お金の賠償を受けられる可能性が高まる点が挙げられます。着服等を行った従業員側としては、量刑を少しでも軽くするべく、早期の示談成立のため、賠償に応じることが期待されるからです。

さらに、刑事告訴を行うことで「コンプライアンスを徹底する」という会社としての強いメッセージが発信され、再発防止にも効果的だといわれています。

被害状況などに鑑みて、いずれの対応をとるか、慎重に検討することが重要です。

 

コメント


2つの支店をまたぎ、13年にもわたって行われていた今回の詐取事件。三菱UFJ信託銀行側は、元社員逮捕の事実を重く受け止め、再発防止と信頼回復に取り組むとしています。

一方で、「着服」のように、コンプライアンス研修で周知徹底するまでもなく、誰もが犯罪とわかる不正行為については、その予防のため、犯罪を行う機会自体を奪うより他ありません。再発防止のため、会社側の徹底した管理体制の構築が求められます。

 

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