HIS、新型コロナで夏のボーナス支給見送り、賞与の法的性質について
2020/06/12 労務法務, 労働法全般, その他

はじめに
旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)が今年の夏のボーナスの支給を見送る決定をしていたことがわかりました。新型コロナウイルスの感染拡大による業績悪化が理由とのことです。今回は賞与について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、HISは新型コロナウイルスの感染拡大を受けて全店舗で臨時休業を実施しておりましたが、今月1日から本社と一部店舗で営業を再開しているとのことです。しかし営業時間を短縮し、休業中も全額支払っていた従業員の給与は6月分は減額する方針とされます。HISの今年10月期の連結純損失は11億円に上ると予想しており、今夏のボーナスの支給も見送ることを決定したとのことです。
賞与とは
労働者に対し、定期給とは別に特別に支払われる給与のことを賞与と言います。一般にボーナス等と呼ばれ、日本の企業では夏と冬の年2回支給される場合が多いとされます。第二次大戦後のインフレによる生活費の保障という意味合いから今の制度になったとも言われております。それでは企業はこの賞与を従業員に支払う法的義務があるのでしょうか。賞与の法的性質について以下見ていきます。
賞与の法的規制
昭和22年の労働省通達によりますと、賞与とは「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないものをいう」としています。そして労働基準法上は一種の「賃金」とされてはいますが(11条)、いわゆる賃金支払い5原則等が適用されず、労基法上も特に賞与に関する規定は置かれておりません。しかし賞与を支払う旨の定めをする場合には就業規則に記載する必要があります(89条4号)。
賞与の支払い義務
それでは会社は賞与を支払う義務が生じるのでしょうか。この点裁判例では、「必ず支払われる雇用契約上の本来的な債務とは異なり、契約によって賞与を支払わないものもあれば、一定条件のもとで支払う旨定めるものもあって、賞与を支給するか否か、支給するとして如何なる条件のもとで支払うかはすべて当事者間の特別な約定によって定まる」としています(名古屋地裁昭和55年10月8日)。つまり賞与を支給するかどうかは会社の任意と言え、労働契約で定めるか、または就業規則で定めた場合に支払うこととなります。
賞与減額・不支給の可否
それでは賞与を会社の業績悪化などを理由に減額または不支給とすることは可能なのでしょうか。これについてもやはり就業規則等での定め方によると言えます。たとえば「賞与は会社の業績および従業員の勤務成績を考慮して支給する場合がある」といった定め方をしている場合は業績悪化による減額や不支給も可能と言えます。しかしより具体的に「賞与は基本給の3ヶ月分を支給する」といった断定的な定め方をしていた場合には就業規則の変更などをしなければ、業績が悪化していても支給する義務が生じるものと考えられます。
コメント
本件でHISはコロナウイルスによる影響でツアーのキャンセルが相次ぎ業績が悪化したとしています。同社の就業規則の定め方はわかりませんが、厚労省が公表しているモデル就業規則では「会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由により、支給時期を延期し、又は支給しないことがある」との記載例があります。これに準拠している場合には減額や不支給も可能と言えます。以上のように賞与を支払うことは法的には義務付けられておらず、原則として会社の任意となります。しかし就業規則の定め方によっては自動的に支払い義務が発生する場合もあります。今一度就業規則を見直しておくことが重要と言えるでしょう。
関連コンテンツ
新着情報

- 解説動画
江嵜 宗利弁護士
- 【無料】新たなステージに入ったNFTビジネス ~Web3.0の最新動向と法的論点の解説~
- 終了
- 視聴時間1時間15分
- 弁護士
- 横田 真穂弁護士
- 弁護士法人咲くやこの花法律事務所
- 〒550-0011
大阪府大阪市西区阿波座1丁目6−1 JMFビル西本町01 9階

- 業務効率化
- クラウドリーガル公式資料ダウンロード

- 業務効率化
- 法務の業務効率化

- セミナー
登島和弘 氏(新企業法務倶楽部 代表取締役…企業法務歴33年)
- 登島さんとぶっちゃけトーク!法務懇談会 ~第16回~
- 終了
- 2025/06/04
- 19:00~21:00

- 解説動画
奥村友宏 氏(LegalOn Technologies 執行役員、法務開発責任者、弁護士)
登島和弘 氏(新企業法務倶楽部 代表取締役…企業法務歴33年)
潮崎明憲 氏(株式会社パソナ 法務専門キャリアアドバイザー)
- [アーカイブ]”法務キャリア”の明暗を分ける!5年後に向けて必要なスキル・マインド・経験
- 終了
- 視聴時間1時間27分
- 弁護士
- 平田 堅大弁護士
- 弁護士法人かなめ 福岡事務所
- 〒812-0027
福岡県福岡市博多区下川端町10−5 博多麹屋番ビル 401号

- ニュース
- 東京地裁がキャバクラで労働契約認定、労働者性と賃金原則2025.6.30
- NEW
- キャバクラに勤務していた女性が、運営会社に対して未払い賃金の支払いを求めた訴訟で、東京地裁は6...

- まとめ
- 11月1日施行、フリーランス新法をおさらい2024.11.11
- フリーランス・事業者間取引適正化等法、いわゆる「フリーランス新法」が11⽉1⽇に施⾏されました...