住友理工、「ポケモンGO」を含むスマホゲームを禁止

はじめに

住友理工は、現在世界規模で社会現象となっているスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」を含むスマホゲーム全般を、就業中のみならず、休憩中や出退勤時間も含めて、禁止することを決めました。
今回は、企業が、「ポケモンGO」をはじめとするスマホゲームを禁止することの法的な可否について、他の類似規則を参照しながら検討していきたいと思います。

出典:
日刊工業新聞社「ポケモン禁止だぜ!住友理工、全世界で「ポケモンGO」などスマホゲーム禁止」(2016年8月3日)
(http://newswitch.jp/p/5580)

概要

住友理工は、スマホゲーム全般を就業中・休憩中・出退勤時間中を問わず、全世界の拠点で禁止しました。
これは、いわゆる「歩きスマホ」による転倒や衝突等の事故を防止することを目的になされたものです。
また、同社は、「ポケモンGO」の利用者が、社内や施設内に不法侵入しないように警備を強化し、侵入禁止の看板の設置なども検討しているとのことです。

企業としての対応の背景

そもそも、住友理工がこのような規制に乗り出した背景には、「ポケモンGO」に関して多発する事故や事件の存在があります。
同ゲームが先行配信されたアメリカなどでは、車にはねられたり、崖から転落したり、施設に不法侵入したりと、配信後間もなくして様々な事件・事故が起きてしまいました。
また、日本においても、配信されると、民家に許可なく侵入したり、盗撮されたと勘違いしてトラブルになったりと、事件・事故が絶えません。
更に、配信された直後には、ツイッター上で、「仕事にならない」などの冗談交じりの投稿があるなど、業務への影響も決して小さいものではないようです。
このような背景の下、住友理工は、全面禁止という厳しい対応をとったものと思われます。

就業規則の合法性について

1.そもそも、このような規則(ないしはルール)に法的な問題点はないのでしょうか。
類似の規制としては、下記に示す喫煙に関する規則などが考えられます。若干今回の規制とは趣旨は異なりますが、喫煙に関する規定・措置もこの問題を考える上で参考になるかと思います。

2.法的な問題点の有無
⑴まず、就業中にスマホゲームを行うと、各企業が制定している就業規則内の職務専念義務に抵触する恐れが大きいようです。
この義務に違反してしまうと、「懲戒処分」を受ける可能性があります。企業における懲戒処分とは、戒告・譴責処分、減給処分などがあり、最も重い処分が懲戒解雇です。
⑵では、休憩中・出退勤時間内については、どうでしょうか。
休憩中であれば、「休憩の自由利用」(労働基準法第34条3項)という原則があるので、これに抵触しないように規制する必要があり、無制限のスマホゲーム等の禁止には高いハードルがあるように思えます。
⑶以上からすれば、就業中のスマホゲームの禁止は、合理的な理由に基づくもので、何ら違法ではないことがわかります。
これに対し、休憩中・出退勤時間内の無制限禁止をするには、企業秩序の維持に支障を来すため等の合理的な理由付けが必要となりそうです。

出典:
弁護士ドットコムNEWS「「ポケモンGO」仕事そっちのけで夢中の人続出…バレたらどんなリスクがある?」
(https://www.bengo4.com/c_5/n_4921/)

3.喫煙についての就業規則について
このような規制に類似するものとして、喫煙に関する就業規則があります。
⑴就業時間中の喫煙の禁止については、①企業の労務指揮権と②従業員の職務専念義務を根拠に行うことができると考えられています。
「労務指揮権」とは、企業が持つ従業員の労働義務の遂行についての指揮権をいい、「職務専念義務」とは、労働時間中職務に専念し、他の私的活動を差し控える義務をいいます。
なお、この規則については、喫煙が職務専念義務に違反するような私的行為や現場離脱と評価できるかが問題となるようです。
また、席で喫煙ができなくなった昨今では、仕事の効率低下も問題となり得ます。
⑵就業時間外の禁煙規制については、休憩時間も含めて社内全面禁煙という規則を設けている企業もあるようです。
しかし、このような規則はやや行き過ぎた規制と考える見方もあり、私生活への干渉や労働基準法違反ではないかとの批判もあるところです。
また、これに関連して、近年では、採用時に非喫煙者のみ採用している企業も増えてきており、ある意味、実質上の就業時間外の禁煙規制と評価することもできるかもしれません。
⑶以上からすれば、企業内の禁煙規制については、受動喫煙の有害性を考慮に入れれば、労働者にも合理的な規制として一定程度受容されつつあるようです。

出典:職場の喫煙対策「企業の喫煙対策に関するQ&A集」(http://sugu-kinen.jp/office-kinen/question/)

コメント

以上のように見ていくと、住友理工のスマホゲームの全面禁止にも、一定程度合理的な理由付けがなされているため、(休憩中・出退勤時間まで禁止することに疑義は若干残るものの、)直ちに違法となるものではなさそうです。
改めて考えてみると、そもそもの禁止理由の一つである「歩きスマホによる事故防止」の観点は、社員の安全確保という企業の重要な義務の履行の範疇とも評価できます。
また、前述の職務専念義務との兼ね合いで考えると、このような規制も常識の範囲内であり、企業の秩序維持という観点からも妥当といえるのではないでしょうか。

皆様の企業ではどのようにお考えですか?

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約3年12日前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
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1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。

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