コーポレート・ガバナンスコード(CGコード)ってなに?
2016/09/26 商事法務, コンプライアンス, 会社法, その他

昨年6月より実施されているコーポレート・ガバナンスコード。今月13日に、東京証券取引所より「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況の集計結果(2016年7月時点)」が報告されました。改めて、コーポレート・ガバナンスコード(以下、CGコード)の概要を振り返るとともに、上記対応状況について概観したいと思います。
1 CGコード(企業統治方針)とは
そもそもコーポレートガバナンスとは、「会社が、株主をはじめ 顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」と定義され、これを実効的に実現するための主要原則を示すものがコーポレートガバナンス・コード(CGコード)ということになります。
企業により同コードが適切に実践され、企業と投資家との対話を経て、ガバナンスの改善が図られることにより、企業の持続的成長と中長期的な企業価値の向上(企業の「稼ぐ力」の回復)が期待されています。
経緯:日本産業再興プランの具体的施策のひとつとして提言(「日本再興戦略」改訂2014(平成 26 年閣議決定よる)され、金融庁と東証の協働による取りまとめを経て、東証により「コーポレートガバナンス・コード」として公表されるに至る。
参考1 「日本再興戦略」改訂2014(平成 26年閣議決定18,33頁以下(PDF)
参考2 コーポレートガバナンス・コード原案の公表(2015年3月5日公表)
参考3 「コーポレートガバナンス・コード」(2015年6月1日公表)(PDF)
2 内容
CGコードは、5つの「基本原則」と、この各「基本原則」に付随して30の「原則」、更に「原則」を補足する38の「補充原則」から成り立っています(計73項目)。具体的なコードの内容は、「コーポレートガバナンス・コード」を参照してください。
適用会社は、東証一部・二部及び、マザーズ、JASDAQの上場会社であり、後二者は、CGコードの適用範囲(説明義務が生じる範囲)が「基本原則」に限定(緩和)されています。
5つの「基本原則」
1株主の権利・平等性の確保 2株主以外のステークホルダーとの適切な協働
3適切な情報開示と透明性の確保 4取締役会等の責務
5株主との対話
3 特色
・プリンシプルベース=原則主義の採用
企業が、柔軟性と自律性を持ちつつも、市場の規律により実効性を担保することに狙いがある。対照的な概念としてルールベース=細則主義による規律(断定的判断の禁止(金商法38条2号))がある。
両者の区別については:http://www.fsa.go.jp/common/conference/danwa/20070912.html
・コンプライ・オア・エクスプレイン方式(上場規程436条の3)の採用
CGコードに定められた諸原則を実施(コンプライ)するか、実施しない場合には、その理由を説明(エクスプレイン)することが求められる。具体的には、CGコード中、コンプライしない項目について、「ガバナンス報告書」(規程419条、同施行規則415条)を通して、上記説明の義務を負います。
※この理由説明の義務を履行しない場合に上場規程違反になりうる点についてはhttp://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/2015/05/post-f78d.htmlをご参照ください。
かくして、上記適用会社は、コンプライさもなくば、エクスプレインをすることが求められることになります。
・開示義務の存在(11項目)
コンプライするに当り、具体的な「(判断)基準」「方針」等の開示が求められるコードがあること(原則1−4[いわゆる政策保有株式について]など)に留意が必要です。
参考:「コーポレートガバナンス・コードにおいて開示すべきとしている11原則の対応状況」(三井住友海上)
※なお、上場会社各社のCG報告書はコーポレートガバナンス情報サービス(証券取引所HP)より閲覧できます。
4 対応状況
※以下は、「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2016年7月時点)」に基づく
4—1 概況
全2,262社中、全73原則をコンプライしている会社が21.0%(前年比↑9.4)、90%以上の原則をコンプライしている会社が63.5%と(前年比↓2.9)、前年にも比して多くの会社がCGコードに高い割合でコンプライしている結果となりました。また、コンプライの方式としても、自社HPでガイドラインを策定し、そこで上記の開示義務を果たす(参照方式)等各社工夫が見られた。
4−2 エクスプレイン率ランキング
【“説明”率が20%を超える原則】
補充原則1-2—4(55.7%)
議決権の電子行使のための環境整備(例:議決権電子行使プラットフォームの利用等)、招集通知の英訳補充原則4-11—3(45.0%)
取締役会による取締役会の実効性に関する分析・評価、その結果の概要の開示補充原則4-2—1(29.8%)
中長期的な業績と連動する報酬の割合、現金報酬と自社株報酬との割合の適切な設定補充原則3-1−2(28.1%)
海外投資家等の比率等を踏まえた英語での情報の開示・提供の推進補充原則4-10—1(25.1%)
指名・報酬等の検討における独立社外取締役の関与・助言(例:独立社外取締役を主な構成員とする任意の諮問委員会の設置)原則4-8(21.2%)
独立社外取締役の2名以上の選任
・1—2—4、3—1—2の収集通知等を含めた情報開示の英訳については、そもそも、英訳が必要となる海外投資家が占める比率の低い会社が多数であることから、今後の海外投資家の比率如何で、対応する等の説明が多い。
・4−11−3については、CGコードが取締役会を、「主として監督機能を果たすことを想定している」(モニタリング・モデル)一方で、「我が国の取締役会は、主として意思決定機能を果たす場合が多い」という実情と、上記コードが、コンプライする上で「結果の概要の表示」までも求めていることがより一層企業側に対応に苦慮させていることが伺えます。
参考:モニタリング・モデルについて詳しくは(田中亘「コーポレートガバナンス・コード――コンプライ・オア・エクスプレイン・ルールによる企業統治改革の意義と課題――」)
・4−8、4−2−1、4—10—1は、何れも上記のモニタリング・モデルを企業統治の理想的なモデルとすることを反映したものであり、同様に、企業側を苦慮させている一方で、独立社外取締役を選任している会社は、市場第一部同二部ともに9割を超え、今後はその実効的な活用に注視されます。
5 小括
前述した集計結果により各コードにかかる企業のコンプライ率が向上していることが示されました。独立社外取締役の選任も進み各企業がその対応に善処した形跡が伺えます。もっとも、プリンシプルベースという形式上、規範自体が抽象的であり、どの程度でコンプライしているといえるか、企業側、投資家にとっても不明確という側面があります。そして、必ずしもコンプライしている企業がエクスプレインしている企業よりガバナンスが優れているということではないというべきでしょう。
コード策定の趣旨は、企業と投資家との対話が促進され、これにより、より良いガバナンスの形が模索され、もって中長期的な企業価値の向上が望まれることにあるのであり、上記のコンプライの多寡に関心が向くことや、うわべだけのコンプライに労を費やすことは、本来望まれるべきことではありません。まずは、企業側が「各原則の趣旨・精神を踏まえ,自らのガバナンス上の課題の有無を検討し,自律的に対応する」ことが求められ、また、そのような視点を企業と投資家との間で共有し合うことが、重要であると考えます。
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