HIS、新型コロナで夏のボーナス支給見送り、賞与の法的性質について

法務担当者が“法務”を語る新しいWEBメディアはコチラ

はじめに

旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)が今年の夏のボーナスの支給を見送る決定をしていたことがわかりました。新型コロナウイルスの感染拡大による業績悪化が理由とのことです。今回は賞与について見直していきます。

事案の概要

 報道などによりますと、HISは新型コロナウイルスの感染拡大を受けて全店舗で臨時休業を実施しておりましたが、今月1日から本社と一部店舗で営業を再開しているとのことです。しかし営業時間を短縮し、休業中も全額支払っていた従業員の給与は6月分は減額する方針とされます。HISの今年10月期の連結純損失は11億円に上ると予想しており、今夏のボーナスの支給も見送ることを決定したとのことです。

賞与とは

 労働者に対し、定期給とは別に特別に支払われる給与のことを賞与と言います。一般にボーナス等と呼ばれ、日本の企業では夏と冬の年2回支給される場合が多いとされます。第二次大戦後のインフレによる生活費の保障という意味合いから今の制度になったとも言われております。それでは企業はこの賞与を従業員に支払う法的義務があるのでしょうか。賞与の法的性質について以下見ていきます。

賞与の法的規制

 昭和22年の労働省通達によりますと、賞与とは「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないものをいう」としています。そして労働基準法上は一種の「賃金」とされてはいますが(11条)、いわゆる賃金支払い5原則等が適用されず、労基法上も特に賞与に関する規定は置かれておりません。しかし賞与を支払う旨の定めをする場合には就業規則に記載する必要があります(89条4号)。

賞与の支払い義務

 それでは会社は賞与を支払う義務が生じるのでしょうか。この点裁判例では、「必ず支払われる雇用契約上の本来的な債務とは異なり、契約によって賞与を支払わないものもあれば、一定条件のもとで支払う旨定めるものもあって、賞与を支給するか否か、支給するとして如何なる条件のもとで支払うかはすべて当事者間の特別な約定によって定まる」としています(名古屋地裁昭和55年10月8日)。つまり賞与を支給するかどうかは会社の任意と言え、労働契約で定めるか、または就業規則で定めた場合に支払うこととなります。

賞与減額・不支給の可否

 それでは賞与を会社の業績悪化などを理由に減額または不支給とすることは可能なのでしょうか。これについてもやはり就業規則等での定め方によると言えます。たとえば「賞与は会社の業績および従業員の勤務成績を考慮して支給する場合がある」といった定め方をしている場合は業績悪化による減額や不支給も可能と言えます。しかしより具体的に「賞与は基本給の3ヶ月分を支給する」といった断定的な定め方をしていた場合には就業規則の変更などをしなければ、業績が悪化していても支給する義務が生じるものと考えられます。

コメント

 本件でHISはコロナウイルスによる影響でツアーのキャンセルが相次ぎ業績が悪化したとしています。同社の就業規則の定め方はわかりませんが、厚労省が公表しているモデル就業規則では「会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由により、支給時期を延期し、又は支給しないことがある」との記載例があります。これに準拠している場合には減額や不支給も可能と言えます。以上のように賞与を支払うことは法的には義務付けられておらず、原則として会社の任意となります。しかし就業規則の定め方によっては自動的に支払い義務が発生する場合もあります。今一度就業規則を見直しておくことが重要と言えるでしょう。

関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

日々の法務業務を効率化したい方はコチラ

このニュースに関連するセミナー

労務法務 労働法
《東京会場》2020年の注目すべき法改正と法務トピック
2020年02月25日(火)
13:30 ~ 16:30
22,000円(税込)
東京都港区
講師情報
淵邊 善彦
ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士

1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。
2020年は改正民法、改正独禁法、働き方改革関連法など重要な法改正が施行され、個人情報保護法などの改正も予定されています。

本セミナーは、これらの法改正の概要とそれがビジネスにどのような影響を与えるかを具体的に解説します。

重要な法改正の動きを俯瞰的に把握するとともに、各法改正が実務に与えるインパクトを理解することにより、社内においてメリハリがついた対応策を検討したり、社内研修を行ったりするための参考にしていただきたいと思います。

また、今年特に話題になりそうな法務トピックを取り上げ、その最新の状況をご紹介し、自社の法務部門の今後を考えるきっかけとしてもご活用いただける内容になっています。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ