取得率が5割を下回る、「年次有給休暇」について

はじめに

「過労死等防止対策白書」の2017年版が厚生労働省により発表されました。それによりますと、年次有給休暇の取得率は平成11年の50.5%を最後に現在にいたるまで50%を下回る状況が続いております。平成16年の46.6%から若干持ち直してはきていますが依然低い水準を維持しております。今回は年次有給休暇について概観していきます。

年次有給休暇とは

労働基準法39条1項によりますと「使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇をあたえなければならない。」としています。一定期間勤続した労働者の心身の疲労を回復させ、ゆとりある生活を実現することを目的として1947年に導入された制度です。最初の6ヶ月が経過した時に10日、その後さらに1年が経過するたびに11日、12日、14日と増えていき、6年目で最大の20日となります(同2項)。パートタイム労働者の場合は週の動労日数に比例する形で付与されることになります。たとえば週1日の場合、6ヶ月経過で1日、週2日の場合は3日という具合になります(同3項)

有給休暇の取得

年次有給休暇は上記法定の要件を満たせば労働者は当然に取得します。しかし一般的には何月何日に取得するといった申請ないし請求することになります。それでは有給休暇は会社の許可ないし承諾が必要なのでしょうか。この点について判例は労働者が持つ有給日数の範囲内で休暇の「具体的な始まりの時季と終わりの時季」を指定したときは39条5項但書の理由が客観的に存在し、これを理由に会社が変更権を行使しないかぎり年次有給休暇が成立し、当該日に働く義務はなくなるとしています(最二小判昭和48年3月2日)。つまり労働者が有給の申請をした場合、会社の承諾を必要とすることなく有給休暇が成立し、会社は時季変更権の行使をするかしないかの判断しかできないということです。

時季変更権とは

上記のように有給休暇は原則として労働者の権利であり申請すれば当然に成立することになります。しかし会社にとっては時期や時間によっては労働者側の都合で自由に有給を取られては非常に不都合な場合もあるでしょう。そこで39条5項但書では「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」としています。「正常な運営を妨げる」とは事業所の規模、業務内容、当該労働者の職務内容、性質、職務の繁閑、代替要員確保の難易、同時期に申請した労働者の数、その他慣行などを判断要素として判断するとされております。そして会社が労働者に有給申請の理由を聞くことができるのは、この判断のために必要な場合のみとされております(最判昭和57年3月18日)。またこれとは別に、申請する場合は「3日前までに申請する」などと就業規則で定めることが一般的です。有給申請についてこのような定めは裁判例でも合理的な範囲であれば有効としています。

年次有給休暇の時効

年次有給休暇は2年で時効消滅します(115条)。これは上記の発生要件を満たした日を基準とします。つまり6ヶ月間勤務して8割以上の出勤日数を満たしていた場合、その日に取得し、その日から2年で消滅することになります。つまり2年間は有効であり、その年度に消化してしまわなかった場合は、残りの日数は次年度に繰り越すことができるとされております(厚労省通達昭和22年12月15日)。つまりその年度に1日も有給を取得していなかった場合、翌年はその年の分も含め最大で40日の有給取得も制度上は可能ということになります。

コメント

以上のように年次有給休暇は労働基準法上、労働者に当然に付与される権利です。例外として会社が拒否できる場合である時季変更権も「労働基準法39条の趣旨に反し、休暇を取得させるための状況に応じた配慮を欠いているときは、5項但書の事業の正常な運営を妨げる場合には該当せず、時季変更権の行使は違法となる」とされており、もっぱら会社側の都合だけで拒否した場合は時季変更権の濫用となり違法となる場合があります(最判平成4年6月23日)。上の判断要素を踏まえて、法の制度趣旨を逸脱しないよう、労働者側に配慮をした上で時季変更権を行使することが必要です。また行使手続きについても会社の事業に支障を来さないよう、また労働者側に過度な負担を負わせないよう「合理的な範囲」調整した就業規則を定めることが必要です。政府は2020年までに取得率を70%以上にすることを目標にしており、違法労働で摘発された電通も取得を義務化するなどとしております。有給は従業員の心身の健康管理上、非常に有用と言えます。今一度有給制度を見直すことが重要と言えるでしょう。

関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

法務コラム 法務ニュース 労務法務 労働法
『事例で学ぶ 労務問題解決のセオリー講座』~IRACをきちんと回して解決する労務問題~
2018年08月01日(水)
13:30 ~ 16:30
18,000円(税込)
東京都新宿区
講師情報
登島 和弘
サイネオス・ヘルス合同会社
アジア太平洋地域法務責任者

1961年神戸市生まれ
中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、日本AT&T㈱(米系)契約課長、松下冷機株式会社法務室主事、
セジデム株式会社(仏系)コーポレートサービス部統括部長・法務部長兼任等、を歴任し、現職。
*企業名は当時のまま。
※日本企業・外資系企業双方で通算30年以上の企業法務・国際法務の経験を有する現役の企業法務責任者です。
当社は、東京にて、企業法務パーソン(企業法務担当者・インハウスローヤー等)のためのビジネススクールを運営しています。
企業法務にまつわる「知識」を学ぶ研修・講座は世の中に数多くありますが、当社が運営するリーガルビジネススクール(LBS)は、
法務担当者としての「思考方法」や「仕事術」を学ぶことに焦点を当てています。

今回は、『事例で学ぶ 労務問題解決のセオリー講座』を開催いたします。

★「休業手当は平均賃金の60%でいいんじゃないの?100%払えって、弁護士名で手紙が来たけど。。。!!」
★「先日入社したAさん。実は逮捕歴があったらしいの。そんなこと、人材紹介業者は何も言ってなかったけど、どうしよう。」
★「裁判所から“債権差押命令”っていうのが来たけど、どうすればいいの?ウチの社員に給料を払っちゃいけないらしんだけど、ホント?」
★「この間辞めた営業部長、ライバル会社で働いているらしいけど、それって問題ないの?」
★「Bさんともう3日連絡が取れていません。電話してもでないし、メールも返信なし。自宅に直接行っても誰もでない。どうすればいい?」

なくなってほしいけれど、そう簡単になくならないのが労務問題。企業が人の集団である以上、労務問題から解放されることはおそらくないでしょう。
そうであるならば、法務担当者や人事担当者は、勘や経験のみに頼ることなく、こうした問題への適切なアプローチを理論として学ぶことがとても重要だと考えます。

本講座では、人事部長も務めたことのある現役の企業法務責任者が講師として、上述の事例をベースに、IRAC* (*Issue, Rule, Application and Conclusion)の手法を用いて、
企業における労務問題への適切なアプローチ ー解決に向けて踏むべきステップー を解説し、またこうした問題への予防策にも言及してまいります。
申込・詳細はコチラ
法務コラム 法務ニュース 労務法務 労働法
第101回MSサロン(名古屋会場)
2018年08月02日(木)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「取引基本契約書 ~ その作成・交渉の実務及び民法改正に対応する場合の留意点」です。
申込・詳細はコチラ
法務コラム 法務ニュース 労務法務 労働法
【名古屋】共同開発契約/ライセンス契約《法務担当者のための英文契約セミナー:第6回》
2018年07月25日(水)
15:00 ~ 17:00
8,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
英文契約をこれから担当・現在担当している法務担当者の方などを対象としたセミナーです。第6回目のセミナー内容は共同開発契約/ライセンス契約です。
申込・詳細はコチラ
法務コラム 法務ニュース 労務法務 労働法
【名古屋】ジョイントベンチャー契約/株主間契約《法務担当者のための英文契約セミナー:第7回》
2018年08月08日(水)
15:00 ~ 17:00
8,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
大久保 裕史
弁護士・NY州弁護士

グローバルに展開する大規模法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所において、国際的な企業法務を取り扱い、国内外の企業に法的助言を行う。その間に、国内大手商社法務部への出向やワシントンD.C.での勤務も経験。現在は、オリンピア法律事務所のパートナーとして、主に中部圏の企業の国際取引・海外進出をサポートしている。

略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
2016年5月 ニューヨーク州弁護士登録
2018年5月~ オリンピア法律事務所 パートナー
英文契約をこれから担当・現在担当している法務担当者の方などを対象としたセミナーです。第7回目のセミナー内容はジョイントベンチャー契約/株主間契約です。
申込・詳細はコチラ
法務コラム 法務ニュース 労務法務 労働法
【名古屋】AIに関する法律問題《ITビジネス法務勉強会:第3回》
2018年08月09日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介 杉谷 聡
■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■杉谷 聡
略歴:
愛知県一宮市出身
愛知県立一宮高等学校卒業
2016年 一橋大学法学部卒業
2017年 弁護士登録(70期 愛知県弁護士会)
オリンピア法律事務所入所
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第3回目のテーマはAIに関する法律問題です。
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

西武HD再上場めぐり対立泥沼化 米サーベラス、西武HDにTOB実施へ... 概要 西武ホールディングス(HD)の筆頭株主である米投資ファンドのサーベラスは11日、西武HDの株式を買い増すため、株式公開買い付け(TOB)を実施すると発表した。出資比率を現在の32.4%から、株主総会で特別決議を拒否できる3分の1超へ引き上げ、経営への影響力を強める。6月の株主総会で、五味広文...
電子書籍化 著作権者への利益還元について提言?... 以前、法務ニュースサイトでも取り上げた「電子書籍化」についてであるが、この度、「自炊の森」において、新たなサービスが提言されている。 「自炊の森」サイトにおいて、1冊あたり定価の10%(印税相当)を著作権者に支払う用意があるという。こちらは、本を業務上で使用する許諾を得る対価と考えているようだ(...
【ベトナム】外国人労働者の労働許可証に関する新たな通達... ベトナム政府はこのほど、外国人労働者の労働許可証に関する通達(Circular 03/2014/TT-BLDTBXH)を発した。これによって、2013年の改正労働法施行規則において、労働許可証取得の部分にあった不明確さが明確化されることとなった。  企業は外国人労働者を雇用するにあたり、事前に外国...