東京ガス社員自殺をめぐる訴訟、フキハラを理由に労災認定 ー東京地裁
2026/04/22 労務法務, ハラスメント対応法務, 労働法全般, エネルギー関連

はじめに
うつ病で自殺した東京ガスの男性社員に労災を認めなかったのは不当だとして、遺族が労基署による処分の取消を求めていた訴訟で東京地裁が労災を認めていたことがわかりました。フキハラが精神的負荷になったとのことです。今回はフキハラについて見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、男性は2017年に東京ガスに入社し、18年春に子会社に出向して経理や財務を担うグループに配属されたものの、同年8月にうつ病を発症して自殺したとされます。
男性の直属の上司は賞与の面談で「いつまでもお客様じゃどうかな?」などと言ったり、男性が作成した資料に「今作ってもしょうがないじゃん」ときつい口調で指導するなど、厳しい態度で繰り返し接していたといいます。
男性の両親は配置転換や上司とのトラブルが影響したとして三田労基署に労災申請しましたが、労災認定はされなかったとのことです。
そこで、男性の両親は、労災を認めないとした労基署の処分の取消を求め東京地裁に提訴していました。
フキハラとは
近年、「フキハラ」による労災訴訟や懲戒処分などが増加傾向にあります。では、この「フキハラ」とはどういうものを言うのでしょうか?
フキハラとは一般的に「不機嫌ハラスメント」の略で、上司が日常的に不機嫌な態度で部下に接し、部下を萎縮させて就業環境を悪化させる行為を言うとされています。
現時点ではフキハラについて明確な定義を設けている法令やガイドラインは存在しませんが、パワハラ規制の範囲で処理されることが一般的と言えます。
フキハラの一番大きな特徴としては、通常のパワハラと異なり、はっきりとした暴言や暴力といった行為がないという点が挙げられます。
しかし、日常的に悪感情や不機嫌な態度を露骨に顕にし、部下や周囲の人間を萎縮させ、就業環境に多大な影響を与え得る行為であるといえます。
パワハラ規制
現在、パワハラについては労働施策総合推進法、いわゆるパワハラ防止法によって規制されています。パワハラ防止法30条の2第1項では、「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理条必要な措置を講じなければならない」と定めています。
このパワハラの定義から要素を抜き出すと、
(1)優越的な関係を背景とした言動
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
(3)労働者の就業環境が害されること
となります。
そして、厚労省のガイドラインではパワハラに該当する行為として、脅迫や名誉毀損、侮辱やひどい暴言といった精神的な攻撃、隔離や仲間はずれ、無視といった人間関係からの切り離しなどが挙げられています。
2026年10月施行予定の改正点
2025年6月4日に成立した改正労働施策総合推進法が今年10月1日に施行予定となっています。改正内容は大きくは、(1)ハラスメント対策強化、(2)女性活躍の推進、(3)治療と仕事の両立支援の推進となります。
まず、ハラスメント対策強化としては、事業主にカスハラ防止のための雇用管理上必要な措置の義務付けと、カスハラに起因する問題に関する国と事業主、労働者や顧客等の責務も明確化されます。
また、求職者等に対するセクハラ防止と事業主に雇用管理上必要な措置の義務付け、職場でのハラスメント防止についての国民の規範意識醸成のための啓蒙活動などが盛り込まれています。
次に、女性活躍推進については、常時雇用する労働者の数が101人以上の事業主に男女間賃金差異と女性管理職比率の情報公開が義務付けられます。
また、女性活躍推進法の有効期限を令和18年3月31日まで10年間延長し、女性の健康上の特性に配慮すべき旨を基本原則において明確化しています。
さらに、プラチナえるぼしの認定要件に求職者等に対するセクハラ防止措置の内容を公表していることが追加されます。
そして、事業主に対し、職場における治療と就業の両立を促進するため必要な措置を講じる努力義務が課され、ガイドラインも整備されます。
コメント
本件で東京地裁は、男性が所属していたグループが3人の小規模グループであり、十分な支援・フォローがなされていなかったことを指摘。
さらに、直属の上司のきつい口調での指導や繰り返し厳しい態度で接していた点を重視し、「相当の疎外感や無力感を味わっていたであろうことが想像に難くなく、相当の精神的負荷があった」としてハラスメントを認定し、労災を認めています。
原告代理人は、明白なパワハラとは言い難い不機嫌ハラスメントを重く見た判断と評価しています。
以上のように、いわゆるフキハラも優越的関係を背景としつつ業務上必要かつ相当な範囲を超えた場合は、パワハラの一種として違法な行為となる可能性があるといえるでしょう。
近年では、実際にフキハラで懲戒処分が出されている例も存在します。社内でパワハラやセクハラ、カスハラと合わせてフキハラについてもその要件やリスクなどを周知し、良好な就業環境の維持に努めていくことが重要といえます。
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