賃金不払い逮捕事例に見る労基監督官の権限
2016/03/28 労務法務, 労働法全般, その他

はじめに
岐阜労働基準監督署は3月22日、労働基準法違反容疑で縫製会社社長らを逮捕しました。労基署のブラック企業対策が活発になってきた昨今、労働基準監督官にはどのような権限が与えられているのかを概観していきたいと思います。
事件の概要
岐阜県の縫製会社社長粟谷浩司容疑者は2014年12月から2015年8月まで、中国人技能実習生の女性4人に最低賃金約165万円の時間外手当約310万円を支払っていなかった上、労基署の調査に対して、虚偽の賃金台帳を提出するなどして調査妨害を行っておりました。岐阜県労働基準監督署は22日、賃金不払い及び調査妨害の容疑で同容疑者及び、技能実習生受入れ事務コンサルタントの伊藤智文容疑者を逮捕しました。
労働基準監督官の権限
労働基準監督官とは、厚生労働省に採用された国家公務員であり、労働基準法違反の疑いがある民間企業に対し、立ち入り調査、呼出し、是正指導等を行う権限が与えられております。
(1)臨検
時間外労働、解雇、賃金不払い、労災隠し等の労働基準法違反の疑いが生じた場合、監督官は当該事業所を臨検することができます(101条1項)。臨検とは事業所への立入検査のことで、事前に連絡が行われる場合もありますが、事前連絡は義務ではなく、多くは抜き打ちで行われます。帳簿等の書類の提出を求めたり、使用者、労働者等に対し尋問を行うことができます。タイムカード、36協定届、就業規則、安全管理体制等といったあらゆる書類等を調査して労働関係法令違反が無いかを調査します。その中でも労働時間に関しては特に重点的に調べられます。
(2)是正勧告
臨検によって労働基準法違反が発覚した場合、事業所に対して是正勧告が行われます。どのような法令違反があり、その点についてどのようにすべきかが書面に表された是正勧告書が交付されることになります。残業代等の不払いの場合は、時効によって消滅していない2年分(115条)をさかのぼって支払うよう命じられることになります。是正勧告はあくまで行政指導の一環であり、法的拘束力なく、事業所の任意の協力によって改善されることが期待されています。しかし、この是正勧告を無視または虚偽の報告によって形だけ改善させたように装った場合、監督官はより強行な手段にでることになります。
(3)逮捕・送検
是正勧告がなされたということは、臨検によって労働基準法違反が見つけられたということです。労働基準法は117条から121条まで罰則規定を置いており、違反した場合には刑事罰が課されております。労働基準監督官は労働基準法違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の権限が与えられております(102条)。労働基準法違反については警察官と同様に逮捕状を請求し、それに基いて逮捕、送検することができます。つまり労働基準法に違反するということは立派な犯罪であり、懲役・罰金の刑に処せられる可能性があるということです。是正勧告は刑事手続の前段階であり、一定の猶予と見ることもできます。この段階で真摯に改善する必要があります。
コメント
本件で粟谷容疑者は賃金不払いと調査妨害の容疑がかけられております。賃金不払い及び調査妨害はいずれも30万円以下の罰金に当たります(24条、120条1項、4項)。従来是正勧告には法的拘束力がないことから適切に守られて来なかった傾向にあります。また労働基準監督官の人員不足により十分に監督が行き届いていなかったという事情もあります。ブラック企業根絶に向けて厚労省、労基署が積極的に動き始めている昨今、是正勧告無視に対しては今後刑事手続への移行が増加していくものと思われます。また労働時間法制や罰則等に関しても改正に向けて動き出すことも考えられます。今一度労務体制について見直しコンプライアンス強化を図ることが重要と言えるでしょう。
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