従業員に出向先探しを1年以上させた旭化成エレクトロニクスに賠償命令 ー東京地裁
2026/01/14 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, メーカー

はじめに
配置転換後、自ら出向先を探すよう迫られたとして「旭化成エレクトロニクス」の社員が同社に330万円の損害賠償を求めていた訴訟で東京地裁が13日、55万円の賠償を命じていたことがわかりました。実質的な退職勧奨に当たるとのことです。
事案の概要
報道などによりますと、旭化成の子会社「旭化成エレクトロニクス」の50代の男性社員は、2023年9月に半導体などの製品開発関連の部署から人事室付への異動を命じられたとされます。
その後、男性は「社内の制度に基づいて、旭化成グループ外への出向や転籍先探しに取り組むよう」言われ、旭化成本社の人事担当者とのウェブ面談や履歴書の作成をしていたといいます。ちなみに、その間、社用の携帯電話や名刺は与えられなかったとのことです。
その後、2024年1月、会社側は、解決金と退職金計6000万円を支払うことを条件に退職することを提案したものの、男性は拒否し提訴に踏み切ったとされています。
男性は配置転換により命じられた業務は転職活動であったが、転職活動が「業務」ということは有りえず、配置転換命令自体が違法だったと主張していました。
退職勧奨とは
退職勧奨とは、会社が従業員に退職してほしいと提案する行為をいいます。あくまでも会社からの提案に過ぎないため法的拘束力はなく、従業員に同意の義務はありません。そのため、解雇や自己都合退職とも性質が異なります。
退職勧奨のメリットとしては、解雇よりも法的リスクが低く条件や時期を柔軟に設定できること、そして従業員側にとっても退職金や再就職支援が受けられること、失業給付を早く受けられることといった点が挙げられています。
しかし一方で、会社からの提案の程度が強い場合、実質的に解雇や退職の強制と従業員に取られ、その後紛争に発展することもあり得ます。
一旦は退職届を提出して退職した従業員から提訴され、退職が無効と判断された例も存在します。
それでは、どのような場合に違法な退職勧奨となるのでしょうか?以下、具体的に見ていきます。
退職勧奨が違法となる場合
退職勧奨に関する東京地裁平成23年12月28日の判例によると、「退職勧奨は対象となった労働者の自発的な退職意思の形成を働きかけるための説得活動であるが、これに応じるかは労働者の自由な意思に委ねられるべきもの」とされています。
また、会社側の説得活動については、「手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り、使用者の正当な業務行為として行うことができる」とした上で、「社会通念上相当と認められる限度を超えて不当な心理的圧迫を加えたり、名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりすることによって、その自由な退職意思の形成を妨げる行動は許されない」と示しています。
つまり、退職勧奨は社会通念上相当と認められる範囲で従業員の自由意思を尊重して行わなければならないということです。
退職を拒否した従業員に長時間、複数回の勧奨を行ったり、居残りを命じた上で勧奨を行うこと、他の従業員が見ている場で勧奨を行うこと、従業員を侮辱したりキャリアや人格を否定するような発言や、応じない場合は解雇するといった発言は、違法となる可能性が高いといえます。
その他の退職勧奨に関する裁判例
退職勧奨が違法と判断された事例として、東京地裁平成27年7月15日判決があります。これは、退職勧奨の際に誤った情報を提供され、病状が回復したことを示す診断書の提出ができなければ復職が不可能と誤認して退職の意思表示をした事案です。
本件で東京地裁は、「元従業員の退職の意思表示は錯誤により無効である」と判断しました。
成績不良により退職勧奨が繰り返されたものの退職に応じなかった従業員に仕事を与えず、会議室で簿記の学習をさせていたという事案もあります。
これについて裁判所は人格権を侵害する違法行為であるとし、損害の賠償を命じています(東京地裁令和2年9月28日)。
また、出退勤時刻で虚偽の入力をしていた従業員に対し会社側が、「自主退職を申し出るか、会社から放逐されるか決めてほしい」「懲戒解雇は退職金は出ない、会社は必ず処置する」などと迫り、退職しなければ懲戒解雇されると誤信した従業員が退職した事案では、動機に錯誤があるとして雇用契約上の地位を認め、賠償を命じています(東京地裁平成23年3月30日)。
コメント
本件で東京地裁は、配置転換命令自体は業務上の必要性があったとしつつ、旭化成という日本有数の企業グループ内で配属先を全くみつけられないことは想定しがたく、1年を超えて外部の出向先を探し続けさせることは違法だとして、55万円の賠償を命じました。
実質的な退職勧奨であり、社会通念上相当な範囲を超えた行為と認められたのではないかと考えられます。
以上のように、退職勧奨はあくまでも会社からの提案であり、合意するかどうかは従業員の自由意思に委ねられています。
拒絶の意思を表示しているのに執拗に勧奨を繰り返したり、応じなければ解雇にするといった発言は違法と判断される可能性が高いといえます。
普通解雇や懲戒解雇、整理解雇と同様に退職勧奨にも適法性の基準が存在しています。
これらを踏まえて慎重に手続きを進め、紛争を防止していくことが重要といえるでしょう。
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