東京地裁判決から学ぶ商標類否性の判断方法

1 はじめに

 平成30年4月27日、東京地裁は森島酒造株式会社に対し、①同社の販売する日本酒含む種類に「白砂青松」の標章を付してはならないこと②ポスター等から商標を削除することを命令する判決を言い渡しました。同社商標が原告の商標権を侵害すると判断されたためです。問題となった商標は文字と日本画を組み合わせた「結合商標」と呼ばれるものでした。そこで今回は、結合商標の類否の判断方法について検討していきます。

出店:東京地裁平成30年4月27日判決

2 商標類否の基本的判断方法

 商標の類否は、対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、当該商品等の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決せられるとされています。「誤認混同を生ずるおそれ」は、商標の外観・観念・称呼等によって取引者に与える印象・記憶・連想等を総合して全体的に考察し、商品等の具体的な取引状況に基づいて判断するとされています。

3 結合商標の場合

 複数の構成部分が組み合わさって1つの商標を構成しているいわゆる「結合商標」については、分離して観察することが不自然である場合、その一部分のみを分離して他人の商標と比較することは、原則として許されません。
 他方、
 ①商標の構成部分の一部が取引者等に対し、出所識別標識として強く支配的な印象を与えると認められる場合
 ②それ以外の部分から出所識別標識としての称呼・観念が生じないと認められる場合
 以上2点の場合には、商標構成部分の一部分のみを他人の商標と比較して類否を判断することが可能です。

4 今回の事件での対比

 商標はいずれも「白砂青松」の文字から成り、「ハクサセイショウ」の称呼が生じるものでした。いずれの商標にも白い砂と青い松の風景画があり、被告商標には「白砂青松」の文字の左上に「大観」の文字があります。被告は商品名を「大観 白砂青松」として販売していましたが、製品を収める外箱には風景画はなく、ラベルとして商品に貼られていたに過ぎないため、出所識別標識としての機能を有しないとされました。そこで、上記②の場合に該当するとして、「大観」「白砂青松」の文字の部分のみを商標全体から切り離し、原告商標と比べます。
 判例によりますと、被告商標のうち「大観」「白砂青松」の2つを比較すると、2つは文字の大きさ、字体などが異なっているとのことです。ラベルの記載も外箱の記載も「白砂青松」の方が大きく、文字間隔も「白砂青松」の方が広く取られています。このようなデザインから、需要者に対して商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるのは「大観」ではなく「白砂青松」の部分であり、この部分と原告標章を比べるということになります。原告商標と被告商標にはいずれも「白砂青松」の文字があり、いずれも「白い砂と青い松」との観念が生じます。文字の字体は異なるものの、構成される文字は同一であるため、外観も類似します。
 取引の実情の点については、両製品とも日本酒であり、販売地域も同一県内という点に共通性があります。価格や味が異なるという被告側の主張はあるものの、これらは商品の出所について需要者の認識に大きな影響を及ぼすものではないとされました。以上から、被告標章を被告商品に付した場合には、その出所について需要者等に誤認混同が生じるおそれがあると判断され、原告の請求が認容されました。

5 今後の実務に向けて

 商標は、他社の商品や役務の中から、需要者にこちらの商品等を見つけてもらうために存在します。他社の商標に類似する商標を作成してしまった場合、他社の利益を侵害し、こういった訴訟のリスクにつながる可能性があります。また、他社の商標が自社のものと間違われ、他社製品が購入された場合、その分自社製品の売り上げが落ちるといったリスクも考えられます。
 今回の事件では、文字の構成のみならず、配置・大きさ・間隔も考慮し、需要者に与える印象を総合的に判断しています。商標等をデザインする際には、自社のデザインについて持たれるであろう客観的な印象を想定しながら作成することが、商標類似を回避するために有効であると考えられます。また、他社製品研究の段階で商標等を確認し、どのような印象を持つかを把握しておくことも有効です。

【企業法務ナビ内関連記事】
企業法務ナビー「堂島ロール」が勝訴、商標権侵害について
      └ユーハイムが社会福祉法人と和解、商標権侵害について
      └サマンサタバサが「サマンサタバタ」を登録出願、商標の類似性について

【参考サイト】
ファーイースト国際特許事務所ー商標とは?今更聞きにくい基本から最新の知識まで、弁理士が徹底解説!

関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] arai

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

法務ニュース 商標関連 商標法
【名古屋】AIに関する法律問題《ITビジネス法務勉強会:第3回》
2018年08月09日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介 杉谷 聡
■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■杉谷 聡
略歴:
愛知県一宮市出身
愛知県立一宮高等学校卒業
2016年 一橋大学法学部卒業
2017年 弁護士登録(70期 愛知県弁護士会)
オリンピア法律事務所入所
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第3回目のテーマはAIに関する法律問題です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務ニュース 商標関連 商標法
【名古屋】誹謗中傷記事・炎上対策《ITビジネス法務勉強会:第4回》
2018年09月06日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
田代 洋介
略歴:
愛知県名古屋市出身
2010年 静岡大学人文学部法学科卒業
2013年 南山大学法科大学院法務研究科修了
2014年 弁護士登録(67期 愛知県弁護士会)
川上・原法律事務所入所
2017年 オリンピア法律事務所 アソシエイト
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第4回目のテーマは誹謗中傷記事・炎上対策です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 商標関連 商標法
【名古屋】自動運転技術に関する法律問題《ITビジネス法務勉強会:第6回》
2018年11月22日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介 杉谷 聡
■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■杉谷 聡
略歴:
愛知県一宮市出身
愛知県立一宮高等学校卒業
2016年 一橋大学法学部卒業
2017年 弁護士登録(70期 愛知県弁護士会)
オリンピア法律事務所入所
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第6回目のテーマは自動運転技術に関する法律問題です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 商標関連 商標法
【名古屋】情報セキュリティ対策《ITビジネス法務勉強会:第5回》
2018年10月18日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
田代 洋介
略歴:
愛知県名古屋市出身
2010年 静岡大学人文学部法学科卒業
2013年 南山大学法科大学院法務研究科修了
2014年 弁護士登録(67期 愛知県弁護士会)
川上・原法律事務所入所
2017年 オリンピア法律事務所 アソシエイト
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第5回目のテーマは情報セキュリティ対策です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 商標関連 商標法
《渋谷開催》データの利用に関する最近の法令と契約実務
2018年9月10日(月) 15:00~17:20(14:40開場)
10,000円(1名様)
東京都渋谷区
講師情報
岡 伸夫
1992年 京都大学法学部卒業
1994年 大阪弁護士会 登録 梅ケ枝中央法律事務所 
2000年 ハーバードロースクール 修士課程(LL.M)卒業
Masuda Funai Eifert & Mitchell 法律事務所(シカゴ)
2002年 第一東京弁護士会 登録替 長島大野常松法律事務所
2004年 外立総合法律事務所
2012年 株式会社カービュー コーポレートリーガルアドバイザー    
2016年 法務室長
2018年 AYM法律事務所開設

弁護士会活動(2018年2月現在)
日本弁護士連合会 ひまわりキャリアサポート 委員
第一東京弁護士会 業務改革委員会 委員 

企業法務を中心とした法律事務所に長年勤務した後、2012年からインターネット系企業の法務責任者としてプラットフォームを利用したメディア・コマースビジネスについてのさまざまな法律問題をサポート。
2018年にAYM法律事務所開設 代表弁護士

主な著書
「アメリカのP&A取引と連邦預金保険公社の保護 債権管理 No.96」金融財政事情研究会
「米国インターネット法 最新の判例と法律に見る論点」ジェトロ 共著
「Q&A 災害をめぐる法律と税務」新日本法規 共著
IoT技術の進展にともない、公開・非公開のデータの収集・解析と派生データの活用が盛んに行われることが今後予想されます。
他方で多額の費用と労力をかけて有用なデータベースを構築し、営業秘密でない形でサイトやアプリでユーザーに提供している会社においては、
競業他社による目的外利用を予防し、侵害を受けた場合に権利主張していく方法を検討・確保することが重要になってきます。
このセミナーでは、データの利用に関する最近の法改正の紹介と共に、これらを背景にデータ提供に関する約定、提携先との契約において
留意しなければならないポイントを説明いたします。
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

金融庁公表の「顧客本位の業務運営に関する原則」について... 1 はじめに  平成29年3月、金融庁は「顧客本位の業務運営に関する原則」(以下「本原則」といいます)を確定し、公表しました。この原則は、金融事業者が顧客本位の業務運営における効率性を高めるために有用と考えられる原則を定めるものですが、本原則内において「金融事業者」という用語は特に定義されてお...
ラーメン起源論争!? 外人コックに在留資格!... 概要 中国料理のコックとして在留資格を与えられていた中国籍男性に対し、入国管理局が在留資格を取り消し、強制退去処分に処した。この処分を不服として、当該男性が争っていた裁判の判決が2月18日に東京地裁で下された。判決内容は、ラーメン店勤務の事実をもって在留資格「技能」にあたるとの判断を下し、強制退...
日本ハム、ウインナー9254パックを自主回収... 事案の概要 2014年7月16日、日本ハムは、主力の中元商品に入っているウインナーソーセージ計9254パックを自主回収すると発表した。自社農場以外の国産豚肉を使用したのに「自社農場」と虚偽表示していたことが判明したため、自主回収することにしたという。なお、商品の安全性に問題はないとしている。 ...