医学生への貸与金制度、県内勤務9年を条件とする高額違約金条項は不当 ー甲府地裁
2026/01/22 契約法務, コンプライアンス, 消費者契約法

はじめに
山梨県が実施する大学医学部生向けの修学資金貸与制度をめぐり、違約金条項の差止めを求めた訴訟で、甲府地方裁判所は20日、当該条項の差止めを命じる判決を下しました。
定められた違約金が「平均的な損害」を超えており、不当であるとのことです。
今回は、消費者契約法における違約金条項の規制について見ていきます。
事案の概要
報道によれば、山梨県は2019年、県内の医師不足解消を目的として「地域枠等医師キャリア形成プログラム」を策定し、山梨大学医学部などの地域枠学生に対し、6年間で総額936万円の修学資金を貸与する制度を開始しました。
本プログラムでは、医師免許取得後9年間、県内の病院で勤務した場合には返済が免除されますが、条件を守らなかった場合には年10%の利息が付されて返済が求められ、加えて最大842万円の違約金を支払う旨の条項が盛り込まれていました。
こうした違約金条項が消費者契約法に違反するとして、NPO法人「消費者機構日本」(東京)が県を相手取り、条項の差止めを求めて提訴していました。
これに対し県側は、医師は「事業者」に該当し、消費者契約法の適用対象外であると反論していたとされています。
消費者契約法の不当条項規制
消費者契約法は、消費者と事業者との間に存在する情報や交渉力の格差を是正し、消費者を保護することを目的としています。そのため、消費者の利益を不当に害する条項は無効とされています。
まず、同法8条では、事業者の損害賠償責任を免除する条項などが無効とされています。具体的には、事業者による債務不履行や不法行為によって消費者に生じた損害について、責任を免除したり、責任の有無を事業者が一方的に決定できるような条項が該当します。
また、消費者の契約解除権を放棄させる条項や、消費者が後見開始の審判を受けたことのみを理由に事業者に解除権を認める条項も無効とされています(8条の2、8条の3)。
さらに、消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項のうち一定の要件を満たすもの、その他消費者の利益を一方的に害する条項のうち一定の要件を満たすものが無効となっています(9条、10条)。
無効となる違約金条項
消費者契約法9条1項1号では、契約解除に伴う損害賠償の予定または違約金について、解除の事由や時期などの区分に応じて、同種の契約において事業者に通常生じる「平均的な損害の額」を超える部分が無効とされています。
また、同条1項2号では、消費者側が支払期日までに支払わない場合における損害賠償の額の予定または違約金を定める条項であって、これらを合算した額が支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ支払期日に支払うべき額から支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に「年14.6%」の割合を乗じた額を超える部分が無効とされています。
1号に関しては平均的な損害の額を超えるような違約金の設定については超えている部分につき無効となります。2号はややわかりにくい規定ですが、賃貸借契約における家賃などについては年利14.6%を超える遅延損害金の部分について無効ということです。
また、同条2項では消費者から説明を求められた場合、事業者にはその算定根拠の概要を説明する努力義務が課されています。
平均的な損害の額とは
消費者庁が公表する逐条解説によれば、9条1項1号における「平均的な損害の額」とは、同一事業者が締結する多数の同種契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額を指します。
つまり、複数の契約において同一条件下で解除された場合に、事業者が被ると想定される損害額の平均値が基準となります。
この損害額は契約時点で事前に算定可能とされており、事業者に対し、実際に生じ得る平均的損害額を上回る賠償請求を認める必要はないと考えられています。
コメント
本件で甲府地裁は、
・他自治体の類似プログラムではこのような高額な違約金条項は見られないこと
・修学資金と利息の返還で県の損害は補填可能であること
などを指摘し、違約金が平均的な損害を超えており不当であると判断しました。
修学資金の貸与制度において、違約時の返還義務に加えて最大842万円の違約金を課す条項は、同種の契約における損害額の平均値を大きく上回ると見なされたものと考えられます。
このように、消費者契約法は、消費者に一方的に不利益をもたらす条項や、平均的な損害を超える違約金条項については無効とする仕組みを設けています。
もっとも、損害賠償額の予定や違約金条項自体が無効というわけではありません。また、消費者契約法ではこれらの規定に違反した場合でも罰則等は現時点では規定されていません。
企業としては、契約書や約款において相手方に一方的に不利な内容が含まれていないかを確認し、必要に応じて社内での見直しや周知徹底を行うことが重要です。
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