飲み会でのセクハラに初の労災認定 ー大阪地裁
2025/12/16 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般

はじめに
会社の3次会で上司からセクハラを受けたことをきっかけに休業を余儀なくされたとして、ITエンジニアの女性が労災認定を求めていた訴訟で15日、大阪地裁が労災を認める判決を出していたことがわかりました。誘いを拒絶することが困難な状況であったと認定されたとのことです。
今回はセクハラと労災認定について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告の30代の女性は有期雇用6ヶ月の契約でIT関連企業の西日本支社に勤務していたとされます。女性は2019年6月に東京出張を命じられ、業務後に開かれた会社主催の懇親会に出席し、その後、西日本支社長らとの2次会・3次会に参加したとのことです。
3次会はガールズバーで開催され、支社長の指示で女性店員とのキスや身体接触を強要され、同年6月下旬頃に適応障害を発症したとされています。
労働基準監督署は3次会への出席は個人の意思であったとして労災を認めず。これを受け、女性は労災を認めなかった国の処分の取消を求め大阪地裁に提訴していました。
セクハラと労災認定
会社でセクハラを受けたことによって精神疾患を患った場合でも、労災認定を受けられる可能性があります。
ここで「セクハラ」とは、(1)他の者を不快にさせる職場における性的な言動、(2)従業員が他の従業員を不快にさせる職場外における性的な言動とされています。
それでは、具体的にどのような場合にセクハラによる労災が認められるのでしょうか。
厚労省のHPによりますと、精神障害の労災認定要件は、(1)認定基準の対象となる精神障害を発病していること、(2)精神障害の発病前おおむね6ヶ月間に業務による強い心理的負荷が認められること、(3)業務以外の心理的負荷や個体側要因により精神障害を発病したとは認められないこととなっています。
認定基準の対象となる精神障害とは、国際疾病分類(ICD‐10)に分類される精神障害を言い、業務に関連して発病する可能性がある精神障害の代表的なものとしては「うつ病」や「急性ストレス反応」などが挙げられています。
業務による強い心理的負荷
上でも触れたように、精神疾患による労災認定では「業務による強い心理的負荷」が判断要素の1つとなっています。
これは発病前おおむね6ヶ月に起きた業務による出来事について、心理的負荷の程度を「強」「中」「弱」の3段階で総合評価するとされています。
強制性交や本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などは「特別な出来事」として心理的負荷の評価は「強」となります。
特別な出来事がない場合は、その行為の内容、程度等や継続する状況、セクハラを受けた後の会社の対応および内容、改善の状況、職場の人間関係などを総合評価して負荷の強度を判断することとなります。
具体的には、胸や腰などへの身体接触について継続して行われた場合や、会社に相談しても対応が無く改善されなかった、または相談したことにより職場での人間関係が悪化したといった場合は、心理的負荷は「強」となります。会社による対応が適切でその後は行為がなくなった場合は「中」となります。
飲み会と労災
それでは、飲み会の際の傷病で労災は認められるのでしょうか。
この点について通達では、労働者が被災当日において業務に従事することになっていたか否か、または現実に業務に従事したか否かが問題となるとし、事業主の命によって労働者が拘束されないような同僚の懇親会や送別会への参加等も業務とはならないとしています。
そして労災を肯定した事例として、会社が主催した外国人研修生との親睦を図ることを目的とした歓送迎会に会社から参加を要請され、終了後に研修生らを送迎する途中で交通事故にあったという例があります(最高裁平成28年7月8日)。
この事例で最高裁は、歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、研修生らをアパートまで送ることについて明示的な指示がなかったことを考慮しても、会社の支配下にあったと言うべきであるとしました。
このように、飲み会等における災害では、「なお会社の支配下にあった」と認められる特段の事情が無い限り、原則として労災認定されにくい傾向があります。
コメント
本件で大阪地裁は、原告女性の3次会への参加は業務そのものではなく私的な行為としつつ、出張前に支社長が女性に業務後の日程を空けておくよう指示していたことを指摘し、3次会への出席は出張の行程に組み込まれていたと認定しました。
さらに、有期契約社員であった女性の正社員登用に支社長が強い影響力を持っていた点にも着目。「誘いを断るのは困難であった」として、3次会は事業主の支配下にある状態で行われたと認定し、労災を認めました。2次回・3次会でのセクハラによる労災認定は初とされています。
以上のように、行為の内容や程度、会社の対応などにもよりますが、セクハラによる精神疾患を従業員が患った場合、労災認定がなされる可能性があります。
また、本件のような業務とは離れた会でのセクハラによる場合も、労災が認められる可能性が出てきたと言えるでしょう。
忘年会や新年会のシーズンが到来していますが、セクハラやパワハラなどの行為が生じないよう社内で周知して予防しておくことが重要です。
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