東京地裁が医師の過重労働に労災認定、労基法の宿日直許可とは
2026/04/06 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 医療・医薬品

はじめに
くも膜下出血で寝たきり状態になった東京大学医科学研究所付属病院(港区)の50代男性医師が、過重労働による労災認定を求めていた訴訟で東京地裁が労災を認めていたことがわかりました。宿直中も業務から解放されていたとは言えないとのことです。
今回は労基法が規定する宿日直許可について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告の男性は東京大学医科学研究所付属病院の緩和医療科で勤務していました。2018年11月にくも膜下出血で倒れましたが、発症前1~6か月の時間外労働は過労死ラインを大幅に超えていたといいます。
原告男性は、三田労基署に労災申請をしましたが、労基署側は「午後5時15分から翌朝午前8時半の15時間15分のうち、少なくとも6時間は仮眠が取れていた」などとして、宿直時間分を総労働時間から差し引き、労災認定をしなかったとのことです。また、東京労働局の審査官も病院が宿日直許可を得ていた事実を重視し、宿直中の労働時間をゼロとして判断したとされます。
三田労基署や東京労働局の認定結果を受けて、原告男性は東京地裁に訴訟提起。
原告側は、「重症患者の急変対応は看護師からの呼び出しを常時受けられるようにしており、緊張状態にあった」と主張するなど、「宿直時間が労働時間に該当するか」が主な争点となっていました。
労基法による規制
労働基準法では労働者の労働時間や休憩、休日などについて厳格な規制を置いています。まず、労働時間については、使用者は労働者に1日8時間、週に40時間を超えて労働させてはならないと規定されています(32条1項、2項)。これを超えて時間外労働をさせるには労使協定を締結し労基署に届け出る必要があります(36条1項)。
次に、休憩については労働時間が6時間を超える場合は最低45分、8時間を超える場合は最低1時間の休憩時間を労働時間の途中に与える必要があります(34条1項)。この休憩時間は原則として一斉に与えなければならず、また、休憩時間は労働者の自由にさせる必要があります(同2項、3項)。
そして、使用者は労働者に原則として毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないとされます(35条1項)。例外として4週間を通じ、4日以上の休日を与える使用者については適用されないとされています(同2項)。
宿日直許可とは
上記のように労基法では労働者の労働時間や休憩、休日に関する規定が置かれていますが、労基法41条3号では、「監視又は継続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの」についてはこれらの規定は適用しないとしています。これを「宿日直許可」と言います。
宿直や日直といった業務では通常の業務と異なり心身への負荷が比較的小さく、また厳密な労働管理になじまない場合も多いことからこのような業務にも一律に労基法の規定を適用することが適切ではないとされます。そこで、一定の場合に許可を得た宿日直では労働時間や休憩などの規定が適用されないこととなります。
つまり、許可を受けた宿直や日直では時間外労働は無く、割増賃金も発生しないということです。
宿日直許可の基準
それではどのような場合に宿日直許可が出されるのでしょうか。厚労省のパンフレットによりますと、
(1)常態としてほとんど労働をする必要がないこと
(2)基準で定める最低額以上の宿日直手当が支払われること
(3)宿直勤務は週1回、日直勤務は月1回を限度とすること
となっています。
定時巡視や緊急の文書または電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とする労働が対象となっています。始業または終業時刻に密着した時間帯に顧客からの電話対応や盗難・火災防止を行うなど、通常の労働の継続は原則として許可の対象とならないとされます。また、宿日直の回数については人手不足や勤務の労働密度が薄い場合などは上限回数を超えて許可が出されることもあります。
なお、宿日直許可を得た宿日直勤務でも突発的な事故による緊急対応など、本来通常の勤務時間に従事するような業務が発生した場合は、その時間については労基法の規定が適用となり、時間外労働手続きや割増賃金の支払が必要となります。
コメント
本件で東京地裁は、原告男性に宿直時の対応やカルテの作成のほか、院外に出られない実態があったとし、待機を主とするものとはいえないと指摘しました。また、仮眠時間についても看護師からの呼び出しの可能性など一定の緊張常態にあったとして宿直時間は労働時間に当たるとし労災を認めました。
以上のように労基法の宿日直許可は常態としてほとんど労働をする必要がないような場合に認められるものです。特に医師や看護師など医療従事者については許可基準に通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものである必要があり、十分な睡眠がとり得ることなどが盛り込まれています。
従業員の休憩時間や仮眠時間が会社の指揮命令下から離れ、十分な休養を取れるものとなっているかを自社で確認し、環境を整えていくことが重要と言えるでしょう。
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