労働者の自殺と使用者の損害賠償責任についての判例まとめ

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1 はじめに

 2014年に過労死等防止対策推進法が施工されて以降も、労働を苦に自殺する人は後を絶ちません。
 日本の自殺者は平成20年以降減少傾向にあるものの、労務問題を原因の1つとする自殺者の割合は増えています。
(参考:平成30年版過労死等防止対策白書)
 今回は、長時間労働を原因とする労働者の自殺した事案に着目し、使用者の損害賠償責任について裁判所がどのような判断をしたか紹介したいと思います。

2 電通事件(最高裁平成12年3月24日第二小法廷判決)

(1) 概要
 大手広告会社・電通の従業員Aが、長時間労働を続けるうち、うつ病に罹患し自殺。
(2) 業務の過重性 
 業務の内容は、企業に対してラジオ番組の提供主となるように勧誘、企業が宣伝のために主宰する行事等の企画立案及び実施。慢性的に深夜まで残業があり、自殺の5ヶ月前には帰宅しない日が多くなり、帰宅する日も午前6時半~午前7時頃家に着き、午前8時には家を出る生活なった。
(3) 責任の肯定・否定 その理由
 肯定
 Aの直属上司たる部長及び班長が、Aが恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していること及びその健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担を軽減させるための措置を取らなかった。
(4) 損害賠償責任の判断       
 賠償額決定のため差し戻し。その後、和解成立により1億6800万円の支払い。
(5)他の諸事情による減額の有無 その理由  
 過失相殺(民法722条2項)を否定        
Aは、責任感が強く完璧主義的な性格であったが、Aの性格は、一般の社会人の中にしばしば見られ、Aの上司らは業務との関係でその性格を積極的に評価。そうすると、Aの性格は、同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでなかったと判断。
(参考:判決全文)

3 三洋電機サービス事件(東京高裁平成14年7月23日)

(1)概要
 三洋電機株式会社の関連会社で,同社電気製品の部品の販売等を業とする株式会社の従業員Bが、うつ病に罹患し、自殺。
(2)業務の過重性
 係長から企画課長に昇進し、責任の重さから辞めたいと言い出し、しばしば欠勤。辞職したいというものの強く引き止められ、暗に懲戒解雇するとの演技をされることも。自殺未遂も起こす。仕事内容自体は、課内の統率・部下に対する指導の点が加わったものの、その他は係長時代とほとんど変わらず、格別過剰なものではなく、Bは通常朝8時に出勤し、午後6時30分ころに帰宅。
(3) 責任の肯定・否定 
 肯定
 少なくとも課長職が重荷であると訴えて退職の希望までしていたBが、医師の診断書を提出して1か月の休養を申し出たときには、Bの心身の状況について医学的見地に立った正確な知識や情報を収集し、Bの休養の要否について慎重な対応をすることが要請されていたのに、これをせず強引に引き止めた。
(4) 損害賠償責任の判断
 合計約1700万円及び平成8年9月24日から支払い済みまで年5分の割合による金員等。
(5)他の諸事情による減額の有無 その理由
 過失相殺を肯定。損害額から8割の減額。
 自殺には、父親の病気や相談相手であった同僚の転勤、B自身の性格や素因から来る心因的要因が寄与していること、Bやその妻が、医師に自殺未遂について告げず、Bを引き止める上司の説得を結果として受け入れたこと等を考慮
(参考:全基連HP 労働基準判例検索 より)

4 スズキ事件(静岡地浜松支判平成18年10月30日)

(1)概要 
 自動車の製造・販売等を行う会社に勤務していた管理職のCが、うつ病に罹患し、平成14年4月15日、飛び降り自殺(享年41歳)。
(2)業務の過重性
 長年従事したシート設計から、車体設計に異動。部下も数名から21名に増え、人事考課を担当するように。コストダウンやシートベルト実験の失敗により、業務上の心配事もあった。業務量増加により、平成14年2月1日以降は、少なくとも午後9時ないし午後10時ころまで勤務し、週休2日のうちいずれかは休日出勤,月平均で約100時間もの時間外労働。
(3) 責任の肯定・否定 その理由
 肯定
 異動後の業務の過重性やその頃のCの様子等に照らすと、会社での業務がCのうつ病発症の主たる要因といえる。そして、会社は、Cの労働時間や労働状況を把握管理せず長時間労働をさせ、少なくとも平成14年4月には、上司もCのうつ病の発症をうかがわせる異変を認識していながら、Cの業務の負担を軽減させるための措置を何ら採らなかった。
(4) 損害賠償責任の判断
 合計5866万6288円及びこれに対す平成17年2月26日から支払済みまで年5分の割合による金員等。
(5)他の諸事情による減額 その理由
 過失相殺を否定
 Cは、異動までの間は問題なく業務を遂行しており、その性格が同種の業務に従事する労働者の個性として通常想定される範囲を外れるものであったと認めることはできない。また、Cの健康状態、妹や弟の病気がCのうつ病の発症の要因であったとは認められないと判断。
(参考:全基連HP 労働基準判例検索 より)

5 山田製作所事件(福岡高判平成19年10月25日)

(1)概要
自動車部品・農業用機械部品等の製造・販売会社に勤務していたDがうつ病に罹患し、平成14年5月14日に自殺。
(2)業務の過重性
 塗装班(ベルトコンベアでの流れ作業)のリーダーとして、段取り作業。かつてない増産で納期に追われ、係長による叱責もあり心理的負担大。時間外労働・休日労働は、自殺から1か月前は110時間6分、1か月前から2か月前は118時間6分、2か月前から3か月前は84時間48分。連続勤務は最高13日間。
(3) 責任の肯定・否定 その理由
 肯定
 業務の過重性に照らせば、精神障害を発症させるに足りる強い負担があったと言え、自殺は業務に起因する。また、このような過重労働をさせていた以上、Dの健康状態悪化は十分に予見し得た。にもかかわらず業務の負担量や職場環境などに何らの配慮もすることなく、Dを漫然と放置した。
(4) 損害賠償責任の判断
 合計7430万2297円及びこれに対する平成14年5月14日から各支払済みまで年5分の割合による金員等(会社は全面敗訴)。
(5)他の諸事情による減額 その理由
 過失相殺を否定
 Dの変調が表面化してから自殺へ至るまでの経過は急進的で、本人や家族にとっても専門医の診療を受けるなどの行動を取ることは容易でなかった。Dの就労状況からすれば、使用者である控訴人が当然に適切な措置を取るべきであったと判断。
(参考:大阪過労死問題連絡会HP)

6 立正佼成会事件(東京高裁平成20年10月22日)

(1)概要
 立正佼成会附属佼成病院に勤務していた小児科医のEがうつ病になり、平成11年8月16日、飛び降り自殺。
(2) 業務の過重性
 平成11年3月は、83時間の残業に加え8回もの当直。その後も4ヶ月に渡り60時間の残業。当直後の連続勤務等も複数回。部長代行として退職した常勤医の後任を獲得する心理的負担も。3月頃にはうつ病を発症したと思われる。
(3) 責任の肯定・否定 その理由
 否定
 業務の過重性によりうつ病が引き起こされたことは認められる。しかし、業務の過重性は、常勤医2名の予定外の退職により生じた一時的なものであること、Eによる相談等がなかったこと、病院の対応も不十分とはいえなかったことから、病院側にはEの精神障害を予見不可能だった。

7 札幌地判令和元年6月12日

(1)概要
 小樽掖済(えきさい)会病院に勤務する臨床検査技師の男性Fが、うつ病に罹患し、2015年12月病院の屋上から飛び降りて自殺した。
(2)業務の過重性
 2015年6月ごろから、病院の新築移転に伴って導入される電子カルテのシステムの構築などを任され、残業が常態化。小樽労働基準監督署の調査によると、認定されたFの本件病院での時間外労働による拘束時間は、精神障害発症(平成27年12月3日)から1か月前(同年11月4日)までで188時間3分に及ぶものと認められている。その内、裁判所は時間外労働を約160時間と認定。
(3)責任の肯定・否定 その理由
 肯定
 Fに対する160時間の時間外労働による拘束の事実、及びFの個体側要因が原因となって、うつ病を発症したものとは認められないから、Fの自殺は業務に起因して精神障害を発症したことによるものということができる。
 病院は、Fが加重な労働をしていたことを把握し得たにもかかわらず、Fの業務を軽減する等の対策を講じなかった。
(4)損害賠償責任の判断
 慰謝料等の損害金と遅延損害金を合計して、約1億113万円
(もっとも、病院が裁判外で損害賠償の名目の弁済を原告に行っており、弁済によって損害賠償金は消滅。請求自体は棄却された。)
(5)他の諸事情による減額
 過失相殺を否定
 ①Fが技師会活動を休止又は減少させなかった、②Fが被告に おいて設置したメンタルヘルス対策の相談等を利用しなかったこと,Fが業務を部下に割り振るなどして自らの労働時間を適切に管理しなかった、③ Fが仕事について完璧を期そうとする性格であった、④原告がFの体調 の変化を把握していながら、特段の対応を講じなかった、という被告の指摘に対し、過失相殺すべき事由になるものとは認められないと判断。

(参考:判決本文)

8 コメント

 以上の判例から、裁判所は使用者の責任の有無を判断するにあたり、①業務の過重性が慢性的なものか、一時的なものか、②使用者が労働者の健康状態の悪化を予見できたかをポイントにしていると考えられます(「6 立正佼成会事件」参照)。
 次に、損害額の減額の判断については、性格の特殊性(「2 電通事件」等参照)等を,基に自殺に本人の心因的要因が影響しているかをポイントとしていると考えられます(「3 三洋電機サービス事件」参照)。 
 企業の発展には、労働者の努力は必要と思います。しかし、労働者は「道具」でなく、「人」であることを忘れてはいけないと思います。法務担当者としては、労働時間の原則を定める労働法32条、時間外労働を定める同法36条に照らし、労働者の健康に影響が出る程の労働時間が生じていないかチェックする必要があります。また、社内全体の働き方の意識改革を促す啓蒙活動も法務担当の重要な業務と考えます。
 最後に、労働相談、労働法教育、調査活動、政策研究・提言を若者自身の手で行うNPO法人POSSEの代表である今野晴貴氏が執筆されたYahoo!ニュースをご紹介します。同ニュースには過労死対策の現状について書かれているだけでなく、無料労働相談窓口のサイトが多数掲載されています。現状の労働環境に悩んでいる方の参考になれば幸いです。

yahoo!ニュース「電通事件から3年、過労死対策の現状は? -最新のデータから考える-

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[著者情報] atsumi

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