自動車部品大手のマレリが東京地裁に「簡易再生」の申立て
2022/07/08 事業再生・倒産, 破産法

はじめに
自動車部品大手の「マレリホールディングス」は7日、東京地裁に簡易再生の開始決定申立をしたことを発表しました。事業再生ADRの成立を目指していたとのことです。今回は法的整理の一種である簡易再生について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、経営再建中のマレリは私的整理の一種である事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)の成立を目指していたところ、先月24日の債権者会議で全債権者から再建案の同意を得られなかったとされます。同社の負債総額は約1兆1800億円とされ、債権者である金融機関に約4500億円の債権放棄を求め、米投資ファンドの支援を受ける再建案を示していたとのことです。同社は東京地裁から簡易再生手続開始の決定を受け、19日に債権者会議を開く予定となっております。8月には債務削減と米投資ファンドによる出資完了を目指すとされます。
民事再生とは
民事再生とは会社の資金繰りが悪化した際に行われる法的整理の一種です。破産や特別清算などと違い会社を存続させることを目的としていることから会社の業務は停止せずに会社債権者の多数の同意を得て再生計画を策定し会社再建を図ります。同じく再建型の法的整理である会社更生手続きとも異なり現経営陣がそのまま続投でき、原則管財人も置かれず柔軟かつ迅速で低廉な法的整理手続きと言えます。民事再生は大きく分けて「自力再建型」「スポンサー型」「精算型」の3つのパターンに分けられるとされます。自力再建型は債権者からの債権を圧縮して、自社の収益力で再建を図るというものです。スポンサー型はスポンサーによる資金援助を得て事業モデル自体の改変を伴うものです。そして生産型は受け皿会社に営業譲渡した上で旧会社は精算するという手法です。予めスポンサーが決まっている場合も多いと言えます。
民事再生手続きの流れ
民事再生手続きは大まかに、(1)手続開始の申立(民事再生法21条)、(2)保全処分等の発令(26条)、(3)再生手続開始決定(33条)、(4)再生債権の届出と債権の調査・確定(5)再生計画案の立案と裁判所への提出、(6)再生計画案の決議、(7)再生計画の認可、(8)再生計画の遂行と手続終結(186条)となっております。保全処分が出されると債権者による個別の回収が禁止されます。原則として管財人は選任されませんが、裁判所によって選任される場合もあります。期限までに債権者による債権届出がなされ、その内容が確定し再生計画案の作成へと進みます。再生計画案は債権者集会で出席債権者の過半数でかつ、債権額で50%以上の債権者の承認により可決されることが必要です。その後は再生計画を実行していくこととなります。
簡易再生とは
通常民事再生手続きでは、裁判所による開始決定がなされ債権者による債権の届出がされると債権の調査と確定、財産評定などの手続きが行われます。それらを経て債権者集会が招集されます。しかし比較的小規模な事案であったり、ADRなどの私的整理手続きが先行している場合では、届出総債権のうちで裁判所の評価額の5分の3以上にあたる債権者の同意があれば債権調査や確定手続きを省略して債権者集会を招集することができます。これを簡易再生と言います(211条以下)。またさらに全ての届出再生債権者の同意があれば再生計画案の決議も省略して再生計画の認可を受けることもできます。こちらは同意再生と呼ばれます(217条以下)。より簡易・迅速な再生手続きが可能となっております。
コメント
自動車部品大手のマレリホールディングスは近年のコロナ禍による世界的な自動車生産の減少などを受け負債総額を1兆円を超えており、今年2月から事業再生ADRを進めておりました。しかし一部債権者の同意を得られず、再生手続きへの移行となりました。すでに事業再生ADRが先行していたことから債権確定などの手続きを省略できる簡易再生に進むこととなります。今後は投資ファンドのコールバーグクラビス・ロバーツによる支援がなされていく予定です。以上のように民事再生では現経営陣が退陣することなく事業を継続しながら経営再建を図ることができます。会社更生に比べ株主の権利も維持されます。一方で破産と異なり多額の負債は消えずに返済していくこととなります。経営再建を必要としている場合は、事業の状況や負債の額、スポンサーの有無などを考慮して柔軟に手続きを選択していくことが重要と言えるでしょう。
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