【法務NAVIまとめ】首都高ローリー横転事故にみる破産手続の債権者対応まとめ
2016/08/31   事業再生・倒産, 倒産法, 破産法, 物流

はじめに
首都高での事故ををきっかけとして巨額の賠償責任を負った運送業者が破産しました。本件を題材として、破産手続開始決定の通知書が送られてきた場合の社内対応の要点を確認します。使用者責任の点については、過去記事をご参照ください。
参照 弊社サイト 企業法務ナビ

事案の概要(過去記事より抜粋)
2008年8月3日早朝、群馬県高崎市の運送会社多胡運輸所有のタンクローリーが首都高速熊野町ジャンクション内のカーブで速度超過により曲がりきれず横転・炎上しました。タンクローリーには約16キロリットルのガソリンと4キロリットルの軽油を積載し、埼玉県内のガソリンスタンドに向けて輸送していました。積み荷の燃料は約5時間半に渡って炎上し2階建構造の上層部分の路面を熱で変形させました。道路は長さ40m、深さ最大60cm沈下し北池袋から板橋JCTまでが上下線とも通行止めとなりました。8月9日には片側1車線通行で仮復旧したものの全面復旧までには約2ヶ月半を要しました。首都高速道路会社は多胡運輸と運転手および輸送を発注した出光興産に復旧工事費と逸失利益分で約45億円の賠償を求め東京地裁に提訴していました。
※多胡運輸は、既に、2016年8月4日に破産開始決定が出されている。

破産手続きとは
破産手続きとは、債権の平等な分配を図り、抜け駆け的な債権回収を防止する目的で行われる、財産の分配手続です。
債権者は、債務者に対して債権を有している限り、これを行使して債権回収を図ることができるとするのが民法上の原則といえます。しかし、破産の場合、多くの利害関係人が出現する可能性があり、抜け駆け的な債権回収は、債権者の公平を損ないます。そこで、破産法をはじめとした倒産法がこれに修正を加え、破産手続きの中で、債権者に対する公平な分配を図る仕組みが採用されています。

破産手続きには、以下の類型があります。
・管財事件
裁判所により、破産管財人が選任され、破産者の財産を調査・管理・換価処分し,それによって得た金銭を各債権者に弁済または配当するという破産手続の事件類型です。管財事件の場合、届出→調査→確定→配当という破産手続きが進んでいくことになります。
・同時廃止事件
裁判所によって破産管財人が選任されず,破産手続の開始と同時に破産手続が廃止により終了するという破産手続の事件類型です。いかなる場合に同時廃止事件となるかといえば、債権者に弁済または配当すべき財産(破産財団)が集まらない場合などがあります。

破産事件の場合、多数の債権者が破産財産からの債権回収に殺到することが想定されるため、多くの債権者の利害調整の観点から、破産管財人には弁護士が選任されます。

破産手続きの開始
裁判所に対する破産の申し立てにより、破産手続きが開始します。破産手続きが開始したら、破産管財人は、財産を調査・管理を行い、順次換価処分を行っていくことになります。また、破産した会社が締結していた契約などを解約していき、財産の分配の準備を進めていきます。
また、裁判所から、債権者に対して破産手続開始決定の通知が各債権者に送られることになります。
法務担当者はこの時点で、自社が債権を有する会社の破産手続きが開始されたことを知ることになり、破産手続に参加する準備を進めていくことになります。

破産手続き開始決定の通知書が届いたら・・・
破産手続き開始決定の通知書の例(pdf)
参照 麹町パートナーズ法律事務所(pdf)

※破産債権は、裁判所に届出なければ、回収できない。したがって、破産債権の開始決定の通知がされた場合、裁判所に対して破産債権の届出を行う必要がある。

破産手続き開始決定の通知書に記載すべき事項は、
〇破産債権者の表示
・住所
・通知場所
・氏名又は法人名・代表者名

〇破産債権の表示
・届出破産債権の種類
(売掛金、貸付金、給料、退職金、解雇予告手当、手形・小切手債権、租税、約定利息金、遅延損害金)
・別除権の種類及び訴訟の有無
 別除権については後述します。
・執行力ある終局判決ないし債務名義の存在の有無
・債権を証明する文書の添付
破産債権の届出を行う場合には、請求書、借用書など、債権を証明する文書をコピーして準備する必要がある。

届出の場所
届出の場所は、破産開始決定通知書に記載されています。
届出場所については、裁判所や、破産管財人の所属する法律事務所内などが通例です。

届出の期間
原則として、破産手続開始決定の日から2週間以上4か月以内で指定される。
 
届出の手続きについては、以下のHPが参考になります。
参考 おくだ総合法律事務所

債権者集会
債権者集会の開催日時等は、破産開始決定通知書に記載されています。
債権者集会では、破産管財人による収支報告、財産の報告などがなされます。しかし、実態は多くの破産事件で債権者が参加しない簡素な手続となっているのが現状のようです。
参照 中村・安藤法律事務所

※ 債権者集会では、配当が確定されず、債権調査期日で確定されることから、債権者集会に出席しなかったことを理由とした不利益な取扱いは行われない。
参考 おくだ総合法律事務所

債権調査期日
債権者集会に引き続いて、債権者集会が破産事件における管財人の報告、管財業務の方針ならびに当該破産事件に必要な決議をなす手続きであるのに対し、債権調査期日は、債権者から提出された破産債権届出書に記載された債権について、管財人が破産債権としての認否を行う手続きです。
参照 飯田総合法律事務所

債権の確定
債権調査期日において、管財人は、債権者から提出された破産債権届出書から債権認否表を作成し、当該債権について破産債権として認めるのか、あるいは認めない(異議)のかを、債権認否表に記載します。

破産債権が認めれた場合には、当該債権はそのまま確定します。

破産債権が認められなかった場合には・・・
〇債権査定決定の申し立て
届出のあった破産債権について、管財人、再生債務者または他の届出債権者等が、決定送達日から1ヶ月以内に異議を述べた場合に、当該異議を述べられた債権者が、その債権の迅速な確定のため、裁判所に対し、債権の存否・内容等について決定手続で判断することを求める申立てです。
参照 シティユーワ法律事務所
・争いのある破産債権についての調査期間の末日または調査期日から1か月以内
・その額等の確定のために、破産管財人および異議を述べた届出破産債権者の全員を相手方として
・破産裁判所に、その額等の査定の申立をすることができる(破産法125条1項)
申立て書式例
参照 厚木 相模側川法律事務所ブログ
裁判所への提出物は
・申立所 2通(裁判所用正本と管財人弁護士用副本)
・証拠書類 各2部(裁判所用と管財人弁護士用)
・資格証明書(申立人が法人の場合)
・委任状(代理人が提出する場合)

査定決定に不服がある場合には・・・
〇債権査定異議の訴え
通常訴訟の手続きで債権の存否・内容等が判断されることになります。
参照 お金のトラブルドットコム

配当
「財団債権」が破産手続き外で優先的に弁済されたあとに、配当表にしたがって、「破産債権」が弁済されることになります。配当によって、破産手続きの目的は達成されるため、報告の後に手続は終了となります。
参照 LSC法律事務所

その他注意点
〇 別除権(債権に担保をとってるんだけど・・・)
破産債権に担保権が設定されている場合に、破産手続き外で優先権を主張できる場合があります。この場合、配当手続によらずに弁済を受けられる場合があるため、債権の届出の際に、特に裁判所に届け出る必要があります。
参照 同上

コメント
多胡運輸の例でみれば、多胡運輸は33億円の負債総額を有しています。多胡運輸に対して債権を有する債権者は、破産手続開始通知をうけた後に、自社が有している債権の届けを作成し、通知に記載されている届出場所に期間内に提出する必要があります。その際に、債権を証明する文書をコピーして添付する必要があります。
その際に、担保を有している場合には、別除権を主張できる場合があるため、特に届け出る必要があります。その後、債権調査手続、債権の確定、配当を経て、債権回収を図っていくことになります。

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