東京地裁判決から学ぶ商標類否性の判断方法
2018/05/21   商標関連, 商標法

1 はじめに
平成30年4月27日、東京地裁は森島酒造株式会社に対し、①同社の販売する日本酒含む種類に「白砂青松」の標章を付してはならないこと②ポスター等から商標を削除することを命令する判決を言い渡しました。同社商標が原告の商標権を侵害すると判断されたためです。問題となった商標は文字と日本画を組み合わせた「結合商標」と呼ばれるものでした。そこで今回は、結合商標の類否の判断方法について検討していきます。
2 商標類否の基本的判断方法
商標の類否は、対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、当該商品等の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決せられるとされています。「誤認混同を生ずるおそれ」は、商標の外観・観念・称呼等によって取引者に与える印象・記憶・連想等を総合して全体的に考察し、商品等の具体的な取引状況に基づいて判断するとされています。
3 結合商標の場合
 複数の構成部分が組み合わさって1つの商標を構成しているいわゆる「結合商標」については、分離して観察することが不自然である場合、その一部分のみを分離して他人の商標と比較することは、原則として許されません。
 他方、
 ①商標の構成部分の一部が取引者等に対し、出所識別標識として強く支配的な印象を与えると認められる場合
 ②それ以外の部分から出所識別標識としての称呼・観念が生じないと認められる場合
 以上2点の場合には、商標構成部分の一部分のみを他人の商標と比較して類否を判断することが可能です。
4 今回の事件での対比
 商標はいずれも「白砂青松」の文字から成り、「ハクサセイショウ」の称呼が生じるものでした。いずれの商標にも白い砂と青い松の風景画があり、被告商標には「白砂青松」の文字の左上に「大観」の文字があります。被告は商品名を「大観 白砂青松」として販売していましたが、製品を収める外箱には風景画はなく、ラベルとして商品に貼られていたに過ぎないため、出所識別標識としての機能を有しないとされました。そこで、上記②の場合に該当するとして、「大観」「白砂青松」の文字の部分のみを商標全体から切り離し、原告商標と比べます。
 判例によりますと、被告商標のうち「大観」「白砂青松」の2つを比較すると、2つは文字の大きさ、字体などが異なっているとのことです。ラベルの記載も外箱の記載も「白砂青松」の方が大きく、文字間隔も「白砂青松」の方が広く取られています。このようなデザインから、需要者に対して商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるのは「大観」ではなく「白砂青松」の部分であり、この部分と原告標章を比べるということになります。原告商標と被告商標にはいずれも「白砂青松」の文字があり、いずれも「白い砂と青い松」との観念が生じます。文字の字体は異なるものの、構成される文字は同一であるため、外観も類似します。
 取引の実情の点については、両製品とも日本酒であり、販売地域も同一県内という点に共通性があります。価格や味が異なるという被告側の主張はあるものの、これらは商品の出所について需要者の認識に大きな影響を及ぼすものではないとされました。以上から、被告標章を被告商品に付した場合には、その出所について需要者等に誤認混同が生じるおそれがあると判断され、原告の請求が認容されました。
5 今後の実務に向けて
 商標は、他社の商品や役務の中から、需要者にこちらの商品等を見つけてもらうために存在します。他社の商標に類似する商標を作成してしまった場合、他社の利益を侵害し、こういった訴訟のリスクにつながる可能性があります。また、他社の商標が自社のものと間違われ、他社製品が購入された場合、その分自社製品の売り上げが落ちるといったリスクも考えられます。
 今回の事件では、文字の構成のみならず、配置・大きさ・間隔も考慮し、需要者に与える印象を総合的に判断しています。商標等をデザインする際には、自社のデザインについて持たれるであろう客観的な印象を想定しながら作成することが、商標類似を回避するために有効であると考えられます。また、他社製品研究の段階で商標等を確認し、どのような印象を持つかを把握しておくことも有効です。
【企業法務ナビ内関連記事】
企業法務ナビー「堂島ロール」が勝訴、商標権侵害について
      └ユーハイムが社会福祉法人と和解、商標権侵害について
      └サマンサタバサが「サマンサタバタ」を登録出願、商標の類似性について
【参考サイト】
ファーイースト国際特許事務所ー商標とは?今更聞きにくい基本から最新の知識まで、弁理士が徹底解説!
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