日本郵便の「ゆうメール」、商標権侵害でサービス名使用差し止め!
2012/01/14 商標関連, 商標法, その他
日本郵便の「ゆうメール」、商標権侵害でサービス名使用差し止め!
東京地裁は12日、日本郵便の配達サービス「ゆうメール」が、自社の商標権を侵害しているとして、札幌市のダイレクトメール業者がサービス名の使用差し止めを求めていた裁判で、日本郵便の商標権侵害を認め、DMなど広告物を配達する際の同サービス名の使用中止を命じた。
日本郵便は、この判決を不服として、即日控訴している。
時系列
◆平成15年4月
原告会社が「各戸に対する広告物の配布など」の分野の商標として「ゆうメール」を特許庁に出願。
◆平成16年4月
日本郵便が、同じく「各戸に対する広告物の配布など」の分野の商標として「ゆうメール」を特許庁に出願。既に原告会社が同内容の出願を行っていたため、これは認められなかった。そのため、「郵便、メッセージの配達など」の分野の商標として「ゆうメール」を特許庁に出願した。
◆平成16年6月
原告会社が出願していた「ゆうメール」が商標登録された。
◆平成16年11月
日本郵便が同年4月に出願していた「郵便、メッセージの配達など」の分野の商標としての「ゆうメール」が商標登録された。
日本郵便側の主張
1 商標権侵害の事実はない
日本郵便の「ゆうメール」サービスは荷物の運送サービスであり、原告会社が商標権を有する「各戸に対する広告物の配布など」の分野には当てはまらない。
2 原告会社の商標は無効
日本郵便は、原告会社が「ゆうメール」の商標登録を行うより以前に「ゆうパック」の商標を登録していた。両サービス名は極めて類似するものであり、原告会社の「ゆうメール」の商標は本来無効とされるべきものであった。
※商標権侵害とは…
商標権者は、商標登録の際に、商品またはサービスを指定して商標登録申請を行うが、その際に指定した商品又はサービスについて登録した商標を使用する権利を商標登録から10年間専有する。
そのため、同一の指定商品・指定サービスについて、他者が同一の商標を使用すれば、商標権の侵害とされる。また、同一の指定商品・指定サービス又は類似する商品・サービスに登録した商標と類似した商標を使用すれば、それもまた商標権の侵害とされる。
※日本郵便の「ゆうメール」
広告物や書籍など重さ3キロ以内の荷物を宅配便の「ゆうパック」より安価で配達するサービス。
※原告会社の「ゆうメール」
各社の広告を郵送にて配送するサービス。
裁判所の判断
1 商標権侵害について
阿部正幸裁判長は、日本郵便が自社のゆうメールの宣伝において、広告物の配送にも同サービスを利用出来ると宣伝している事実を重く見て、「日本郵便のゆうメールは、原告会社のサービスと少なくとも類似の関係にある」と認定し、日本郵便の商標権侵害を認めた。
2 原告会社の商標の有効性について
「ゆうパック」と「ゆうメール」は、それぞれの言葉が与えるイメージが異なることなどから類似性は乏しく、原告会社の商標は有効であるとして、日本郵便側の主張を退けた。
雑感
今回、問題となった日本郵便の「ゆうメール」だが、平成19年に日本郵便が民営化で発足した際に、もともと使用していた「冊子小包」というサービス名を「ゆうメール」に変えたものである。
正直、平成16年の4月に一度、「ゆうメール」の商標登録に失敗した際に、このような事態は容易に想像出来た気がする。それにも関わらず、日本郵便が、「ゆうメール」の名で広告の配送サービスを行う方針を採用したこと、「ゆうメールで広告が配送できます」と宣伝を行ったことが不思議でならない。民営化の混乱の中で、営業部門と法務部門との間での何らかのコミュニケーショントラブルがあったのだろうか。
いずれにせよ、昨年10月現在における日本郵便のゆうメール取扱数は月あたり約2億5000万通にものぼる。これだけ普及したサービスの名称の変更を迫られ、また、これを宣伝したカタログの廃棄を命じられた場合、日本郵便側の被る損害は計り知れない。ゆうメールに代わる新たな名称を消費者に周知させるプロモーション活動を行う必要もあるだろう。
商標権侵害の問題は、得てして、それなりの認知度を得てから顕在化することが多い。企業側としては、サービス名の決定の際は、いかにキャッチーな名称にするかという点(営業の観点)を最重要視するが、商標権の侵害に細心の注意を払わなかった場合、その代償は小さくないのである。「営業」と「法務」、この両者が噛みあって初めて企業の経営が安定する。その典型的な事例であったと言えよう。
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