賃金不払い逮捕事例に見る労基監督官の権限

はじめに

 岐阜労働基準監督署は3月22日、労働基準法違反容疑で縫製会社社長らを逮捕しました。労基署のブラック企業対策が活発になってきた昨今、労働基準監督官にはどのような権限が与えられているのかを概観していきたいと思います。

事件の概要

 岐阜県の縫製会社社長粟谷浩司容疑者は2014年12月から2015年8月まで、中国人技能実習生の女性4人に最低賃金約165万円の時間外手当約310万円を支払っていなかった上、労基署の調査に対して、虚偽の賃金台帳を提出するなどして調査妨害を行っておりました。岐阜県労働基準監督署は22日、賃金不払い及び調査妨害の容疑で同容疑者及び、技能実習生受入れ事務コンサルタントの伊藤智文容疑者を逮捕しました。

労働基準監督官の権限

 労働基準監督官とは、厚生労働省に採用された国家公務員であり、労働基準法違反の疑いがある民間企業に対し、立ち入り調査、呼出し、是正指導等を行う権限が与えられております。
(1)臨検
 時間外労働、解雇、賃金不払い、労災隠し等の労働基準法違反の疑いが生じた場合、監督官は当該事業所を臨検することができます(101条1項)。臨検とは事業所への立入検査のことで、事前に連絡が行われる場合もありますが、事前連絡は義務ではなく、多くは抜き打ちで行われます。帳簿等の書類の提出を求めたり、使用者、労働者等に対し尋問を行うことができます。タイムカード、36協定届、就業規則、安全管理体制等といったあらゆる書類等を調査して労働関係法令違反が無いかを調査します。その中でも労働時間に関しては特に重点的に調べられます。

(2)是正勧告
 臨検によって労働基準法違反が発覚した場合、事業所に対して是正勧告が行われます。どのような法令違反があり、その点についてどのようにすべきかが書面に表された是正勧告書が交付されることになります。残業代等の不払いの場合は、時効によって消滅していない2年分(115条)をさかのぼって支払うよう命じられることになります。是正勧告はあくまで行政指導の一環であり、法的拘束力なく、事業所の任意の協力によって改善されることが期待されています。しかし、この是正勧告を無視または虚偽の報告によって形だけ改善させたように装った場合、監督官はより強行な手段にでることになります。

(3)逮捕・送検
 是正勧告がなされたということは、臨検によって労働基準法違反が見つけられたということです。労働基準法は117条から121条まで罰則規定を置いており、違反した場合には刑事罰が課されております。労働基準監督官は労働基準法違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の権限が与えられております(102条)。労働基準法違反については警察官と同様に逮捕状を請求し、それに基いて逮捕、送検することができます。つまり労働基準法に違反するということは立派な犯罪であり、懲役・罰金の刑に処せられる可能性があるということです。是正勧告は刑事手続の前段階であり、一定の猶予と見ることもできます。この段階で真摯に改善する必要があります。

コメント

 本件で粟谷容疑者は賃金不払いと調査妨害の容疑がかけられております。賃金不払い及び調査妨害はいずれも30万円以下の罰金に当たります(24条、120条1項、4項)。従来是正勧告には法的拘束力がないことから適切に守られて来なかった傾向にあります。また労働基準監督官の人員不足により十分に監督が行き届いていなかったという事情もあります。ブラック企業根絶に向けて厚労省、労基署が積極的に動き始めている昨今、是正勧告無視に対しては今後刑事手続への移行が増加していくものと思われます。また労働時間法制や罰則等に関しても改正に向けて動き出すことも考えられます。今一度労務体制について見直しコンプライアンス強化を図ることが重要と言えるでしょう。

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インヴェンティヴ・ヘルス・ジャパン合同会社 アジア太平洋地域法務責任者
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登島 和弘
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法務コラム 法務ニュース 労務法務 労働法
【国際法務入門】M&A 合弁会社設立
2017年07月19日(水)
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登島 和弘
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2017年05月17日(水)
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登島 和弘
インヴェンティヴ・ヘルス・ジャパン合同会社 アジア太平洋地域法務責任者
1961年神戸市生まれ
中央大学法学部法律学科卒
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セジデム株式会社(仏系)コーポレートサービス部統括部長・法務部長兼任等、
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法務コラム 法務ニュース 労務法務 労働法
【国際法務入門】知的財産(特許・商標侵害事案、商標案件)
2017年08月23日(水)
19:00 ~ 22:00
25,000円(税込) ※平成29年2月15日開催のLBS体験講座に参加された方は10,000円減算した金額とさせていただきます。 なお、単回申込みを複数回される場合は、上記減算は初回分のみ適用となりますのでご了承ください。
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講師情報
登島 和弘
インヴェンティヴ・ヘルス・ジャパン合同会社 アジア太平洋地域法務責任者
1961年神戸市生まれ
中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、
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法務コラム 法務ニュース 労務法務 労働法
【入門】国際取引における契約締結権限・契約審査基準
2017年03月15日(水)
19:00 ~ 22:00
25,000円(税込) ※平成29年2月15日開催のLBS体験講座に参加された方は10,000円減算した金額とさせていただきます。 なお、単回申込みを複数回される場合は、上記減算は初回分のみ適用となりますのでご了承ください。
東京都新宿区
講師情報
登島 和弘
インヴェンティヴ・ヘルス・ジャパン合同会社 アジア太平洋地域法務責任者
1961年神戸市生まれ
中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、
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【講師からケースの説明】→【グループディスカッション】→【各グループの発表】→【講師レビュー】

★「体験講座」(2月15日開催)の参加者の声★
・書籍等では実務に近い情報が無い為、講座で具体的なケースを想定し仕事の進め方を理解出来てる内容がとてもよかったです。
・少人数で法務業務を担当している為、自分自身の経験、知識、感覚で仕事をしてしまう事が多く、
法務業務をする上で大事な思考のフレームワークを学べて良かったです。
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★今回のテーマ★
「契約案件(契約締結権限、契約審査基準)」
※ こちらで事前課題を用意し、受講前にケース理解を深めていただきます。
※ 本講座は「リーガルビジネススクール 国際法務担当者育成コース(全六回)」の第一回講座を兼ねております。そのため、そちらの申込者と一緒に本講座を受講いただく形となります。
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法務コラム 法務ニュース 労務法務 労働法
第87回MSサロン(名古屋会場)
2017年09月13日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田圭介
愛知県春日井市出身
京都大学法学部・Duke大学LLM卒業。
2005年弁護士登録。
2013年ニューヨーク州弁護士登録。
世界最大規模の国際法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所を経て、
2015年、IBS法律事務所を開設。
国内外の企業法務案件を主に扱っており、国際取引・英文契約を得意としている。
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法務コラム 法務ニュース 労務法務 労働法
第86回MSサロン(大阪会場)
2017年09月06日(水)
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2,000円
大阪府大阪市北区
講師情報
溝上絢子
2004(平成16)年10月
大阪弁護士会に弁護士登録、なにわ共同事務所入所

2008(平成20)年4月~2011(平成23)年9月
大阪大学高等司法研究科(ロー スクール) 非常勤講師
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「取引基本契約を締結する際の下請法をめぐる留意点」です。
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法務コラム 法務ニュース 労務法務 労働法
第88回MSサロン(東京会場)
2017年09月26日(火)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
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キリンホールディングス株式会社グループ法務担当主幹
兼キリン株式会社法務部主幹

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