2017年の株主総会の傾向
1 はじめに
9月29日、今年6月末までに開かれた株主総会の議案に対する、大手信託銀行(三井住友、三菱UFJ、みずほ)及び生命保険会社(第一生命、明治安田生命、住友生命、日本生命)計7社の議決権行使状況が公表され、うち4社で前年に比べて議案への反対比率が上昇しました。生保の反対比率が1~3%台であるのに対し、信託銀行は14~16%となり、企業や業界ごとの違いが明らかになりました。
金融業界に限らず、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)や日本版スチュワードシップ・コード(SSコード)の導入を受けて、企業と株主間で企業価値向上に向けた緊張感が強まってきているようです。上記の議決権行使状況の公表も、SSコードの改定を受けたものです。
本稿では、こうした最近の株主総会の傾向に照らして、今後企業にどういった対応が求められるかについてまとめていきたいと思います。
<参考記事>
|毎日新聞|株主総会・議決権行使状況
2 CGコード、SSコードとは
コーポレートガバナンス・コード(CGコード)とは、「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」のことで東京証券取引所が公表している企業統治指針です。
日本版スチュワードシップ・コード(SSコード)とは、金融庁が制定した「責任ある機関投資家」の諸原則のことで、機関投資家が投資企業の中長期的な成長に積極的に役割を果たすべきとの考えから生まれたガイドラインです。
<参考記事>
・CGコード
コーポレート・ガバナンスコード(CGコード)ってなに?
|東証|コーポレート・ガバナンス
・SSコード
日本版スチュワードシップ・コードとは
|金融庁|「責任ある機関投資家」の諸原則(PDF)
3 2017年の株主総会の傾向
(1)総会日の集中化減少
東証の発表によれば、2017年度の総会集中日は6月29日とされていましたが、同日に開催した会社は約30%でした。
例年7割、一時は9割にものぼる会社が集中日に開催していましたが、この数字は大幅に低下し、7月開催も含めた分散化が目立っています。
(2)CGコード、SSコードへの対応
CGコードやSSコードに本格的に対応するため、多くの企業は招集通知について、記載事項を検討し積極的に情報開示したり、カラー化・大判化・増頁化によって見やすくしたりしているようです。また、IR活動やSR活動の充実だけではなく、買収防衛策の導入に向けた動きに注目することも考えられています。
|大和総研|企業が本格化するSSコード及びCGコードにどのように取り組むべきか
(3)株主提案権行使の増加
株主提案権の行使は社数・議案数ともに過去最高を更新しました。東証要請が1単元1000株から100株となったことにより経済的に行使しやすくなったことも原因となっています。内容としては、CGコードやSSコードを意識してか、取締役・監査役の解任要求や配当決定機関の変更といったものが多いようです。
|時事ドットコム|企業と株主間の緊張感が強まった2017年の株主総会
|三井住友信託銀行|株主提案が大幅に増加し、総会議案の賛成比率も低下傾向(PDF)
(4)個人株主への対応
総会に来場する個人株主は年齢層ではシニア層が多く、株式保有期間では10年以上株式を保有している株主が多いようです。これに対応するため、上述した招集通知のカラー化・大判化や総会当日の説明をビジュアル化するといった策がとられています。また、議長の議事運営や動議対応が重要視されているようです。
個人株主については会社についてよく勉強している株主とお土産目当ての株主とに、二極化が進んでおり、こういった現状からお土産を廃止する会社も増加しています。
|日本証券業協会|平成28年 個人投資家の証券投資に関する意識調査 概要(PDF)
|Sankei Biz|株主総会 “お土産廃止”増加、出席者9割減の企業も 模索続く
4 おわりに
CGコード、SSコードの導入を受けて、株主総会のあり方にも変化が生じています。会社においては、株主総会の変化に応じ、招集通知や株主提案への対応が求められます。よりわかりやすい招集通知のためには、カラー化・大判化をはじめ、通知の早期発送やWeb開示の早期化、議決権電子行使プラットフォームの活用といった対応が考えられるほか、事業報告や参考書類の体裁、任意開示への対応などが必要となってくるでしょう。
株主提案権の行使は今後も増えてくると考えられ、マニュアルの策定や関係部門への事前周知など事前の対応に力を入れることが必要となってきます。株主による提案理由の文字量と取締役会意見の文字量との間に顕著な差異が見られているようで、今後問題となってくる可能性もあります。
いずれにしても、企業にあった対応をすることが求められます。CGコードを積極的に利用することで経営改革を実現する契機になるといった意見も見られます。招集通知はカラー化するか白黒のままにするか、お土産は継続するか廃止するか、総会の時間など、自社の株主総会の現状に応じて対応を再検討する必要がありそうです。
<参考>
|日本証券代行株式会社|平成28年「本年の株主総会の動向~株懇アンケートを中心に~」(PDF)
|株式会社ICJ|議決権電子行使プラットフォーム
このニュースに関連するセミナー
法務NAVIまとめ 商事法務 総会対応 会社法平成14年 司法試験合格
平成15年 京都大学法学部卒業
平成16年 弁護士登録(大阪弁護士会)
天野法律事務所入所司法修習57期
平成21年 ボストン大学ロースクール留学(LLM)
平成22年 帰国・外資系製薬会社法務部にて勤務
(人事・知財・製造部門担当法務)
平成23年 ニューヨーク州弁護士登録
平成23年 法律事務所に復帰
○取扱い事件
企業:企業法務、特に人事労務事案を得意とする
コンサルティング:女性が活躍できる職場づくり、問題社員対応、メンタルヘルス対応、ハラスメント対策等
○執筆
「女性社員の労務相談ハンドブック」(共著)新日本法規
今回のセミナー内容は、 「【働き方改革】緊急性の高い実務対応ポイント(過重労働防止のための労働時間規制)」です。
略歴:
2003年 弁護士登録(56期 第二東京弁護士会)
森・濱田松本法律事務所入所
2006年 川上・原法律事務所移籍独立(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
使用者側の労務問題を中心に扱っており、労働組合との団体交渉、休職復職を巡る問題、解雇などに伴う労働裁判などを多数扱っている。
■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
京都大学法学部・アメリカDuke大学LLM卒業。
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
世界最大規模の国際法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所の東京オフィスでの10年の勤務を経て、現在は、オリンピア法律事務所のパートナーとして主に中部圏の企業の国際取引・海外進出をサポートしている。
契約実務・コンプライアンス対応等の企業法務を専門とし、国内企業による国際取引・海外進出、英文契約に精通している。
また、M&Aや上場支援の分野にも力をいれている。
大手総合商社・外資系企業の法務部への出向経験があるため、企業法務の現場の問題意識にも通じている。
今回のセミナー内容は、 「サプライチェーンの労務管理 ~ 近時のトピックを踏まえた留意点」です。
法務と財務の両面から、企業経営に関するコンサルティングを行っている。
■略歴
平成14年 海城高等学校卒業
平成16年 公認会計士試験(旧第2次試験)合格
平成18年 慶應義塾大学経済学部卒業
平成22年 あずさ監査法人退所
平成25年 中央大学法科大学院修了
平成26年 弁護士登録(東京弁護士会)
平成27年 中央大学法科大学院実務講師就任
平成30年 弁護士法人L&Aにパートナー弁護士として参画
■著書等
・「契約審査のベストプラクティス ビジネス・リスクに備える契約類型別の勘所」共著(レクシスネクシス・ジャパン)
・「応用自在!覚書・合意書作成のテクニック」共著(日本法令)
・「ストーリーでわかる営業損害算定の実務 新人弁護士、会計数値に挑む」共著(日本加除出版株式会社)
■
メディア出演
・あさイチ(NHK)
・WBS(ワールドビジネスサテライト)等
今回のセミナー内容は、 「改正民法に向けた契約書修正の対応プロセス(余裕をもって2020年4月を迎えるための3ステップ)」
1994年 大阪弁護士会 登録 梅ケ枝中央法律事務所
2000年 ハーバードロースクール 修士課程(LL.M)卒業
Masuda Funai Eifert & Mitchell 法律事務所(シカゴ)
2002年 第一東京弁護士会 登録替 長島大野常松法律事務所
2004年 外立総合法律事務所
2012年 株式会社カービュー コーポレートリーガルアドバイザー
2016年 法務室長
2018年 AYM法律事務所開設
弁護士会活動(2018年2月現在)
日本弁護士連合会 ひまわりキャリアサポート 委員
第一東京弁護士会 業務改革委員会 委員
企業法務を中心とした法律事務所に長年勤務した後、2012年からインターネット系企業の法務責任者としてプラットフォームを利用したメディア・コマースビジネスについてのさまざまな法律問題をサポート。
2018年にAYM法律事務所開設 代表弁護士
主な著書
「アメリカのP&A取引と連邦預金保険公社の保護 債権管理 No.96」金融財政事情研究会
「米国インターネット法 最新の判例と法律に見る論点」ジェトロ 共著
「Q&A 災害をめぐる法律と税務」新日本法規 共著
一部の関係企業では急ピッチに対策が行われる一方で、
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具体的な実務対策があまり語られていないのが現状です。
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